蟹鍋
エメルが、たくさんのお土産を持って帰ってきた。
(これが、昆布?)
(残念。ワカメだよ。でもワカメも味噌汁に入れたら美味しいから、嬉しいよ!)
(そう?残念だけど、私には鑑定のスキルはないし)
そうだね…スキルが教えられればいいんだけどね。
そして今回は、蟹が入っていた。これもエメルに頼んでいた物で、この世界の人達は海に住む虫だと思っているので、海老も含めて食べないらしい。
何て勿体ない!
鑑定 ブルージュエルクラブ 虫系魔物だが、食べられる。茹でると青い宝石のように甲羅が色づくので、殻は売れる。
毒もなさそうだ。ていうか蟹も海老もいるみたいなのに、食べないで甲羅しか利用しないなんて勿体ない。
茹でると、本当に赤い甲羅が深い青に変わって光を反射する。
味は、普通に蟹の味。すごく美味しい。
(あら。本当に美味しいわ。硬いし面倒だから今まで食べないで放っておいたけど、こんなに美味しい物だったなんて)
(面倒なの?倒すの)
(海の中では風魔法は難しいのよ。体当たり位しかできなくて、硬いから何度も繰り返さないとならないの)
(逆に蟹の周りだけ酸素を抜けないの?魔法が使えなくなる訳じゃないんでしょ?)
(酸素?)
(ええと、蟹もえら呼吸しているはずだから、酸素…説明難しいけど、生き物はみんな酸素を必要としているはずだから、それがなくなれば死んじゃうんだよ。少なくとも地上の魔物は範囲指定してそこの酸素を抜くイメージで風魔法を使うと、死んじゃうよ?)
(良く分からないわね。しかも私は時空魔法を使えないから、範囲指定はできないわよ?)
(そっか…水の中ならいけると思ったんだけど、無理かな)
(いいえ。今度試してみるわ。水の中に空気が溶けているらしい事は、魚を見てれば何となく分かるもの)
(やはりユーリは落ち人なのか)
(ムーンには言ってなかった?)
(いや、妖精と親しくしていたから何となくそうだとは思っていた)
(落ち人は嫌?)
(そんな事はない。ただ、守り切るのは難しいかと思ったんだ)
(ユーリはボクが守るからムーンは心配しないで)
(こら。相手は人族だ。我ら従魔が無闇に人を傷つけたら、その責を負うのは主だ)
(ええ?武器を向けられたら反撃はいいんだよね?)
(人族は知恵を使う。違う方法で主を…ユーリを追い詰める事も可能だと思った方がいい)
(そうなのよね。ユーリは年齢の割に賢いから、落ち人だってばれたら大変だわ)
(落ち人が狙われるのは元の世界の知識もあるんだよね)
(そうね。それと戦局をひっくり返す位の力を持つと言われているわ)
(黙っていれば分からないんじゃ?)
(そうだけど…小さいユーリを一人にはできないわ。私達が進化できた時に人化の能力を得られれば、代わりにお使いできるわ)
(人化?人になれるの?)
(ええ。知能が高くて強い力を持った魔物は、人に姿を変える力を持てるらしいわ)
凄いな。
どのみち、私が大きくなるか、エメル達が人の姿になれるかするまでは、町に行くのは無理っぽい。
今できる事は、山を越えて進む力を手に入れる事と、各種スキルのレベル上げ位だ。
今日は蟹鍋だ。最初は虫だと思って敬遠していたけど、私が美味しく食べているのを見てみんな食べ出した。
(旨いな。ユーリの言うことに間違いはないな。まあ、エメルがいなかったら我らだけでは食べることはできないが)
(うふふー!海の獲物は任せてよ。今度は海老を狙ってみるわ)
(うん!お願いね!)
エメルには是非、収納庫を覚えてもらいたい。というか私も泳げるかな?
プールではとりあえず25メートルは泳げたけど、海では同じようにいかないだろうし、10年以上泳いでないからな。
レベルのお陰で運動神経は良くなかったけど、というかオリンピック選手もびっくりのジャンプ力や足の速さだけど、海はまだ怖いかな。海の魔物はよく知らないし、肺活量の問題もある。大人しく釣りしていよう。
(ユーリ、たくさんの野菜、大変じゃない?)
(確かに野菜は買っているけど、廃棄野菜だから安いんだよ。まだ貯金もあるから大丈夫。チャチャが気にする事じゃないよ)
とはいえ、みんなたくさん食べるので、材料というか、作るのが大変。
従魔が居てくれて助かっているけど、これ以上は賄いきれないかな。
「ユーリしゃんが小さいうちは仕方ないでしゅね。…こんな辺鄙な所に落としてしまったのはごめんなさいでしゅ」
「お肌の事頼まなければ、もうちょっと年上だった?」
「う…その…ユーリしゃんは一度作るのを失敗したので…」
「そ…そう。もういいよ。こっちこそごめんなさい」
この話蒸し返しても仕方ないのに。
「この体にも慣れたし、大丈夫」
小さい体にも慣れたし、色々と不器用になっている所にも慣れた。
今では感覚のズレもなくなって、それなりに動けるようになった。
そして、戦う事にも慣れた。この辺は子供だから、慣れるのが早かったんだろうな。




