ピザと亜空間
ムーンは雪狼だからか、すごく暑がりだ。毛も夏毛に生えかわったけど、気がつくと氷風呂に入っている。
私も寒いのより暑い方が苦手。海に入っていられるエメルが羨ましい。
水やりと草むしりはスラ達に任せておけるけど、収穫はそうはいかない。
収穫量は、1.5倍位になった。豊作ってだけじゃないと思う。
海水で作った塩をキュウリとカブに揉み込んで、浅漬けにしておいたのを、氷で冷やして収納庫にしまう。
あ、そういえば。まだムーンには食べさせた事がなかったな。
ユーリはかき氷を作る。風魔法が上達したから、去年よりも上手く削れる。
モコとチャチャはゆっくりと食べるけど、ムーンは一口でいった。
(頭キーンてならない?)
(雪に味がついたようなものだからな)
平気らしい。
スラ達にもあげたけど、やっぱりキーンてならない。てか、頭どこ?
まあ、喜びの感情しか伝わってこないから、気に入ったのかな?
こぼれ落ちた何もかかっていないのも、美味しそうに食べている。
魔法の水じゃなくても、魔法の氷だから美味しいのかな?
今日は、ピザを焼いた。トマトとたっぷりのチーズ。それとアジタケだ。
もう一枚は、照り焼きにした鶏肉を乗せた。大きめだけど、ムーンやチャチャなら一人で食べちゃうだろうから、同じ物をもう一枚焼く、と、エメルが近づいてくるのが分かったので、もう一枚生地を作る。
(ただいま。ユーリ。あら?いい匂いね!)
(エメルにも作るよ。上に乗せる具材は何がいい?)
(なら、ここから選んで)
いつものお土産。今日も大漁だ。
(あ!蟹があるね!ならこれを乗せるね!)
私も蟹ピザ食べたい。シェアして食べよう。となるとモコも食べたいかな?私とモコで一枚の計算だったけど、余っても誰か食べると思うし、スラ達にもあげよう。
もう一枚生地を作って、蟹ピザ2枚だ。ピザ釜で次々に焼いて、私は結局、蟹とアジタケの二つを食べた。
残念ながら肉ピザはお腹の容量的に無理だ。他のみんなは結構食べたな。
(足りなくない?)
あまりにもあっさり食べたので聞いてみたら、満足そうだ。
(私はプリンなら入りそうよ)
(エメルは結構甘い物好きだね)
(普段は食べられないもの)
(プリンはないけど、釜の隅で焼いたクッキーならあるよ)
(あら!美味しそうね)
ユーリも一枚食べてみた。バターをたっぷり使った香りのいいクッキーだ。
うん。美味しい。
エメルも気に入ったみたいで、おやつ用に作っておいたクッキーも全部食べてしまった。
まあ、クッキーはいつでも作れる。
(はあ…食べ過ぎたわ。甲羅でお腹がきつい)
そこまで食べなくても。
(大丈夫?エメル)
(もう今日はこのまま眠るわ)
(海の虫も、なかなか旨いな)
(ユーリは、虫じゃないって)
そうだよ、チャチャ。蟹は虫じゃない。
(まあ、魔物だな。残念ながら俺には採れないが、ユーリは大好きみたいだ)
(ユーリはなんでも美味しく料理してしまう。私達は、食べ物を持って帰ればいい)
(俺は肉以外の知識はさっぱりだ。チャチャは物知りだな)
(私は雑食だから。食べて覚える)
(それって毒物食べちゃったりしないの?)
(危険な物は、お母さんに教わったから)
あ…。
(そんな顔しないで。私は平気)
淡々と喋るチャチャの表情も読めないけど、恨む気持ちはない。
(魔物は一々復讐なんて考えない。そんな不毛な感情よりも、自分が生きる方が大事だからな。それにユーリに従魔にして貰えた方がラッキーだしな)
(そうかな?私にもラッキーだよ。みんな頼りになるし、嬉しいよ)
フレイからは、たまに時空魔法を教わっている。
涼しい亜空間の中での学習で、涼めるのが嬉しくて、つい訓練は疎かになってしまう。
(時空魔法は、魔力の操作が重要なんでしゅよ。ユーリしゃん、大丈夫でしゅか?)
(うん。…ここは天国だね…)
(もう!空間を感じる事も大事だから亜空間の中に入っているのに、そんなんじゃいつまでも亜空間を覚えられないでしゅよ!)
けど、覚えたら覚えたで夏は亜空間でだらだらしそうだ。
亜空間もいいけど、その先の亜空間移動も気になる。
一度行った所に一瞬で移動できる夢のような魔法だ。
なら、その魔法で町に行きたいとは言わなかった。
自分の足で行きたいっていうのもあるけど、頼り過ぎも良くない。
絶対に過干渉になると思うからだ。フレイから言い出さないのは、それを気にしてかもしれないし、忘れているかも?
さすがにないか。
今移動しても住む所もなくなるし、亜空間も覚えていないんだから。自力で移動出来るまでに亜空間は覚えたいな。
いつでもこの気温だなんて、羨ましすぎる。ちょっと暗い気がするけど、ライトを使えばいいだけだし、冬でも寒すぎないから、外に出る時に体温調節で服を変えればいい。
はあ…今はただ、この心地よさに浸っていたい。




