スペシャルショッピング
空気が割れた?
激しい耳鳴りの後に残ったのは、狼の三匹の死骸。
「ユーリ?大丈夫?」
現れたのは、3Dホログラムのような、銀髪の綺麗な女神様。
「この子がろくに説明もしないで落としちゃってごめんなさいね。それに…やっぱりダメね。フレイ。どうして報告もしなかったの!」
女神様の影から引っ張り出されたのは例の妖精だ。
「お、怒られるのが怖かったでしゅ」
あー、いるいる。ミスを隠して後で見つかって、余計に怒られる人。
「あの、ここはどこですか?」
「この世界はミルドラ。私は世界を繋ぐ管理者のシャンドラよ。ここはあなたが元いた地球の界を下った世界よ。落ちる人がいないように色々と対策はしてるんだけど、たまにいるのよね」
「穴なんて開いてなかったですけど?」
「見えないように偽装してあるのよ。それにしても…若くなれば確かにお肌の手入れは必要ないわね。でも目はダメでしょ?」
「ごめんなしゃい」
「それに、魔物もいる世界に何の説明も無しに放り出したら、死んじゃうじゃない…体は後で私が治すから安心して。
あなたの個人財産で、上の世界から物が買えるようになっているわ。残念ながら廃棄された物限定で、この世界に馴染む物しか買えないようになってるけど。
それとスペシャルショッピング!こっちは私達管理者から物が買えるわ。過去には聖剣を手に入れて大活躍、勇者と呼ばれる人もいたわ。
あとは魔法ね。スキルで買ってね!私が体を修復すれば私の魔力の影響もあって、覚える速度は上がると思うから頑張って。
まあ、ある程度はイメージで何とかなる物だけどね。
この世界の住人より、落ち人の方が魔法が上手に使えるっていうのも皮肉な所だけど。
それとスキルね。スペシャルショッピングでも買えるけど、行動でも増えるわ」
「女神様、確かにお肌の事は頼みましたけど、この年齢で一人で異世界スタートは無理ゲーじゃないですか?」
「うふふ。私は女神じゃなくて管理者よ。なら、スペシャルショッピングで従魔を買って、あとはテイムと念話のスキルを手に入れて頂戴。お詫びに魔力量は増やしておくから、頑張ってね!」
再びの気絶。今回は体が痛くない。
目を開けると手には鉄製のボードを持っていた。ステータスボードと呼ばれる物で、この世界の住人なら誰もが持っている物だ。
落ち人と呼ばれる者はこのボードからショッピングも出来る。
何故か頭にすっと知識が浮かんでくる。この世界の知識もシャンドラ様がインプットしてくれたのかな?
とりあえず、お腹すいた。持っていたビジネスバッグは合皮製の物が革製になっている。コンビニ弁当は、容れ物が鉄製になっていて、お茶も革製の袋に入っている。
バッグの中身も会社の書類はなく、白くてがさつく紙束に変わっている。革製になったペンケースの中身も、インク壺と、付けて使う万年筆になっている。鉛筆はあるようだ。
プラスチックやペットボトルは無いのだろう。これは仕方ない。
お弁当は、半分も食べられなかった。それでも今日で食料は無くなる。
狼の死骸が目に付く。食べられるかな?…あれ?右目と左目で見え方が違う。
左目は普通の視界だけど、右目が…
鑑定 ウルフの死骸 肉は硬いが、食べられない事もない。
『スキル 鑑定を覚えました』
頭の中に響く声。これは能力を管理する人の声で、一般的には女神様の声って呼ばれている。
これはシャンドラ様が目を″良く″してくれた結果だ。
右目で遠くの景色も良く見える。
『スキル 遠視を覚えました』
魔力視は良く分からないけど、夜目は夜になったら試してみよう。
あ…寝る所、どうしたらいい?
お金は、この10年で貯めた物と、お母さんがかけていた生命保険がある。
ショッピングで、テントと寝袋を買った。二万円が高いか安いか分からないけど、革製だ。
魔物から身を守るのはスペシャルショッピングかな?
結界石というピンポン球位の石を四つ。五万円は高いけど、命には代えられない。セットで使う物だろう。
まずはテントを張らなきゃならない。…うん。ポールは鉄製だし、革製品だから重い。幼児には建てるの無理だわ。
結界石は、魔力を使って魔物を寄せつけない物。…ラノベでは魔力は体の中に流れる物らしい。それを結界石に流すイメージ。
『スキル 魔力操作、魔力視を覚えました』
右目では石が光って見えたんだよね。そうしたらさっきと同じようにスキル化した。
魔物からは襲われなくなりそうだけど、寝袋だけじゃ雨風は凌げない。
スキルと魔法を買えば、何とかなるかな?
うん…属性魔法が五千円。光と闇が高くて一万円。結界魔法?これがあれば結界石買う必要なかった?…まあいいや。って、鍛冶も魔法なの?錬金術も。テイムは…げ!10万円。念話は…一万円か。
狼の肉は硬いけど、食料の為に欲しいし、皮も使えそうだ。
解体ナイフは五千円。武器は…うわ。本当に聖剣とかあるよ。
勇者になるつもりはないから要らないけど、何かないと不安かな。でも、この小さな体で戦えるのかな…武器って重そうだよね。
ファンタジー定番のミスリルは高い。ナイフだけで百万円。剣になるともっと高いし…仕方ない。命には代えられない。
お楽しみの従魔は…何?このお買い得品て。卵?…何が孵るかはあなた次第。
お値段一万円。…えええ。
大体、魔物の名前と値段だけで判断しろって?それがどんな魔物かも分からないのに。
卵でいいや。きっと何かしらの役には立ってくれる…はず?
それにしても、今日だけでいくら使ったんだろう?
…あ、寝る所は…