乙女ゲーム
転入生が来た。
ポート子爵の末娘の、セリカという、ピンクの髪にアメジストのような紫の瞳。
父親のポート子爵は、ダンジョンの調査を主な仕事としている。
こんな田舎ではピンクの髪の人なんて見たことなかったから、びっくりだ。何かのアニメキャラみたいだ。
そうして、夏休みの前までには、顔立ちの整った男子が周りを取り巻いていた。
ただ、テッドは別みたいだ。恐らく女子として意識していないんだろうな。
媚びるように話しかけられても照れたりとか、そんな感じがない。
それとモコ。は、女子として認識されているようで、仲良くしようとする気がないみたいだ。クラスでの呼ばれ方も女子にモコちゃんと呼ばれているし。
乙女ゲームのヒロインみたいな子が実際いるなんて驚きだ。
あのピンクの髪がそんな風に見せるのかな?
「ねえあなた、平民でしょ?どうしてテッド様と仲良しなのかしら?」
「うーん…幼なじみみたいな物かな?普通に友達だよ」
「…ヒロインになびかないなんておかしいのよね…やっぱり年齢がまだだからかしら?それとも平民にも悪役令嬢が?」
ええ?ヒロインて…ここはゲームの世界じゃないけど?てか、もしかして転生者?
でも、そう何人も使命を持った人はいないと思うし、下の世界にもその手の読み物があって、自分をヒロインと思ってる?
「いえ、きっと勘違いね。ヒロインは私だもの。テッド様はいずれ私の攻略対象になるのよ!あなたはただのモブなんだから諦めなさい!」
「…良く分かんないけど、テッドは単なる友達だよ?」
「そう。単なるモブならいいのよ」
仮にそういう本があったとしても、モブとか使うかな…
モコも実は男の子だと分かったら、狙ったりするのかな?…テッドはどうでもいいけど、モコが取り巻きになるのは嫌だな。
「ユーリ、夏休みの事、忘れてないよな?」
「大丈夫だよ」
「ちょっと!夏休みに何がありますの?わたくしの誘いは断ったのに」
「ダンジョン攻略するんだよ。ユーリの家族は冒険者だし。お前が転校してくる前からの約束だし」
「ダンジョンは今、お父様とお兄様が調査中ですのよ?」
「他の冒険者の行動を制限する物じゃないだろ?去年もやったし」
「けど、危険ですわ。特に山を越えるのが大変だとお父様も言ってましたし」
「ユーリの家族は強いから平気だよ。レイシアも付いてきてくれるし」
「夏休みの間、会えなくて淋しいですわ」
テッドの手を取ってうるうるするけど、テッドは手を払った。
「あんたさ、貴族の子女だろ?婚約者でもない男との距離の取り方、間違えてるぞ?」
「テッド様…そんな意地悪」
「ユーリ、モコ、ちょっと来いよ」
「…いいの?」
身分の事を出すなんて、テッドらしくもない。
「間違った事は言ってないぞ?ていうか、妙な違和感を感じるんだ。ユーリも神託のスキルは持ってたよな?一緒に来てくれるか?」
そんな風に言うって事は向かう先は教会だよね?同じ転生者かもって疑ってるのかな?
コーベットよりも造りが大きな教会。だけど、受け入れる人の数はコーベットの方が上かな?やっぱり領主がいる所が中心地なのかも。
いつの間にかたくさん加護を貰ったし、ちゃんとお礼言わないと。
テッドと一緒に祈ると、前に感じた感覚。
雰囲気が変わったのでそっと目を開けると、アリエール様がいた。
「丁度仕事が一区切りついた所だったのよ。久しぶり、ユーリと、テッドは転生前以来ね」
「な、な、な…」
「アリエール様、他の神様からの加護、ありがとうございます。それで、テッドの他にも転生者っているんですか?」
「私が選んで転生させたのはテッドだけよ?まあ、10年位休眠期間はあったけど」
「道理で微妙に話しが合わないと思いました」
「マジか…」
「テッドの魂は疲れていたから。それでも使命をこなすにはそれなりの魂が必要なのよ。あと、この世界は壁はあるけど上とは繋がっているから、迷いこんじゃう事もあるかもしれないわ。まあ、普通は何も覚えていないんだけど、絶対じゃないのよ。臨死体験をしたとか、精神的に強いショックを受けないと思い出さないかしら…えっと、この子かしら?セリカっていう子」
「そうです。何か乙女ゲームの世界と勘違いしてるみたいな所があって」
「ああ…微妙な魔眼持ちなのね」
確かに、良く見ないと分からないけど、片眼の紫が少し赤っぽい。
「そういえば、王都に家があるのに一緒に越してきたのは、二年前に高熱が出て以来、妙な事を言う娘が心配になったから、仕事も家族でまわっているって」
「説明ありがとう。可哀想だけど、封じた方が本人の為かしらね」
「それって魅了ですか?」
「そうだけど、そう強い物じゃないわ。相手に全くその気がないとかからないし、耐性スキルがあれば簡単に弾かれちゃう位。テッドは生命神の加護もあるからかからなかったのね」
「現実をゲームと勘違いしちゃうのは問題かもしれないですね」
「それでも、本人の性格は変わらないから、この子にはショックかもしれないけど」
「別に魅了がなくても本人美人だし、貴族の娘だからモテるんじゃないですか?」
「そうよね。知らせてくれてありがとう。それと、シャンドラの所の妖精の事も…そんなあなただから、自由に生きられたとしても関わってしまうのね…」
「同じ立場の人が困ってたら、助けたいと思います。その力も得ましたし」
「ユーリちゃん…でもそうね。あなたは一人じゃないものね。テッドもちゃんと助けてあげるのよ?」
「…こいつに助けって、必要なんですかね」
「テッド、乙女の心は繊細なのよ。私のようにね」
アリエール様も繊細?
「テッド?あなたに足りないものはそれね。まあ、彼女が出来ても長続きしない人だったものね」
「し…仕事が忙しくて」
「ふふふ。まあ、それでも選んだのは私。ユーリちゃんに頼りきりじゃだめよ?」
「わ…分かってます」
がくりと身体が戻る感覚。
「はあ…驚いたな」
まあ、私は三度目だけど。
「モコは呼ばれなかったんだね」
「何?何かあったの?」
「ううん。モコが魅了にかからなくて良かったなって」
「…何でかな…ボクは男の子だって言ってもあんまり信じてもらえないんだよね。でも、ボクは魅了になんてかからないよ?ボクにとってはユーリが一番だからね」
「従魔も一種の魅了な気がするな」
「ボクは只の従魔じゃないよ?眷属だからね」
「ふーん…って、分かんないけど」
「ユーリの特別って事。モチ以外は眷属だからね!」
「私達には特別な結びつきがあるんだよ」
テッドのスキルは詳しく聞いた事なかったけど、使命があるからきっと色々持ってるんだろうな。加護とかも。
私は…もしかしてテッドの側にいるから目立つとか?アリエール様の加護だけじゃなくて。
ちゃんと気がついてくれればいいな。ゲームの世界じゃないって。




