狩りと、アオ
大体この付近は全て捜索したと思うけど、ちょっと足をのばして今日は、沼の向こう側とか行ってみようかな。
山菜に目を光らせながら、道なき道を進む。とはいえムーンの背中に乗ってだが。
キノコは多い。きっと魔物はキノコになど興味を示さないからだろうな。
魔物の姿を見ると私はすぐに降りるけど、私が何かする前には大概戦闘は終わっている。
うわ。リアルオークだ。ダンジョンのより少し背が高い。そしてチャチャが狙われている!
チャチャが怯えているみたいだ。ダンジョンのオークと何が違うのだろう?
強さ的には変わらない。ただ丸々1頭分、そしてせめて血抜きだけはしないと。
近くの木の枝に吊るしたけど、枝の方が負けそうだな。なら木魔法で木の方も強化しよう。
(大丈夫?チャチャ)
(平気。ただ、ああいう視線を浴びたのは初めてだったから)
ああいうってどういう?
(オークは雌の産まれる割合が少ないから、他種族の雌を攫って種付けするのよ)
ああ。異世界あるあるだね。
(私もエメルもいたよね?)
フレイは見えなかったとしても。
(私は卵生だもの。ユーリは…まだ小さ過ぎるからかしら)
雌認定されてなかったんだね。いいことだけど、ちょっと釈然としない。
解体して魔石を取って、要らない部位は燃やす。
血の匂いに寄ってきた魔物は、ムーンが威圧で追い払ってくれた。
ホーンラビットは丸々1頭食べていたけど、ムーンの食欲を私の料理だけで補うのは難しいから仕方ない。
(この匂い!カシオブツだ!)
(こら!一人で行ったら危ないよ!)
!モコ
木の上から襲ってきた巨大な蛇に、私は咄嗟に雷魔法を当てた。
モコはすぐに気がついて素早く避けた。
すぐにリカバリーしてしまった蛇に、エメルが体当たりをした。
ムーンも噛みつく。私もブレードディアの双剣で、太い胴体に斬りつける。
やっと絶命した。
鑑定 グリーンアナコンダ 蛇系魔物で、相手に巻きついて攻撃して、丸呑みにする。美味
さっきのオークといい、この辺は家の周りより魔物が強いな。
(ごめんなさい。ユーリ)
(そんなんでよく野生で生きていたな)
(モコは卵から私が孵したんだよ。だから野生味がなくても仕方ないのかも)
(アンゴラキャットが卵…?まあいい。これからは警戒を怠るなよ)
(うん。ごめんなさい)
とりあえずカシオブツの木も切り倒して収納庫にしまった。
うん。私も最大限警戒しよう。それにしてもこの辺はキノコの宝庫だな。
たくさんのキノコと山菜。それと食用魔物も手に入った。けど、魔物には気を付けないといけないな。
グリーンアナコンダは、照り焼きにしてみた。脂の乗った身には、味がよく染みこむ。前に食べたイエローバイパーよりも脂が乗ってて、歯ごたえもあって美味しい。
何しろ太いし長いから、身はまだたくさんある。
蛇、侮りがたし。
オーク肉はベーコンにしようかな。冬になったら何も出来なくなるから、今のうちにできる事をしておかないと。
冬になる前に、アオさんの所にも行ってベリーを摘ませて貰おう。
ムーンにまたお願いして、今回はムーンの様子がおかしくなったらすぐに降ろしてもらった。
(くれぐれも気を付けてな)
(うん。大丈夫)
結局アオの事は言えてない。まあ、仕方ないけど。
「やあ、ユーリ」
何の前触れもなく、気配もなしに現れたから驚いた。
「あ、アオさん、心臓に悪い」
「今日も採掘?」
「いえ、ベリー摘みです」
「そう。ならこっち」
アオは優しく笑って先を歩いて行く。ちょっとだけずうずうしいかと思ったけど、大丈夫のようだ。
「うわ…これって育てているんですか?」
「暇だからなんとなくね。でも毎年食べきれない」
山を少し登った所にあるそこは、一面のベリー畑。その向こう側にはリコッタの実が実っている。
「好きなだけ摘んで」
秋にも実る果実が豊富にある。それを摘み放題だなんて、まるで天国のような所だ。
もう果物を我慢する必要はない。冬の間も好きなだけ食べられる。
新鮮な摘みたてベリーを一つ口に入れる。凄く美味しい!
この美味しさは、従魔達には分からせてあげられない。それが残念だ。
ある程度収穫した所で、ユーリはお弁当を広げた。
「アオさんもどうぞ」
どんな物が好きか分からないので、色々と用意した。
もちろんベリーのケーキもあるし、ジャムもある。
あれ、意外と小食?
「お口に合いませんでした?」
「いや。とても美味しいよ。ただ私は、あまり食べないんだ」
まあ、前回もそんなに食べていなかった。本当に味見程度だけど、遠慮してるのかと思ってたけど、違ったみたいだ。
食べきれないのにこんなに育てるなんて。勿体ない。
と思ったら、籠に山盛りに渡してくれた。
「ユーリなら絶対来てくれると思って、たくさん摘んでおいたんだ」
「こ、こんなに?本当にいいんですか?」
「収納庫に入れておけば悪くならないし、雪が降ったら楽しみがないだろう?」
「嬉しいです。冬は魔道具を作って過ごすつもりでしたけど、楽しみが増えました」
「そう。いいのができるといいね。ケーキもありがとう。優しい味だ」
「本当は、そのままの方が一番美味しいと思うんですけど、従魔達には不評だから」
「それは仕方ない。けど、ユーリの魔力がかかった味もいいよ。ユーリの味だ。…できればこのままの味でいて欲しい」
「?料理によって味は違いますよね?」
「魔力の味の事。みんないつの間にか味が変わってしまうんだよね。時の流れは恐ろしい」
魔力の味はよく分からないけど、従魔達も好きみたいだし、変わって嫌がられたら大問題だ。
「大人になると、色々あるんだろうね」
「アオさんは私が落ち人だって知ってますよね?私、こう見えて大人なんです」
「ふふふ。まあ、そういうなら変わらずいてよ。でないと私がまた淋しくなる」
良く分からないな。
「また来ます。話し相手になれていればいいですけど」
「うん。雪が溶けたらまたおいでよ。春は忙しいだろうけど、農作業の合間にね」
アオが、頭を撫でてきた。…もう。大人だって言ったのに。この姿じゃ確かに説得力ないけどさ。
ムーンの所に戻ると、またしきりに匂いを嗅いできた。
「果物の匂い、する?」
(そうじゃなくて…だが、悪くない。さあ、暗くなる前に帰ろう)




