朱雀
テッドと二人森を抜けて行く。けど、二人きりではない。他にも朱雀に願いを聞いて貰おうと思っている人も歩いている。
この森には魔物の気配はない。近寄れないのだ。
耳もとで、鳥の声を聞いた気がした。
「やったー!待ってたよ!」
「え?何、テッド」
「は?何も……え?」
景色が一瞬にして変わる。
世界樹の前に広がる草原には、色とりどりの花が咲いている。
「アリエール様と、あの青龍のお気に入り。うんうん、可愛い子」
世界樹に止まっていた朱雀が翼をはためかせて降りてきた。
「お、よく見たら君も加護持ちなんだ。まあ、とりあえず置いといて。ユーリ、何度か姿は見に行ったけど、こうして話すのは初めてだね」
「ええと…あの小鳥?」
朱雀の姿が縮んで、雀より丸っこい形になる。つぐみっぽい。
「正解!ね、友達になってよ」
「いい…ですよ?」
「あ、別に敬語とか要らないから。じゃあ友達の印に、可愛い呼び名をつけてよ」
「ええっ…ぴよちゃんとか」
「ぴよちゃん?!」
テッドはジト目で見てくるけど、本人は喜んでいるみたい。
「四神獣の中でも一番親しみやすいこの私にはぴったりね!」
「…いいのかそれで…」
ていうか、ユーリのネーミングセンスはどうなってるんだ?スライムにモチとか。
「ここに来る人達は同じ事しか言わないの。加護が欲しいとか、世界樹の葉が欲しいとか、病気を何とかしてくれとか。ユーリは違うよね?」
「い…一応加護を…ううん!もふもふさせて!」
掌に収まった小鳥を、優しく包む。
「ふあ…最高のもふもふ!」
頬擦りして、うっとりする。
「ありがとう、ぴよちゃん」
ぴよちゃんは、もふっと胸を反らす。
「友達になれそうな子はなかなかいなくて。ユーリの側にも魔物の眷属がいるけど、それはユーリが何に対しても優しいって事だもんね。あ、加護はあげるよ?ついでに世界樹の葉も。錬金術の腕前もなかなかみたいだし…まあ、君にも加護を上げるよ。だからちゃんとユーリを守ってあげてね?」
「えー…守る必要、ないんじゃ」
「女の子には優しく!」
「はあ…分かりました」
「何故、聖域を離れて私を見に来たんです…来たの?」
「ここ、私の場所だから居心地はいいけど、別にどこにいても願いは聞こえるし、場所に拘る必要はないの。願いの全てを聞く訳でもないし、ここには人は入れない。暇だから人の世界を見て回ってるの。ユーリは凄く目立つから!」
うう…どんな印がついてるのかな…恥ずかしい。
「じゃあ、ぴよちゃんの加護持ちはいっぱいいるの?」
「ううん…私がいいと思った人だけ。心が汚い人にはあげないよ?」
まあ、それもそうだよね。気前がいい所はアオさんに似てるかな?
「ぴよちゃんも、料理を食べたりする?」
「料理ー!青龍に話を聞いて、羨ましいと思ってたんだー!甘い物がいいな!あ、でもあんまり食べられないから、ほんの少しだけね?」
小皿にクッキーを砕いてやると、つついて食べた。ほっこりするなー。
「美味しかった。ありがとう!ね…また来てくれる?」
「勿論。友達だもんね。またもふもふさせてね」
気がつくと、消えた所と同じ場所にいた。聖域にゲートは開けないって事かな。
「何か…命知らず?てか、ぴよちゃんはないだろ」
「えー。可愛いと思うけどな。鳥だからぴよちゃん。いいじゃん」
「これだけ人が来てるのに淋しいのかな」
「一方的だからじゃない?私はアリエール様の加護を二つも持ってるから、ぴよちゃんも気になったのかな」
「二つ?…何だそれ」
「×2になったんだよね。目の封印が解けるのが怖い」
「…聞くのは怖いが、何があったんだ?」
「私の担当妖精はドジっ子で、多少の願いなら聞けるっていうから、近眼を治して欲しいってお願いしたんだ。本来ならもっと年齢が高い状態で落ちるはずだったのに、生きた細胞を残したまま、右目がない状態で落ちたの。で、界の管理者がそれを補填してくれて、そうしたら右目がチートになって、目に関するスキルがたくさん取れて。その中に本来なら魔物しか取れないスキルが取れちゃって、それをアリエール様に封印して貰ったんだ」
「…おおう。何かすげーな。つうと、その妖精がドジやらなきゃお前は、ずっと年上だった訳か?」
「多分ね。まあ、もしもなんて考えても仕方ないよ」
あの時は頭が真っ白になったけど、今の私が幸せならそれでいい。
フレイは、どうしているかな…修行、ちゃんとやれてるかな?界の妖精に戻れたら会いに来るって言ってたけど、音沙汰ないのはまだ修行中なんだろう。
修行でも失敗して泣いてないといいけど。
まだ時間はあったので、近くの町に寄ってみた。旅人が多いせいか、宿が多い。
話を聞いていると、折角来て何度も祈ってるのに、加護も祝福も貰えないと、文句を言う声が
聞こえた。
見かけで人は判断できない。何らかの判断基準があってぴよちゃんも色々授けたりしているんだよね?
「町に入る前にモコ達も呼んでやれれば良かったな」
人が多すぎた。亜空間に出入りする時は充分に気をつけないとだめだろう。
亜空間に戻って今日の話をしたら、呆れられた。何で?




