風邪
もふもふのお陰で暖かいけど、何故か震える寒さだ。
ユーリはしっかりと毛布と皮の上掛けを握りしめる。
寝苦しい。…水。
あれ…収納庫が開かない。コップが出せない。
(ユーリ?もしかして具合悪い?)
「水…」
(困ったわね…誰かコップ持ってない?)
ユーリの隣から起きたチャチャが、自分のバッグからお椀を出した。
(綺麗じゃないと思う)
(私が水を出すから、洗って?)
「寒いよ…チャチャ」
ムーンがのそりと起きて、チャチャの場所に入った。
(大丈夫かな?ユーリ)
(人族の子供は、すぐに熱を出すのよ。今までは病気知らずだったけど、雪で体を冷やしたのかもしれないわね)
チャチャがお椀を持ち、エメルが魔法で少しずつユーリの口に水を送る。
(スラミー、ユーリの頭の上に乗ってあげて。モチとすあまはたまに交代してあげて)
(エメルは物知りだね)
(ちょっと色々勉強する機会があっただけよ。そんなに色々は知らないわ)
昔、少しだけ人族に飼われていた時期があった。テイムされていた訳じゃないけど、その時に言葉も覚えた。
結局他の人族に見つかって殺されそうになったけど、どうにか生き延びた。
自分を捕まえた子供はユーリよりもずっと大きかったけど、ユーリよりもずっと子供だった。
前にユーリが話していた、本当はずっと大人だったというのは本当なのかしらね。
知識はあるけど不器用で、意外と危なっかしい。
魔法の使い方も、武器の扱い方も全然だけど、魔法は全属性使える。
落ち人って、そんな物なのかしらね?
次の日。大分熱は下がっていたけど、まだ体は怠い。
(今日は寝てなさい)
(そうする。でもご飯は)
(収納庫は使える?)
夕べは上手くできなかったけど、今朝はあっさり開いた。
適当にお肉を出して、余っていたゆで卵も出した。
(何で魔法使えなくなっちゃったんだろ)
(何でって…具合悪かったら、集中できないでしょ?特にまだ子供なんだから、魔力操作にも慣れていないし)
そりゃそうだ。前の世界は魔法なんてなかったから。
でも、いざというときに魔法が使えなくなるのは嫌だな。特に収納庫は。
魔力操作は集中的に訓練しよう。
それにしても怠い。風邪なんて何年ぶりだろう?インフルエンザが流行った時だって切り抜けてきたのに。
社会人になってからは特に、当欠なんてしてられなかったから、気合で乗り切ってきたから、丈夫さには自信あったんだけどな。
まあ、今は体も子供になっちゃったから仕方ないのかな。
額に乗っているすあまが気持ちいい。
卵粥が食べたいな。具合が悪くなると、作ってくれた。
思い出したら、ちょっとだけ泣けてきた。
(ユーリ?)
(何でもない…大丈夫だよ。モコ)
一人だったら寂しくて耐えられないかもしれない。けど、今の私には従魔達がいる。
モコのもふもふも気持ちいいけど、後ろに居てくれるムーンのもふもふも素晴らしい。真っ白でつやつや。
モコの毛はふわふわだ。チャチャの毛はちょっと硬いけど、暖かい。
スラ達はぷにぷにだし。エメルは甲羅がすべすべだ。
夕ご飯を食べる頃にはユーリの具合も良くなった。今日は簡単に鶏鍋だ。
火鉢の上で肉も焼いたので、物足りないムーンとチャチャも満足してくれたようだ。
(もう、あんまり無理しちゃだめよ?)
(ごめんね。心配かけて。みんなも)
(そうだよ。エメルがいなかったら、何したらいいか分からなかったんだから)
(ユーリを、暖める事位しか出来ない)
(二人とも暖めてくれてありがとう。ムーンもありがとう)
ムーンは照れくさそうにそっぽを向く。
(チャチャも料理、覚えたい)
(さすがに無理かな…包丁とか掴めないし。でも力仕事とかお願いしたい事はたくさんあるからね?)
(うん。手伝う)
(ユーリ、毛が必要ならいつでも言ってね!)
スラ達も、存在を主張するように跳ねている。
今回はみんなに助けられた。というか助けられてばかりだな。




