井戸の設置と魔晶石
トトスの町は、主に畜産業で成り立っている。例外はあるが、モーモーもコッコも、小さい頃から育てればある程度は人になつく。
へえ…山羊もいるんだ。
鑑定 メーメー ブリーダーにより飼育された種
メーメーって…本当にまんまだな。
「メーメーの乳のチーズは美味いんだ。帰りに買って行こうぜ」
うん、楽しみ!
「テッド様、ユーリさん、鍛冶屋のドットです」
がっしりとした体格に低めの身長。もしかしたらドワーフ?
コーベットの鍛冶屋さんは人族だったから、初めて見た。
「キースさん、物は揃えたぜ」
「ご苦労様です。では、お願いします」
3Dマップで確認し、下水に当たらず、水脈に繋がる所を探す。
「ん。ここだね。テッド、お願いね」
「おー。次のはユーリがやれよ?」
テッドが土魔法で開けた穴に、パイプを連結させ、差し込んでいく。
次はここの土地か。うーん。予定地より少し離れるな。
同じように穴を掘っていく。
「ユーリ!」
「ミア、久しぶり」
嬉しいのか、ふさふさの尻尾が揺れている。ああ…もふりたい。
「井戸ってユーリが作ったって前に聞いたけど、本当だったんだな」
「ミアの家はこの近くなの?」
「ああ、そこだよ」
網が付いた柵の中には、たくさんのコッコがいる。コッコの卵はビッグコッコの物より少し小さい。
「本当にコッコだけなんだね。ビッグコッコはいないの?」
「はあ?あんな狂暴な奴、飼えないって。…いや、卵から孵せば懐くか?」
「ね、ミア。テイマーとブリーダーって違うの?」
「テイマーはテイムのスキルがないとなれないけど、ブリーダーは知識があればなれるんだ。ユーリはテイマーのくせに知らないのか?」
「あはは。知らなかった」
ブリーダーって、血統書付きの犬とかを繁殖させる人だと思ってたし。下の世界では意味合いが少し違うみたいだな。
「参ったぜ。学校に行ってる間に生まれた奴らがなかなか懐かなくてよ」
「おーい!サボってんなよ!ユーリ!」
「なんだ。テッドもいるんだ」
「米作りが本格的になったから、私一人じゃ終わらないもん」
「そっか。頑張れよ。私も米は結構好きなんだ。終わったら家に来てくれよ?」
「ありがとう、ミアもね」
頑張ろう。田植えに間に合わなくなる。まあ、コーベットの方は終わったから、そこまで数はないけど。
取り付けが終わって起動させると大量の水が溢れてくる。
懐かしい光景。田んぼに水を張って、ゴールデンウィークには田植えするんだよね。まだ気温からしてちょっと早いかな?
何とか今日の予定を終わらせ、亜空間に戻った。モコとモチが迎えてくれる。
「役に立たなくてもボクも連れて行ってくれれば良かったのに」
「ショーユの実の事もあったし、来ても暇なだけだと思ったんだもん」
「ユーリに頼まれた魔鉄は採ってきたよ。採る人はいたけど、並んでなかったよ?」
それは良かった。
「だから言っただろ?収納庫やマジックバッグを持ってないと、重いし売り値もたいした事ないから採る奴いないって」
「魔鉄より価値の低い銅が並んでいたから焦ったんだよ」
「まあ、たくさんある分には困らないけど、井戸の方はもう本体は作り終わったんだろ?」
「言ったじゃん。籾摺りまでは鍛冶屋さんが作れても、精米機は無理だって。今だってコーベットに古い、目で見て判断して止めなきゃならない魔道具と、新しいのの2台しかないんだよ?トトスにもあった方が便利だし、直接取り引きするコーベットにはもう一台位ないと。作る量も増えたんだから」
「まあ…そうだな。なら俺はその間、ダンジョン攻略してていいか?」
「まあ…モコもいるし。でもここの所ずっと魔道具ばかり作ってたから私もダンジョン入りたいし」
「でも、新しい階層に行く時はムーン達も一緒じゃないと」
「分かってるよ。テッドがタケノコを避けられるように訓練するのもいいし」
「…分かってる。それに俺の武器だとゴーレムとは相性が悪いから、自力では抜けられないし」
「魔力を武器に込めれば行けそうだけど、無理に単独で倒す必要もないしね。それに罠部屋に繋がっていたらまずいし」
魔法の選択を誤れば命を落としかねない。
「とりあえず、シタールダンジョン、9階層までね。ボスは万全の体制で臨みたいから」
出来れば魚を採ってきて欲しいけど、攻略が先かな。
魔晶石は欲しいな。ダンジョンに期待しても無駄だし、自力で作るしかないよね。
マジックポーションも結構売っちゃったから、作り足しておこう。
特に何も考えず、軽い気持ちで魔石を二つ手に取り、合成…わ!出来た!初成功だ。
調子に乗って再びチャレンジしたら、呆気なく砕けた。
まさか、奇跡の一個?いや…錬金術の腕が上がったんだよね?あとはこの精霊文字の刻まれた指輪のお陰もあるかな。
これを使い始めてからコントロールは確実にしやすいし、余剰魔力も押さえられている。何も分からないうちにこんなの使ってたら魔法の天才だと錯覚してしまうだろう。
モコの杖を使っても似たような感覚はあるけど、あれは聖魔法に特化しているし、双剣使いの私には装備は無理。
エーファさんには感謝だな。本体を作ったのは私だけど、人族の私が精霊文字を扱う職人さんに頼む事はできないと思う。
お礼はテッドに還元するしかないけど、まあ…友達だし、そこそこやってあげてるつもり。もう少し素直な子ならスキルアップの手伝いも喜んでやるんだけどな。
ため息をついて、もう一度魔晶石を見る。熟練の錬金術師しか作れないって話だし、調子に乗っちゃうかも?
…いや、謙虚な気持ちは大切だよね。そして努力も。まだ一つしか出来てないし、私だけが作れる特別な物でもない。
まだまだ世には魔宝石なんて物を作れる錬金術師もいたんだし。
魔宝石は大きな魔術を使う時に使う国宝級の宝だ。実際目にした事はないし、本にも詳しく書かれてなかったけど、それでしか扱えない魔道具ってどんな物だろう。
軍事機密とか、そんなレベルの物かも?…今の私にはまだまだそんなの扱えないけど、目標の一つにしてもいいかも?なんたって私にはアオさんの加護もあるんだし。
まずは人数分…上手く行きそうならテッドも頭数に入れていいけど、悔しがるだろうな。勝負とかまた、面倒な事になるのも嫌だけど、魔力不足の気持ち悪さは良く知ってる。
意識消失したのは小さい頃の一度だけだけど、二度としたくない。子供には危険らしいし。
錬金術を続けていると、精神的な疲労が溜まる。リフレッシュは肉体的な疲労を回復する魔法だから、精神的なものにはあまり効かない。癒しの聖域なら効くけど、本人が使ってもあんまり意味はない。
それでも使わないよりましなので、ウォーターベットになったモチの上に寝そべり、癒しの聖域を使う。
モチが一番喜んでいる気がする。
軽く仮眠するつもりが結構な時間寝ていたようだ。癒しの聖域はもう切れているけど、モチの上が寝心地良すぎる。
ちょっと早いけど、夕飯の支度しようかな。
収納庫を確認したら、見覚えのないハーブが入っていた。
肉と一緒に煮込むと臭みを取り、柔らかくしてくれるようだ。
ムーン達だな。有難い。早速使ってみよう。




