納豆ねばねば
きな粉棒を作った。懐かしい味覚だ。水飴状の甘味だから混ぜるだけで簡単に作れた。ふと、枝豆が目に入る。うん。ずんだ餅も作れるな。えへへ…
「これ、美味しいわね!さすがユーリ」
「駄菓子だな」
「駄菓子っていうの?」
「いや、きな粉棒。小さい子供が喜んで食べる物を駄菓子って言うんだ」
「へえ…あとは?」
「ユーリが米からポン菓子作ってただろ?あれもそうだな」
「あれも美味しかったわよね?私的にはプリンとかゼリーが好きだけど」
「全く。食べ物に関する知識は凄い物があるよな…正直感心する」
「ユーリはリリアナ様から加護も頂いているみたいだし」
「あんだけ色々作っていれば注目もされるだろうな」
効果は育成…農耕神だからな。俺は要らないな。
今日もソイズダンジョンだ。まずは11階層のレッドハウンドだ。赤犬の狂暴バージョンって感じかな。
スピードもあるから横に避けてそこに双剣を振るう。
ん…これは牙か。私の場合砕いて研磨剤位にしか使わない。
この程度なら、まだまだ苦労はしないな。テッドも守って貰わなくてもついていけてる。見切りのお陰だろうな。まあ、まだ甘いけど。
ん…?この壁、黒い?
「みんな、ちょっと待って。この壁、おかしくない?」
「む…この下の所、窪みがあるぞ?」
みんなで色々やってみたけど、開かない。
「ん!もしかして!」
ユーリは下の溝に手をかけ、上に押し上げた。シャッターガラガラ。
「か…変わった扉ね」
「よく気がついたな」
中には宝箱。大当たりー!
中身は…緑豆だ。まあ、もやしにでもしよう。
「中身がショボいな。緑豆って…」
「もやしにするんだよ」
「…ああ。亜空間でも育てているな」
「何となくね…何か育ててないとつまんないっていうか」
「ふうん…ま、もやしは何にでも使えるからいいんじゃないか?」
もやしは万能野菜。何にでも使える便利野菜。それにすぐ育つし。
普通は中身だけ持って行くけど、細かいから宝箱ごと持って行った。
うん。階段も見つけた。…はあ、それにしても豆が多いダンジョンだな。
12階層はウミネコ?ニャーニャー鳴いてるけど、顔が猫だから混乱しちゃう。そしてそこに嘴がついている…この肉は鳥肉だろうか?それとも猫…看破では美味しいって出てるけど、微妙に食べたくない…あ。ムーンがつまみ食いしてる。
「美味しい?」
「まあまあだな」
それはいいけど、人の姿で生肉をつまみ食いしないでよ…他人の気配はないけど、絵面が怖いんだけど。
「拾わないの?」
「うーん、いいや」
それなりに肉はあるし、私はそんなにチャレンジャーじゃない。
折角の食べ物階層かもしれないけど、例えばワームなんかの肉が拾えても嬉しくないのと一緒だ。
テッド以外はつまみ食いしているけど、魔物を倒したら食べる。それはみんなにとっては普通の事なのだろう。
「じゃあ、私達が倒してドロップした肉はみんな拾っていいよ」
モコやチャチャがいれば綺麗になるし。
13階層は、サラマンダーだ。これも初見の相手だけど、吐き出す炎にさえ気をつければ怖くない。
ブレスは結界で弾いて、溜めの間に双剣でやっつける。
ドロップアイテムは鱗だ。防具に練り込めば炎耐性がつくし、護符にも出来る。みんなの着けている鎧には魔法耐性が付いているからブレスだったとしてもある程度なら防いでしまう。
ただ、覆われていない所は火傷してしまうので、注意が必要。
14階層は、クレイロック。粘性のある土が離れたり、固まったりしている。
そうしてその粘土を飛ばしてくる。ドライで水分を抜いてやると、ムーンが叩き割ってくれる。
ドロップアイテムは…やっぱり粘土だ。ピザ窯を作ったり、器を作ったりと用途は多いけど、普通に採取も出来る。
専門家じゃないから不恰好だし、レンガを作るのも同じ土を使ったりしてる。
まさかその粘土が魔化したりするなんて、思いもよらなかった。
ダンジョンは何でもアリだな。
今度の15階層は何かなー?
…あれ。この匂いは。
「ユーリの好きな納豆の匂いがするよー!」
エメルとテッド以外は顔をしかめている。
納豆だ!藁に包まれた納豆が、お箸を武器に襲ってくる!
納豆を飛ばしたら勿体ないよ!てか、剣がぬるぬるになる。クリーンの付与が間に合わない。
「むう…ぬめって攻撃がまともに当たらない」
「チャチャ、地面に生えているのはからし菜だよ?」
「辛いの?」
「それは…てか、良く見ると、香辛料が生えてるじゃん」
チャチャは唐辛子に目を付けたみたいだ。
「みんな、納豆が嫌でも、香辛料の収穫には協力してね!」
ユーリは鎌を出してみんなに渡す。
そっちは任せた!私は納豆と戦う!
とにかくピュアを連発しながら納豆を倒す。外れだと何も出ないけど、ドロップアイテムは小さく縮んだ藁入り納豆だ。
む…鎌の切れ味がすぐ悪くなるな…まあ、何の付与も付けてないし。
戦闘の合間を縫ってクリーン大の付与を付けていく。
不思議だけど、ピュアの付与ってないんだよね…クリーンで充分とも言えるけど。
草に見えたのが香辛料とか凄いな。
あ…でも胡椒はたまに弾けるし、わさびは切ると目が痛くなる。
…そして、あまりにもピュアを連発していたからか、蘇生の魔法を覚えた。…心中かなり複雑だ。納豆欲しさに聖魔法を使っていたら覚えたとか…なんてタイミング。
まあ、これで聖魔法は極めた。上級魔法初のフルコンプだ。とりあえず喜んでおこう。
ん…?なんだか誰かに笑われている気がする…いや、被害妄想だよね。
ユーリの表情見て笑い転げていたのは魔法神ルーン。
ちょっと早いかと思ったけど、授けてしまった。
「ほんと、ユーリは見てて飽きないよ」
その畳の間に音もなく現れたのはアリエール。
「もう、駄目じゃない。自分が楽しむ為だけに魔法を覚えさせるなんて」
「だって、こんな最高なタイミング、逃すのは惜しいよ。それに無理に与えた訳じゃない」
「そうね…私が加護を二つ与えたせいもあるし。でもそれを持つ資格は充分にあるわ」
「でもアリエール、ユーリなら大丈夫だろうけど、これからはもっと注意が必要だね」
「ルーンも手伝って!」
「そうだね…神格を得ても人の心は簡単に悪に染まる。ユーリには邪神になってほしくないからね」




