サロモスダンジョンへ
ミノタウロスキングの肉は、ミノタウロスの肉よりも数倍美味しかった。
牛特有の旨味が口に入れた瞬間にジュワっと広がる。
まあ、危険な階層だからまたすぐにとは行かないと思う。
それと、チャチャの亜空間が広がっていた。ムーン以外は亜空間に少しずつ個性が出てきている。
チャチャの亜空間はかなりシンプルだ。機能性重視な所がある。
モコの亜空間はもふもふのクッションや、私が作った玩具が無造作に転がっている。
エメルの亜空間は結構お洒落だ。ムーンも亜空間を覚えたらきっと釣りの道具なんかが増えていくんだろうな。
魚拓の取り方は釣り好きの人に教わったみたいだけど、ムーンは興味を示さなかった。
魚は食料。大きな魚が釣れたら嬉しいけど、美味しい料理になる方が嬉しいみたいだ。
シタールダンジョンを経由してサロモス王都に来た。
雪が積もっているから人通りは少なく、メインの門は閉じられていて、人一人が通れる位の門から中に入った。
そんな状態でもここにはダンジョンがあるからか、冒険者は行き来している。
熱量交換のレンガはまだここまで伝わっていないのか、人の手で雪かきされている。
実際、ランクが低い冒険者は春になって依頼が増えるまで仕事をしない訳には行かなくて、雪かきや雪下ろしの仕事や、集めた雪を解かす仕事もある。
まあ、それもあと少しだ。春はもう近い。
海苔やワカメの値段が上がっている。これは仕方ないだろう。私だって冷たい所に足を入れるのは嫌だ。
けど、この為に防水性の高いウォーターベアの皮でブーツを作り、中敷きにカイロの魔道具を仕込んだ。
ムーンだけは冷たいのは平気なので、防水性のブーツのみだ。
(人がいなかったら飛んじゃだめ?)
(うーん。階段近くじゃなければ魔法石で転移してきた時に見られる可能性は低いけど…その度に着替えるのは大変じゃない?)
(そうなのよね…海の気分が味わえるダンジョンだから嬉しくて)
いや、冬なんだからダンジョンの中の海も冷たいと思うけど。
ワカメはともかく、海苔は欲しい。正確には海苔の原料だけど、広げてドライで乾かすだけだから、手間はそんなにない。
モコもチャチャも体が大きくなったから、食料集めも大変だ。勿論料理も。
本当はダンジョンじゃなくて外にいる魔物を倒せば丸々肉は手に入る。
春が待ち遠しいね。
今日は海苔中心だったから、他の物はあまり集めてない。
イカゲソと、レッドコークの唐揚げだ。
レッドコークはどの辺に生息しているんだろう?是非とも丸々一羽手に入れたいものだ。
ラモンという、レモンに似た酸味の強い果実の汁をたっぷりとかけて食べるのが私は好きだけど、みんなは酸味のある食べ物はあんまり好きじゃないみたいだ。
チャチャは粉末にした一味唐辛子をかけて食べている。
私の舌はまだその辛味に耐えられない。ほんの少しだけでも刺激が強いな。
でも、味噌汁に一味を少しだけなら、美味しく食べられるようになった。
モコは唐揚げにマヨネーズをかけて食べるのが好き。マヨラーは仕方ない。おばあちゃんの家に遊びに来てた猫もマヨネーズが大好きだった。
こんなにマヨネーズ大好きなのに、モコに太る様子はない。
ダンジョン16階層。
階段の下では異様な光景が広がっていた。素早くて小さい何かを冒険者が追いかけている。
これはもしや…!!物凄く美味しい物が採れるに違いない!
「待って、ユーリ。罠がありそうだよ?」
確かに。今の冒険者は鎧に弾かれて助かった。それと…うん。落とし穴もある。…って、え?見えてる?
「モコ達は罠がありそうなのは分かるんだよね?」
「ボクは自分で罠を使うからね」
「槍が降ってくる位じゃ、私を傷つけられないわ」
「野生の勘?」
いや…みんな野生味は全くないけど。
「ユーリは見切りを持っているから大丈夫だろう」
「いや…何か、見える」
『スキル 罠察知を覚えました』
かなり時間がかかったな…また新しいスキルとか?
まあ、目に関する事だし、罠が見えれば安全だし、便利だ。
(罠が見えるから、大丈夫。それより魔物を確かめよう!)
罠の場所をみんなに教えつつ、進む。チャチャのガントレットが魔物を捉えた。
看破 ダンジョン産ジュエルシェル 最高の素早さを持つ空飛ぶ貝。身は極上の旨味だが痛みやすい。宝石を落とす事もある。
宝石要らない!貝が欲しい!
拳程もある貝の身に、ユーリは笑顔を浮かべる。
「美味しい物なの?」
「うん!そうみたいだよ?」
殻はなくなったけど、ダンジョンだからそんな物だろう。
お。あの冒険者もジュエルシェルをやっつけたみたいだ。けど、貝に変わると何故かがっかりしてる。
「ユーリ、きらきらに変わったよ?」
「ん…あとで。そこの壁に罠があるよ」
(さすがユーリ、分かり易い)
(そうね。でも宝石に変わる確率は低いみたい)
(いいことだな)
もう。聞こえてるってば。
収納庫を持ってて良かった。鮮度が大事なら、これほど確実な保管方法はない。
宝石といっても磨く前の天然石だ。魔法で研磨もできそうだけど、別に…ああ。でも石によってはいい付与を付ける事も出来るのか。なら役に立つかな?
予見で逃げる方向も分かるし、ミスリルの剣なら確実に倒せる。
「ユーリ、階段を見つけたが…せめて魔法石にだけでも触れておいた方が」
「えへへ。そうだね」
一回でなくなりそうな量しか採れてないけど、美味しかったらまた来ればいい。
17階層は…雪狼。
「ユーリ、気にせず戦え」
分かってる。ムーンの一族でもない。ダンジョン産だから。
「ユーリ、躊躇っちゃだめよ!」
エメルが攻撃を弾いてくれる。
「ごめんね、分かってる」
それに私が傷ついたらみんなが悲しむ。
「雪狼の皮は保温性も高くて丈夫だ。ユーリの新しいマントを作ったらいい」
確かに。ワイバーンの皮膜のマントは元々ギリギリのサイズだったから、少し成長した私には小さくなってる。
動いているから余計に小さく感じるんだよね。まあ、成長期だから仕方ない。
さっさと次の階層を見つけたいけど、なかなか階段が見つからない。
ちょっと手が滑った。剣を落としたその腕に、雪狼の爪が掠める。
「ユーリ!キュ…ア?」
モコのキュアより自動回復の方が早かったみたいだ。
「えへへ。服もキュアで治れば楽なのにね」
「もう…この位なら、ボクがあとで繕っておくから、ユーリはしっかりしてよ?」
「はーい」
本当に手が滑っただけなんだけど。階層が変わった時に皮手袋をしておけば良かった。
どうにか階段を見つけた。
「ちょっと早いけど、今から降りたら遅くなりそうね」
「うん。もう帰るよ」
ジュエルシェルを味わってみたいしね。




