皇都でお買い物
数日遅れで私も9歳になった。
落ちてなかったらアラフォーだけど、この体になってからはあんまり実年齢は気にならなくなった。
さすがに落ちて7年も経てば、この世界にすっかり慣れた。
少し気になっているのは、みんなが人化した姿がその当時と全く変わらない事。
エメルとムーンは大人だからいいけど、モコは10歳相当だし、チャチャも14歳位。同じ所に留まり続けるのは無理かもしれない。
二人共実際は大人らしいから、姿が変わる事もないらしい。
人化した姿は仮の姿。でも意図的に変えられる訳じゃない。
今はまだ不思議に思う人もいない。でもどこかでボロが出そうだ。
コーベットはいい町だし、田んぼの事もある。出来れば住みたいと思っていたけど、定住は無理かもしれない。
旅に出たい気持ちには変わりない。各地のダンジョンに入ったり、魔道具を作ったり。
ふるさとみたいな物かな?幼少時代を過ごしたあの場所もふるさとと言えるし、醤油を育てているから、あの場所には度々帰るだろう。
実際いたのはリロルの方が長いけど、コーベットの方が程よく田舎で落ち着く。
けど、モコ達の事を考えると、無理は出来ない。
まだ私の方が小さいけど、妹がお姉ちゃんの身長を抜かしたらまずいな。
幸い、ギルドカードの年齢は勝手に更新されたりしない。申告制だから、拠点を移せばばれない。
今日は、アルメリア皇国の皇都に来た。
ゲートを開いた一番近い町からムーンに乗り、透明に見える魔法…正確には回りの景色を遮らない魔法だから、匂いで魔物に気付かれる事もあるし、障害物は避けて通らなければならない。
脳内地図に大体の方角を示して、ムーンに指示する。
ああ…癒されるな。この辺はモコモコがいっぱいだ。
でも今日の所は皇都だ。
皇都の近くに丘があったので、そこからはみんなで徒歩だ。
「はう…可愛いよー!お持ち帰りしたい!」
モコモコのパンチは全然痛くない。ワイバーンのマントが衝撃を防いでくれる。
「肉にして、お持ち帰りな?」
酷い。私が抱きついているモコモコの首をはねるなんて。
「ああ…でも肉も好き!」
呆れてため息をつきながら、テッドが手早く血抜きをして解体する。
モコモコの強さはゴブリンとたいして変わらない。
モコモコの毛皮は暖かい。亜空間で使っている炬燵の魔道具の上掛けにはモコモコの毛を詰めてある。
現在、ベッドの上にはラビットの毛皮が敷き詰められているけど、羊毛布団もいいな。
皇都は王都より更に人が多い。探検のしがいがありそうだけど、自由に動くのも大変だ。こういう所はスリに気をつけないと…なんて、収納庫に入っているから全く心配はない。
あ!モコモコの肉のジャーキーだ!ジャーキーの類いは収納庫に入れておいてもすぐに無くなっちゃうんだよね。
あ、ソーセージもあるんだね。いっぱい買う!
ちょっと高級そうなお店だけど、ここは茶葉の店だ。店先で売られているのは安い、籠一つで銅貨一枚で買える物で、お湯の上に葉を直接浮かべて飲む物だ。
この辺なら自分でも簡単に採取して作れるので要らない。
中には瓶に入った各種ハーブの他に、紅茶があった。
あ…緑茶もある!焙じ茶も!
「この辺は交易品ですか?」
「遥か西のモノクスの地からと言われていますが、その周辺の国でも栽培されていますね。当店の物はモノクスからの輸入品です」
なるほど。緑茶はあったから、持ち込めたって事か。
緑茶は欲しいな。現地に行けば、安く買えるだろうし。
「一つ下さい」
まずは緑茶。そうしたら少しずつ西に旅をして、紅茶も買う。
グラム売りしてるような高い緑茶は飲んだ事はないけど、瓶一つで金貨二枚だから相当高い。まあ、お金には困ってないからいいけど。
茶葉の店から出たら、ムーンが私を抱き上げた。
腕に座らせるお子様抱っこだ。
店員の様子から高い買い物をしたと見られて目をつけられたかな。
「ごめんね。迂闊だったかも」
「いや、いい。次はどこに行く?」
テッドには誰がついているのかな…あ、珍しい。チャチャだ。
エメルとモコが一緒に行動しているみたいだ。
「魔道具の店かな。ムーンは見たい所ない?」
「俺は、いい」
まあ、ジャーキーも結構手に入れたし、ムーンがおやつで食べるだろう。
凄く、視界が高い。ムーンはいつもこんな目線で見てるんだ。
でも、小さい子供でもないのに、ちょっと恥ずかしいかも。鬱陶しい視線が消えたら下ろしてもらおう。
中でもわりと大型店舗に入ると、まるでホームセンターのようだ。
据え置き型の大型コンロもある。オーブン機能も付いた優れものだ。
これ位なら材料さえあれば自作できる。
洗濯機?…じゃ、ないや。魔力を流すだけでクリーンをかけてくれる箱。
クリーンを使えない人にとっては便利だけど高いな。
マジックバッグも魔道具扱いだ。それと、お金を入れる袋も安い値段で売ってる。
でも、空間拡張の効果しかない。お金ならそれだけで充分か。
どちらにせよ高い。まあ、魔道具は高価な物だ。私もそれを売っているからかなりお金持ちなんだけど。
ドライヤーは…風だけか。温風が出れば便利なのに。
作って登録すれば普及するかもしれないな。どうせなら髪を巻けるのがいいな。
ならヘアアイロンも欲しいよね。この辺はあっても不思議じゃないから、商業ギルドで確認してみよう。
うん。作りたい物も出来たし、ここはこの辺かな?
店員さん、冷やかしでごめんなさい。
古着店でエメルとモコを見つけた。
「見て、ユーリ」
どことなく和風なデザインだ。このサイズはチャチャかな?エメルだと胸がきつそう。
「可愛いけど、チャチャ着るかな?」
チャチャはスレンダーな身体に沿うような服が好みみたいだ。
「たまにはいいじゃない?」
「確かに。意外性があっていいかも」
「それと、ユーリはこれどう?モコとお揃いなの!」
「それはダメだったら!もう。どうしてみんな、ボクに女の子の格好させたがるのさ!」
「こういうお買い物の時とか、モコとお揃いの服着たいなー?」
「うっ…」
「モコ、可愛いさは性別を越えるんだよ」
「本当にボクが着てもおかしくない?」
「勿論。凄く似合うと思う」
「なら…ユーリが着る時なら、ボクも着るよ」
やったー!
次はチャチャ達のいる防具店だ。テッドは革手袋を熱心に見ている。
「手袋って、指先の動きを妨げない?」
「ぴったりしたいい物なら、グリップ力が上がるんだぜ?」
「そっか…ここにあるのは大人用みたいだし、作る?」
「こんなデザインで出来るか?」
「え?デザイン関係あるの?」
「サイズ自動調節も付けて。そうすればバイクを作った時にも使えそうだし」
えええ…実はそっちがメインなんじゃ?
「まあ、いいけどね。何の皮がいいのかな?」
「モコモコの皮は使えないかな?あ、もふもふは要らないからな?」
まあ、あったら邪魔だろうし。要するに羊の皮がいいのかな?
手袋なんて、寒さを凌ぐ物だと思ってたけど、確かに冒険者が使っているのを見た事もあるし、動きを阻害しないなら、ありかも。




