ダンジョンと図書館
ダンジョン9階層は、昨日買った秘密兵器をブーツに取りつけて、海藻が体に付かないように進む。
「自分で冒険するのもいいけど、下調べも大切だな」
「そうだね。でも次の魔物が分かってるのもつまらないから、調べるのは最低限にするつもり」
分かっていたら、冒険の楽しみが減る気がする。初めてのダンジョンが全く分からない状態だったからかな?それに食べられる物が出るダンジョンは楽しみも倍増だ。
食べ物が出るダンジョンといえばシタールダンジョンも物凄く中途半端だな。
毒々ダンジョンはどうでもいいけど、シタールは行ける所まで行ってみたい。
鰻もまた採りたいし、川魚も。
まあ、今は海産物が豊富なこのダンジョンの食べ物を調べつくしたい。
魔法石の転移があるからいつでも行けるのがいい。
最初はお茶が目的だったけど、優先度はこのダンジョンの方が高い。
ホタテも海藻も、随分集まった。海藻の方は触らずに範囲指定して直接収納庫に入れているから、魔力を吸われる事もない。
基本に従って右へ、右へと行ったけど、反対の方が近かったな。まあ、そんな時もある。とにかく次は10階層、ボス部屋だ。
出てきたのはビックトータス。グリーントータスの上位種だ。
空中から高速でくり出される攻撃は恐ろしい。動きを見切り、落ちた所に雷を落とす。そこにムーンが大剣を叩きつけた。
ドロップされたのは巨大な甲羅。大盾使いの冒険者が欲しがりそう。
エメルの大盾はミスリルで作ってあるから要らない。
まあ、売ってもいいかな?一人用のお風呂とか出来そうだけど、別に要らない。
「テッド、使う?亜空間を覚えたら一人用のお風呂が出来そうだけど」
「いや…お前ん所の大きい風呂がいいな」
まあ…仕切ってあるし、別にいいんだけど。
11階層は、バブルフィッシュだ。危険を察知すると泡を発して身を隠す。
魔力感知でどこにいるかは分かるので、弾力性のある泡を切り裂きながら本体を叩く。
ドロップするのは切り身だ。
宿屋で出たこれのカルパッチョは美味しかった。身がプリっとしてて、海藻と一緒に食べてもいいけど、玉葱スライスでも美味しそうだな。
っと…バブルフィッシュばかりに集中してたら壁から槍が飛び出した。危険察知に従って身体を動かしているので、余裕で躱せた。
泡だらけで視界が非常に悪いけど、みんながついて来てるのは分かる。ちょっと私が前に出過ぎかな?
ムーンとチャチャに前を譲って歩く。
「テッド、戦えてる?」
「この視界の悪さだと、仲間に当てそうで」
そうか…テッドとはパスで繋がっている訳じゃないから、見分けがつかないんだ。
ダンジョンだからパーティーで均等に経験値が入る。この階層でテッドは戦わない方がいいかな?
テッドに向かって飛んでくる槍を叩き切った。
「あ…っぶねー」
「自分でも察せるようにならないと危ないよ」
「おう…頑張る」
天ぷらにしても美味しそうだな。そして塩で頂く。
ふふふ。
「ユーリ…真面目に戦おうよ」
モコの呟きは、聞こえない事にする。
意外とすぐに階段が見つかった。たまにはこういう時もあるもんだ。
まあ、きっと後でまた採りに来るとは思うけど。
12階層は食べられない魔物だろうけど、何かなー?
ウッドパペット。人を惑わす人形…惑わす、ね。
確かにみんな、ちょっと行動がおかしい。パペット相手にダンスを始めたり、木で出来ているパペットを美味しそう!と齧りついたり。
正気なのは加護持ちの私とテッドだけだ。
「これはすぐに戻った方がいいな」
「そうだね」
強制的に影に回収して、ダンジョンから出た。
「俺、ギルドで調べて来るよ」
「じゃあ私は有効な錬金術の道具がないか調べる」
あの場から離れたらみんな正気に戻ったみたいだけど、魔物に戻ってしまい、モコとチャチャ以外は服が破れてしまった。
「モコはテッドの護衛ね。チャチャは私と来て」
図書館にモコを連れて行ってもひんしゅくを買うだけだからね。
さすがに王都の図書館だけあって、蔵書量はかなりの物だ。
一度入ると出たくなくなるので、我慢してきたけど、今は調べ物をしなきゃならない。
本当はギルドだけで事足りるかもしれないけど、状態異常を防ぐ物はこれからも絶対に必要になってくる。
(ユーリ、耳を塞げばいいらしいぞ?)
(耳には聞こえない周波数の音か…この際だから、色々な場合に備えて調べてみる)
(いや…数時間じゃ済まないだろう?)
(分かってるけど、折角王都にいるんだから、調べ物をしない手はないと思う)
私の商業ギルドのランクは結構高い。だから専門書の類いもそっち方面なら読めるのだ。
思い立ったが吉日ともいう。
「ごめんね、チャチャ。付き合わせて」
「いい。私の方が適任」
モコじゃ絶対寝ちゃうからね。
私が錬金術の本を読み進めていると、チャチャは料理の本を持ってきた。
しばらくして、植物図鑑まで持ってきた。
良かった。チャチャにとっても有意義な時間になりそうだ。
次の日も、図書館で調べ物。テッドも錬金術の本を読んでいる。私達について来たのはチャチャとエメル。
料理の本と聞いて、興味が沸いたようだ。
みんなにメモ用紙と鉛筆を渡して、気になる所を書き写す。
「思ったんだけど…補助魔法で思い出せるんだから必要なくないか?」
「そんな事ないよ。こうやって書くと覚えられるんだよ」
いいな、この万能薬。備えておけばどんな症状にも対応できる。
多重構造の魔方陣。これを作れるようになればゴーレムを制御出来る。…でもこの本に載ってる物じゃ、歩く、動く物に剣を振る。単純な動きしか出来ない…あのダンジョンのゴーレムは横移動、それにダンジョンの魔物には反応しなかった。それを為すのにはまた別の回路が必要だ。
(ユーリ?調べるのは薬とか護符じゃなかったのか?)
(万能薬は作ろうと思う。けど、材料にはかなりの幅があって、色々難しい)
(そりゃ…ポーションになる薬草だって何種類かあるんだから、当然だよな)
(あと、幾つか作ってみたいのも出てきたから、それも調べてる)
(あと…召喚獣の本も見付けたんだけど、これはテイムのスキルは要らないみたいだな)
(契約のスキルは必要なはずだよ?それに思った通りの魔物が出てくるか分からないし、その場限りだし)
(魔方陣の書かれた布があれば割と簡単みたいだな)
(ユーリは召喚獣なんて止めてよ?私達がいるんだから)
(私は興味ないよ。戦わせるだけの捨て駒なんて可哀想)
(それぞれに欠点も利点もあるな…まあ、俺もいいかな。確かに使い捨ては嫌だし)
てかテッド…今は錬金術でしょ?
私もちょっと外れてる。ハーブの配合だから全く関係ない訳じゃないけど。ぐっすり眠れるとか、集中力を高めるとか、役に立ちそうではある。
うん…!色々作りたい!




