リナさんと冒険 2 と、残念宝箱
ダンジョン15階層。タケノコにもリナさんは危なげなく反応してるし、トレントにも危なげなく対応している。
剣の腕だけで見るとレイシアさんの方が凄いと思うけど、リナさんは魔法も使える。
そして蜂蜜。拾った時は本当に嬉しそうな笑顔をしていた。
「下に行くのは後にします?」
「ううん!だって魔法石のお陰でいつでも来られるもの」
今日はゴーレムが少ない。ちゃんと16階層に行けそうだ。エメルにはシールドトータスのまま影で待機してもらっているから、ここで止まらなくて良かった。
17階層に着いて、エメルを出すとリナさんはやっぱり怖がっていた。
「本当に大丈夫ですよ?信じてくれとしか言えないですけど」
「重いって、怒られないかな?」
「力持ちなんで」
「なら、俺は乗らないで魔法石で転移していこう」
「ご…ごめんなさい、ムーンさん」
「いや、いい。次の階層で待っている」
怖がっていたけど、私がエメルの頭を撫でたりしていたら、そろりと乗った。
「やっぱり私には、従魔は無理そう」
降りてエメルにお礼を言って、影に戻した後に呟いた。
無理もない。これでムーンがスコルだと知ったらどうなるんだろう?まあ、スコルはフェンリル程有名じゃないから分からないかもしれないけど。
19階層には、テッドとモコがいた。
「鎌貸しますよ?」
「ありがとう…風魔法で刈ってもいいけど、危ないものね」
「俺達は満足したから他行くぜ?ユーリ、また鹿肉の燻製作ってくれよ」
「いいけど、煙の排出が面倒だから春になってからね」
「それ位俺がやるってば」
「なら、ついでにベーコンも作っておいてよ」
「じゃあ、気を付けてね?ユーリ」
二人が階段の方に消えると、リナはほっとため息をついた。
「テッド君て貴族よね?ずっと一緒に冒険者やって行くの?」
「本人はそのつもりみたいだけど、とりあえずあと半年かな?10歳になった時に何かある?らしくて」
「ふうん…ユーリちゃんは今のパーティーメンバーとずっと一緒にやっていくの?」
「勿論!みんな大好きだから」
「ちょっと…羨ましいな。妖精さんのお陰で助かった命だけどそれっきり会えないし、心を許せる人もいなくて」
「恋人とかいなかったんですか?」
「居たこともあったけど、本当の事は言えなくて。他の落ち人はどんな感じの人なの?」
「一人はテッドの実家で執事として働いているよ…もう一人はお店をやってて。あと、牢屋にもいるけど」
「若い人なの?」
「自立して働いている人達はそれなりの年齢かな…ケンゴさんは50は越えてると思う…奥さんも子供もいるみたいだし。マイクさんは30過ぎ位?…牢屋の奴は会わない方がいいと思うけど」
「何?個人的な恨みでもあるの?」
「…落ちる前からの知り合いで、ろくでなしな人だよ」
「そっか…同じ落ち人なら色々と期待できたかもだけど」
奴だけは止めておいた方がいい。年齢的には釣り合いが取れるけど、一生奴の面倒を見る事になったら気の毒だ。
「これって、籾が付いた状態で採れるのね…精米は魔法でしてるの?」
確かに、コーベットで売られているのは精米された米だ。
「まずは籾すりですね…やり方は後で教えます」
大丈夫だとは思うけど、コーベットに行けば魔道具を貸してくれるはずだ。
「たまに中央に大きな稲穂が生えるんです。それはモチゴメなんですよ」
「本当?…楽しみ!ユーリちゃんにコーベットに連れて行ってもらって、米をたくさん買おうとしたけど個人では量が決められてて。だからここのダンジョンで必死に頑張っていたけど、マジックポーションを持って行っても魔法だけじゃムカデエリアは抜けられなくて。だから本当に助かったわ。ありがとう」
「いえいえ。私達はあちこちのダンジョンに行くかもしれませんけど、リナさんも?」
「そうね…でもしばらくはここかな?米とか蜂蜜とか、それにモチゴメも欲しいし」
イナゴの当たり方がいつもより痛い。イナゴがやる気モードになっている?
そういえば昨日のワニもやる気全開だったな。需要と供給のバランスが取れてないのかもしれない。ダンジョンは入ってくるお客さんから魔力を抜いているみたいだし、血にも魔力は含まれている。最近は怪我もしなくなったし、ここに来る冒険者は山越えもしなきゃならないから上級冒険者ばかりだ。
多分死亡率は一番少ない。
ていうか、私がここに来るまでは誰も来てなかっただろう…野生の魔物以外は。
搾取されるだけも哀れだけど、私が怪我しても今はすぐに回復しちゃうからね。
ダンジョンコアに魔力を注いだらレアアイテムが貰えるとかの特典があってもいいよね!ソイズダンジョンは結局何の為に魔力持って行かれたのか分からないし!
魔力なら渡すから、松茸プリーズ!
夕方、リナさんはまだ稲刈りを頑張りたいみたいだったので、籾摺りと精米の仕方を教えてあげた。風魔法の二重がけをしなきゃならないから、そこで少し躓いていたけど、籾殻と玄米を分けるのは後でも出来る。
テッドよりも大分覚えはいい。魔法使いとして長年やってきただけはある。
「じゃあ、私はこれで」
「ええ!また会えたらいいわね!」
このダンジョンが何階層あるか分からないけど、サイクロプスに余裕で勝てるようにならないと、下の階層には行けない。
でもボスばかりが続いているからもしかしたらもうすぐかな?
いやいや。だとしてもいのちだいじに、だよ。
亜空間に戻ると煙臭かった。
「テッド?ちゃんと煙は外に出してよ!」
「それがさ…何故か上手くいかなくて」
「ボクが手を出すと怒るんだよ」
んー?
「モコ、やってみて」
うん…かなり臭いのが取れた。
「もしかして、他人の亜空間だから空間把握がしにくいんじゃ?」
「俺もそうかもと思ったんだけどモコが上手いから…悔しくて」
「モコは私の眷属だからじゃない?」
「何だよそれ…亜空間を通して入れるだけじゃないのか?」
「多分共有出来る感覚があるから?」
まあ、私がやれば一発だ。まだ途中だから煙は出ているんだけど。
「そうか…時空魔法の訓練にもなると思ったんだけどな」
「なら、七輪を貸してあげるから、自分の亜空間でやってみなよ」
ついでに魚の切り身も渡した。
「まあ…頑張ってみるか」
昨日は作り損ねた肉味噌炒めを作ろうと思った。
「モコ、もやしを収穫してきて…あ、でもまだ早いかな?」
もやしの所に行くと、もう立派に成長している。加護のお陰かな?
とりあえず全部収穫して水に浸しておいた緑豆を蒔きなおす。
そんなに大きくない宝箱なのに、緑豆の減る様子はない。
何か仕掛けでもあるのかな?下から覗き込んで手が滑った!
「わー!みんな緑豆拾うの手伝って!」
ていうか、こんなに入る訳…
看破 緑豆の宝箱 緑豆が永遠に出てくる宝箱
「はあぁ?!」
凄い魔道具だと思うのに、出てくるのが緑豆だけなんて、悲し過ぎる。
どうせならお米とか、フルーツとかが出ればいいのに…
ダンジョン産とはいえ、誰がこんな物を作ったのか。
いいもん。もやしはヘルシーだし、用途も多いから、役には立つ。ただ豆の値段が凄く安いだけだ。




