校外学習
テッドにはディスペルを覚えた事を伝えた。
まあ、王都まで行く余裕はないからまだ先になるだろう。
「俺だって!小学校卒業までには覚えてユーリに追い付く!落ち人を助けるのは俺の使命なんだから!…本当はバイクを作ってそれで颯爽と助けるつもりだったのに」
何だかなー。
「もしその人がバイクを怖がったらどうするの?」
「そんなユーリみたいな奴、滅多にいないから大丈夫だろ」
「私にはムーンがいるからバイクなんて要らないもーん!」
「普通の人はバイクよりもスコルの方が怖い。しかも魔物がいない世界から来ているんだから、巨大な狼なんて、怖いに決まってるだろ」
う…そう言われると何も言えない。
「マイクさんの方はどうするの?流石にバイクに乗って国境は越えられないんじゃない?」
「それは…収納庫に入れればいいし!」
「伯爵の息子だって、隣国に行ったら殆ど只の人でしょ?」
「まあ…下手したら人質かもな」
「それって大迷惑じゃん」
「うるせー!」
そもそもバイクなんてこの世界にないものに乗ってたら目立つじゃん。
新しい魔道具として登録してもいいけど、普及はしなさそうだな。
「私、亜空間移動出来るんだから、ダンジョンとかでレベル上げしたら?大迷惑をかける前に強くならないと」
「あ。その手があったな。まあ、どの道夏休みはダンジョンに行く予定だったけど」
「そうなの?シーナさんにチーズを頼まれたとか?」
「違うよ、バカ。俺だって将来は冒険者になりたいんだから、レベルを上げるのは当然だろ?」
「そっか。まあ、私も行くけどね」
実践訓練はあれから何度かあったけど、この辺は基本魔物が弱いから、物足りない。
生活の知識を習う学校だから、解体の仕方や、串焼き程度の事も教えてくれる。
さすがに平民の子でそれを戸惑う人はいないし、実践も出来る。顔をしかめて避けているのは富裕層の子供達だ。
「ほら、お前達もちゃんとやるんだ」
「私には必要ありませんわ」
「点数には反映されるからな?」
入試の成績は、あくまでも一年間のクラスを分けるだけだ。伸びる子は伸びるので、うかうかしていられない。
歴史やマナー等はちょっと出来ないけど、他はそれなりに出来ているから来年も多分Aクラスだろうけど。
「テッド様は平気なのですか?」
「俺は三男だから家を出るんだ。そうしたら冒険者になる予定だからな」
「え?エーファ様がエルフだからライアン様に後継ぎが出来るまでは家に留まり、然るべき方と婚姻されるのでは?」
「エーファ兄さんがエルフだから何なんだ?確かに今は冒険者やっているけど、そんなの関係ないだろう?」
「今の法は、そうなりましたが…」
「俺はそういうのは興味ないんだ。父さんの子供ってのは否定しないけど、しがらみに縛られるのはごめんだな」
これが俗にいう人族至上主義か。そんなの気にしているのは富裕層ばかりだけどね。
特にここの領主がエルフだから、他の領地よりも人族以外の者に対して皆、差別する者は少ない。
ミアが言ってたけど、養鶏場とはいえ、獣人がオーナーになるのは他領では難しいらしい。
私としてはむしろもっと見たい。兎人族とか、獣人にも種類があるっていうし、出来ればもふらせて欲しい。
因みにミアは犬人族だ。ポメラニアンみたいな耳がちょこんと乗っていて、尻尾はもふもふだ。
いつか絶対もふもふさせて貰いたい。
「うわー!逃げろ!!」
そんな声と共にウオーターバッファローの群れに追いかけられた冒険者が走って来た。
担任教師と一緒に来ていた魔法の先生が、子供達の前に立つ。
「テッド!結界をお願い!」
先生の魔法でアースランスが次々と立ち上るが、勢いに崩されてしまう。
ユーリは学校で使っている鉄の双剣から、馴染みの双剣に変え、群れに突っ込んで行く。
「ユーリ!戻れ!」
気がついた担任が剣を手に怒鳴るが、この数を捌くのは一人じゃ無理だ。
真っ直ぐに突っ込んでくるウオーターバッファローの軌道から身を躱し、首を狙って剣を振るう。仲間がやられた事により標的にされるがショートワープを駆使して数を減らし、着実に数を減らす。
モコは冒険者を助けた後、私を手助けしてくれる。
町に向かっていく奴は、先生が魔法で防いでいる。
テッドの張る結界にもぶつかっていくが、貫通性のないダークショットで狙い打ちする。
結界内から魔法を放つ子もいるけど、あんまり役に立っていない。
やっと群れを全滅させて、死骸を収納庫にしまう。
「…せめて先生がとどめを差した奴は学校の食糧に寄付してくれ」
「まさか、全部は取らないですよ」
「あなたは魔法が優秀だと思っていたけど、剣も凄いのね」
「ていうか、変わった形の剣だな?」
「ブレードディアの角で作ったんですよ。学校で使うのは危険過ぎるので、別に買いましたけど」
「しっかし…まさかここまでとはな。今まで手を抜いていたのか?」
「今日は緊急事態だったので特別です」
「まあ、あの冒険者とも話をつけなきゃならんし、とりあえずクラスを纏めてくれ。テッド、お前さんの結界も助かった」
「…俺じゃウォーターバッファローの群れに突っ込むなんて出来ないので」
悔しそうに言って、ユーリを見る。
「先生もまだ戸惑っているが、テッドは副級長として問題ない」
そうだけど、野生児と比べても仕方ないと思っているけど、やっぱり悔しい。
いつかは追い付く!




