シーナさん、遂に米を
モチが凄い。変形してウォーターベットになった。
弾力が何とも言えない位、素晴らしい。
「あら!ユーリちゃん。やっぱりキングスライムはいいわよねー?私にも少し貸して」
確かに極上の寝心地だけど。
「あら?超音波を使っていた訳じゃなかったの?」
「了解」
「あー、癒されるわ!そこ、肩の所もっと強くして!」
「………」
シーナさん、お宅の息子が冷たい目で見てますよ?
レイシアさんもさりげなく並んでるし。
マッサージも出来るモチ、凄いな。
さすがに人化はできないけど、小さくなれるから、人前では小さい姿でいてもらおう。
「今日の夕飯は何だ?」
「タケノコご飯だよ。それとけんちん汁」
「おー!なら俺も、タケノコ採れるようにならないとな」
「ユーリちゃん達が米を採ってきてくれて助かっているわ。ご飯、病みつきになりそうよ」
「他の場所では米、育てないんですかね?」
「育て方は聞かれたわ。でも精米の魔道具の所で躓いているみたい」
「んー?でも作り方は新しい物も商業ギルドに登録したはずですけど」
「籾摺りまでは出来るみたいだけど、他の場所でも玄米の状態では食べ辛くて、だから廃れてしまったのよね…あのね、ユーリちゃん。熱交換の魔道具は構造も簡単だったけど、分かっていても真似して作るのは難しいのよ?それに井戸の魔道具の事もあるし」
「あれは、どちらかというと、外側を作るのが難しいんじゃないですか?」
「うーん…ユーリちゃんは何故か井戸のある所が全部当たったけど、出ない時もあるのよ?下水を避けて作るとなると、さらに難しいわね」
あー…3Dホログラムにマップがあったから分かったんだし。
井戸自体はあるんだから、生活用水にも使えるように作ればいいんじゃないかな?
「要は、両方に使えるようにすればいいんですよね?」
「そうだけど…毎日使うとなると、魔石が大変そうね」
「なら、手漕ぎポンプ式の井戸にすれば?」
「田んぼに貯めるのは大変だよ?釣瓶落としよりは大分ましだけど」
「んー…川から用水路を引ける所ならな」
「昔作っていた地域はできそうね。精米の魔道具はユーリちゃんが作って売ったら?」
確かに新しいバージョンだと、時空魔法が扱える人じゃないと、作るのは難しいな。けど、図式は出来てるんだから、そっくりに作れば出来ない事はない。
「個人名が出るのは避けたいんですけど」
「じゃあ、作れる人が出るまで普及は難しくなるわね」
「精米って、魔法でも出来るんですよ?」
「それでも、それを教えるのはユーリちゃんになるのよ?」
…私が大人になったら考えてもいいかな。あるいは私が作って製品として売るか。
まあ、こういう物は一気に広まるのは難しいだろうな。
「ユーリちゃん、シールドトータスを借りてもいいかしら?」
「18階層に行くんですね。いいですよ?」
エメルなら、二人を乗せても余裕で泳いで行ける。
「でも、18階層はバジリスクですけど、大丈夫ですか?」
「レイシアは種族特性で殆ど大丈夫だけど、私は状態異常耐性を持っているわ。でも、石化してしまったらお願いね」
「じゃあ、とりあえずこれを。バジリスクの鱗も使ってるので、完璧じゃないですけど石化を弾いてくれます」
「あら!ユーリちゃんは本当に器用ね!やっぱり錬金術師はこういう物を作ってこそよね!」
うん。確かに家電もどきを作るのは錬金術師とはちょっと違うと思う。
「テッドは何階層がいい?」
「15階層。モコと行ってるよ」
エメルを自室で影に入れて、三人で向かった。
「私も。18階層の入り口で待ってる」
「行く、ダンジョン」
「モチはまだだめ。行きたいなら、一階層から誰かと一緒にね?」
18階層に来て、レイシアさんは大丈夫だけど、シーナさんは護符を持っていても石化してしまう。
「毒や麻痺よりも石化の方がレベルが高いのかしらね?」
「そうだと思いますよ?石化解除の呪文の方が後に覚えるので」
エメルも防いでたまに石化してしまう。
「シーナさん、バジリスクの鱗は必要ですか?」
「うーん。ユーリちゃんにあげようと思ったんだけど」
「い、いえ…それは」
「別パーティーのとか、関係なしに。このお守りだって何のためらいもなく貸してくれたじゃない?回復もしてくれるし。だからこれ位はね?」
「分かりました。米を採れるように頑張りましょう!」
「うふふ。そうね。ところで…何かあったの?」
「何も…とは言えないですね」
「話し辛かったらいいのよ。お陰であのテッドが女の子に気を使うなんてレアな場面も見られたしね!」
「女の子っていうか、友達が落ち込んでいたらちょっとは気を使うと思いますけど」
「テッドもだけど、ユーリちゃんも異性に対して変に苦手意識があるみたいね?」
「あはは…そういう所、前世の記憶持ちは厄介ですよね」
「そういうのは分かってあげられないけど、折角生まれ変わったなら、楽しまなきゃ損だと思うわ!ユーリちゃんは優しくて可愛い。充分自信を持ってもいいと思うわよ?凄く強い所とか、魔道具の技術を抜きにしてもね!」
「ビッククラーケンやキラーオクトパス等、私達でも倒すのは無理かもしれない。正直、その強さは羨ましい」
「まだまだ、レイシアさんの熟練の技には敵いませんけど」
レベルはもしかしたら抜いちゃったかもしれないけど、冒険者の強さはレベルだけじゃないと思う。
シーナさんとレイシアさんは、手で籾を集めて布袋に集めている。
範囲指定して集められないのは、大変だね。そう考えると、この階層も美味しいばかりじゃないのかもしれない。
時空魔法、持ってて良かった。
それでも、籾が落ちる前に布を広げて受け止めたり、下に落ちた籾を風魔法で集めたりと工夫している。
「テッドはもっと気合いを入れて鍛えなきゃダメね!」
いや…もうすぐコーベットの米が収穫できるのに…そしてテッドの収納庫もいいように使われている。哀れ?シーナさんの息子なら仕方ないでしょう。
亜空間に戻ると、テッドとモコが伸びていた。
「タケノコが強い…てか、急に出てくるのは反則だよな」
「ボクも今日はいっぱい魔法使った」
「だらしないわね。ごめんなさいね?モコちゃん」
「ボクは平気だけど、テッドはいっぱい怪我したから血が足りてないと思う」
「なら、今日はワイバーンのステーキにでもしようか?それともミノタウロスがいい?」
「ミノタウロスの方が鉄分がありそうだな」
まあ、そうかも。トロミを付けた野菜スープも作って、今日の夕飯にした。




