誕生日
コーベットは相変わらずのどかな町だけど、宿屋が新設されたり、小麦が育っていた田んぼは今はほぼ稲だ。
交易品としての人気は年々上がっていて、他の領主の町でも試験的に栽培されている。
町の中に川が通っている所では、地下水に頼る事なく栽培されているとか。
国の端から広まった米は、全国に、他の国でも広まりつつあるようだ。
中には小麦に拘る国もあるが、それはそれでいいと思う。
パンやうどんが食べられなくなるのは悲しいし、広まり始めたパスタも小麦だ。
冒険者ギルドで要らない素材を売っていたら、ムーン達はBランクになるので、拠点を変えたら申請して欲しいと言われた。
そういえば、そんな決まりもあったな。亜空間移動であちこち行くから、面倒な決まりだ。
私もあと一年で10歳になるから、ランクの変更もあるかもしれない。
ギルドに魔法の実力は知れているし、ダンジョン素材の売却も、家族で共同処理してもらっている。
今から考えても仕方ないけど、ちょっと面倒。
私はムーン達のおまけでいいよ。
商業ギルドに行ったら、私に精米の魔道具の注文がいっぱい来てた。
「私しか作れない訳じゃないですよね?」
他にも職人さんはたくさんいるはずなのだ。
「古い方の魔道具なら作れるんですけど、新しい方は難しいらしくて。お願いできますか?」
見ていて途中で止めればいいだけなんだけど、誰もが扱い慣れた魔道具じゃないから仕方ないのかな。
「分かりました」
テッドにも手伝ってもらおう。広い地域で作られるようになったから、仕方ないのかな。
(テッドは折角だから、何日か両親に甘えてきたら?)
(何言ってんだよ!てか、来いよ。父さん達が呼んでる)
なら、さっさと言ってくれればいいのに。
活動報告とかしなきゃならないのかな?まあ、テッドの護衛として頼まれている訳だから、ちゃんとした仕事だ。
テッドの家に向かった。
おお、兵舎が増えている。家の方は相変わらずだ。伯爵になったんだから、建て替えとかするかと思ったけど、そういうのを好まない人なんだろう。
門前で止められたので、テッドと約束があると言ったけど、信じてもらえなかった。
(テッド、中に入れないんだけど?)
兵士の数も増えたから、私の顔を知らない人も大勢いるだろう。
「ちゃんと伝わっていなくて悪い。一人で行動してると思わなくて」
そっか。テッドの護衛が同じ歳の子供だとは思わないもんね。
「まあ、領内で兵士の異動もあったから」
「坊っちゃま、言って下されば私が行きましたのに」
「だってユーリの事、知らないだろ?」
坊っちゃまだって。
(笑うなよ。俺だってそんな呼ばれ方は嫌なんだから)
「いらっしゃい、ユーリちゃん」
「久しぶり…ってほどでもないか。ほんの数ヶ月だけど、テッドの我が儘につき合ってくれてありがとう」
「いえ。私もそれなりに楽しいです」
「今日はテッドの誕生日もだけど、ユーリちゃんも一緒にお祝いしようと思って。ほんの数日の違いだし、ムーンさん達のお祝いとは別にね」
誕生日は魔物には殆ど関心がないから、何が嬉しいのか分かってないみたいだ。
メイドさんかな…違う。違う魔力?
「シーナさん、もしかして妊娠されてます?」
「!あ…お医者様にはまだ見せてなくて…分かるの?」
「違う魔力を感じたので」
「ほ…!本当かい?シーナ!」
「ごめんなさい…はっきりと分かってからと思って。勘違いだったら嫌だし」
異種族同士では子供はできにくい。
「おめでとうございます!」
「ありがとう…うふふ。人族でもエルフでもどっちでもいいけど、女の子がいいわね」
「全く分からなかったな…」
「普段から気配には敏感だからね。テッドもお兄ちゃんになるんだから、あんまり子供っぽい事言ってたらだめだよ?」
「テッドは両極端だったな。今では上の世界の記憶があったからだと分かるけど」
「何も教えないうちから魔法も使ってたものね。私に似て天才なのかと思ったけど、ユーリちゃん見てると普通かしらね」
「私だって普通ですよ。ただ、育った所が町の外だったってだけです」
「ふふっ。どんな名前がいいかしら?勿論女の子の名前ね」
「男の子だった時の名前も考えないと」
「それは嫌。親子でお揃いの服を着たり、可愛い服を着せてあげたいもの」
そういえば、そういう親子を見た事あるな。上の世界で。
思いもかけず、誕生日とシーナさんの懐妊祝いになってしまった。
ほんの数ヶ月だけど、テッドが米のフロアまで行けた事。それに王都での話しなど、報告という名のお喋りは続いた。
「テッドはかなり強くなったのね。あのタケノコは予見か見切りのスキルがないと避けるのは難しいものね」
「予見か…見切りはとれたけど、そっちも欲しいな」
「冒険者時代に取れたスキルだけど、ちょっと先が分かるのよ。ユーリちゃんは持ってそうね?」
「ええ…まあ」
私の場合は目のお陰だけど。
「あそこのダンジョンて、難しい方ですか?」
「そうね。難しいダンジョン程、宝箱も出るのよ。それに、今まで誰も入った事のないダンジョンだし」
なるほど…新発見のダンジョン程、宝箱が出やすいのか。
ムーンの前の大剣に、モコの杖。それにスキル珠も。
腕輪も出たな。マイクさんに渡したやつ。
私まで誕生日のプレゼントを貰ってしまった。中身はお洒落なドレスだ。
このヒラヒラは、私よりモコの方が似合うんじゃないかな?
うん…どんな時に着たらいいか分からない。一緒に入っていた共布で作られたリボンは多少長いけど、やっと伸びてきた髪に結べそうだけど。
「それ、モコの方が似合うんじゃないか?」
「もう!テッドまでボクにヒラヒラを着せようとするの?ボクは男の子なのに!」
「まあ、どうせ私には似合わないしね」
「一度は着てみたら?母さんが選んだから、着て見せてやれば喜ぶと思う」
「そうだね。一度も袖を通さないのは勿体ないし」
なるほど。シーナさんは娘にこういうのを着せたいんだな。
スカートも滅多に穿かない私には似合わない気がする。
亜空間の仕切りを解いて姿を見せると、みんな誉めてくれた。
「ユーリもやっぱり女の子ね!可愛いわよ?」
「似合う」
「ボクよりユーリの方が似合うよね?ムーン」
「む…そうかもしれない?」
何故に疑問型?ああ。モコも似合うと思ってるんだね!
「馬子にも衣装だな」
「はいはい、言うと思ったよ」
とりあえず、亜空間から出て見せた。
「やっぱり可愛いわ!」
「ドレスなんて着たの初めてなので、変な感じです」
確か、ドレスの端を摘まんで足を引いて…何だっけ?カテーシー?カーテシー?
カテーテルなら知ってるけど。
「慣れていなくても体幹がしっかりしてるから、とても綺麗よ?ほらテッド、こういう時はダンスに誘わないと」
「ええっ…お手を拝借?」
「宴会の幹事か!」
「やあねー。テッド、緊張しているの?」
「なっ…」
「…やっぱり他の女の子も来てもらえば良かったかしらね?全部断ったけど」
「そういうのはとりあえずライアン兄さんが先だろ?てか、女子は苦手なんだよ」
「モコとはあんなに仲いいのに!」
「はあ…まあお前は女子扱いしなくていいから楽だけど」
「まあ私も、男の人は当分いいかな」
「とにかく俺は冒険者になるんだから、貴族のそういう面倒な事に巻き込んで欲しくないな」
「テッドは相変わらずだな。でも、テッドは私の子供だから。それは何をしていても家がここにあるという事だし、三男でもその名はついてまわる」
「分かっている。名前を貶めるような事はしないよ」
良くも悪くも真面目だからな。テッドは。いずれは世界へ落ち人を探して旅立つのだろう。今はまだ子供だから護衛を付けられているけど、大人になれば分からない。
亜空間移動やディスペル。覚えなきゃならない魔法はまだたくさんある。
そう経たないうちに成し遂げそうではあるけど。




