リナさんと冒険 1
ソイズダンジョンで、不思議な体験をした。
昨日一日中寝て、調子は戻った。大体管理者権限て何?訳分からん。
「よっと!」
身体を起こしてもやしの水耕栽培を収穫して、折角だから緑豆を蒔いた。
「ユーリ、もう平気なの?」
「平気。お腹空いた」
ソファーに座っていると、卵粥を持ってきてくれた。
「他のみんなは?」
「ダンジョンに行ってるわ。テッド君がオルニチンがどうのとか言ってたけど…?」
シジミーか。足が冷たいから暖かくなってからでいいのに。
ダンジョンか…ちょっと行ってみようかな?
「エメル、ちょっとだけダンジョン行ってみない?」
「でも…本当に平気なの?」
「無理はしないよ」
ダンジョンの入り口に立つと、頭の中に声が響いた。
『権限を使用しますか?』
(どんな事が出来るの?)
『貴方に現在使用出来る権限は、ありません』
無いんかい!…まあ、最初から期待なんてしてなかったし!
「どうしたの?ユーリ。何階層に行きたいの?」
「じゃあ、納豆でも集めようかな」
「…えええ…」
「もうみんなに無理強いはしないよ。でも卵に混ぜて焼いたり、味噌汁にしても美味しいんだよ?」
「そう…護衛は要らないかもしれないけど、ちゃんと付いて行くわ」
その後、エメルと二人で納豆採取を楽しんだ。
その後、ぬめりを取った納豆汁は概ね好評だった。
「アミノ酸が勿体ないな」
「同じ栄養成分だとは限らないじゃない?ぬめぬめの中にばかりある訳じゃないし」
モチにも体にいいかなと思って、納豆をあげた。これぞ本当の納豆モチ?
「亜空間移動で行けるなら、冬の最中でもダンジョンに行けるよな?」
「行きたいダンジョンあるの?」
「勿論、稲刈りだ!」
…収穫の喜びにでも目覚めたかな?
まあ最近、ちゃんと肉が採れてなかったからいいんだけど。
「みんな、行きたい階層行ってもいいよ?」
テッドは分かってるけど。誰か一人はテッドに付けた方がいいかな…イナゴとはいえ、何かあったらまずいし。
「ボクがテッドと行くよ」
「俺はワイバーンがいいな」
「私はワニにしようかな」
「私も」
「あら。チャチャに先越されたわね?私はチーズが欲しいわ」
チャチャと一緒に13階層へ。目的は肉だから、ワニ皮は要らない。
しばらく狩ってたら、黒い石みたいなのを落とした。
看破 ダンジョン産ワニキス 宝石の一種で、闇、暗黒魔法と相性がいい
オニキスじゃないのか…まあ、何でもいいや。
今まで見た事なかったし、レアアイテムなんだろう。
今日はどうしようかな?カツって気分じゃないし、味噌炒めにでもしようかな?
ワニ肉を集めて早めに戻ると、他の人の気配がした。
「あ、ユーリちゃん久しぶり」
サロモス王都で会ったリナさんだ。
「ここのダンジョン来てたんですね?」
「そうなの。これでもBランクだから…本当は実力を隠してだけど」
まあ、それは私も一緒だ。
「あの…言いにくいんだけど、12階層の攻略を手伝って貰えないかしら?」
「え!魔法だけでそんなに進んだんですか?」
「私、小太刀も使うのよ…いつもは収納庫にしまっておいてるし、登録も魔法使いだけど」
じゃなきゃソロでやっていけないもんね。
「だけどね!私…ムカデは大嫌いなの!黒光りする体とか、赤い脚がカタカタ鳴る所とか、鳥肌が立つの…リーチが短いからどうしても魔法主体になっちゃって…そうなるとどうしても魔力が足りなくなって」
あはは。シーナさんと一緒だ。
「いいですよ?ついでに17階層も越えちゃいましょう!」
「本当にいいの?私は助かるけど」
「そこは同じ落ち人の誼って事で」
「ユーリ、中入る」
「あ…寒いしね。良かったらどうぞ?」
「凄く広いのね…ルーン様の加護を?」
「そうですね。貰えちゃいました…何か面白い魔法とか考えるといいみたいです?」
「私も祝福は貰えたけど…面白い魔法か…」
別に狙って面白い魔法を考えた訳じゃないけどね…特に触手とか。
「それって補助魔法?私は体温を少しだけ上げる魔法を覚えたわ。こっちの冬って厳しいよね?」
そっか…私は服に付与したりしてたから必要性は感じてなかったな。
逆に夏の方が苦手だし。だから亜空間も他の眷属達よりも温度が低めなのかな?
喋っているうちにみんな帰って来た。チャチャが汁物を作ってくれていたのでエメルは肉を焼き始めた。
「前に会った時より人数多いわね…パーティーメンバー?」
「まあ、そうだね」
シールドトータスの話やモチの事は教えたけど、さすがにみんなの事は言わない方がいいかな。リナさんはモチの事も怖がっていたし。
キングスライムと聞いてマッサージをねだるシーナさん達とは違うね。そこは冒険者としての経験の差なのかな。
うん…エメルがシールドトータスだって事も黙っていよう。信用できないとかじゃなくて、リナさんは慎重過ぎる人だからね。
「リナさんはどこかのダンジョンをクリアした事ある?」
「ないわ…ほぼソロだから、ダンジョン攻略には消極的なのよ」
「そっか…今まで入ったダンジョンでいい所はある?」
「そうね…アライト国のダンジョンで、中身がほぼ全てアンデットだった所かしら…ほら、魔石って値崩れしないじゃない?範囲指定の聖魔法で一発だったから、かなり稼げるダンジョンね」
「ふ…ユーリには無理だな。お化けが怖くて入る気も起きないだろ?」
確かにそうだけど!テッドに指摘されるとむかつく。
「アンデットだって所詮は魔物よ?同じ事じゃない…しかも弱点がはっきりしてるから魔法の選択を間違える事もない」
正論だけど、怖い物は怖い!
次の日、ダンジョン入り口で待ち合わせしてムーンにだけ一緒に行ってもらって、12階層へ行く。
まあ、いきなり魔法を使うシーナさんよりはましかな?
13階層に行くと、リナさんは杖を仕舞って小太刀を出す。
抜き様に一閃させると、ワニは肉を残して消滅した。
複数で出ても問題ない。左手に持った鞘を牽制に使ってあっという間に倒していく。
念のためにムーンに護衛をお願いしたけど、必要なかったかも。
「凄いですね…」
「10年も冒険者やっていれば普通よ。魔力には限りがあるし、マジックポーションはそれなりに高いし」
うーん…錬金術も使わないのか。確かに亜空間の部屋には器具もなかった。
護衛は全く必要なさそうだな。シーナさんとレイシアさんが合わさった感じ、Aランクでもおかしくないと思う。
「リナさんて、Aランクになれると思う」
「あなただから実力隠してないけど、普段は剣も使わないし。それにAランクって目立つのよ」
敢えて避けてるわけか。ムーン達はこのまま実績を積んでいけばAランクになれるけど、やめた方がいいかな?指名依頼があったら私はパーティーに入れないし。
2ランクまでなら離れてても大丈夫とはいえ、指名依頼は別だ。
15階層まで一気に行った。
「この下に行く階層はゴーレムが守ってるんですよ。ただ、罠部屋もあって」
「なるほど。…あれはトレントね」
小太刀の刀身が赤く光る。火の付与だ。
「火だけなんですか?」
「火を苦手とする魔物は多いし、勿論対人戦闘でも役に立つわ。ユーリちゃんはまだ経験ないわよね?」
「まあ、年齢的に…それを考えると怖くもありますね」
「こればかりは慣れね。日本だって昔は刀を持っていたし、軍もあったじゃない」
私も夏になれば10歳だ。護衛依頼も受けられる。前から分かってはいたけど。
眷属のみんなが強いからって、嫌な事から逃げていたらだめだよね。




