エメルの危機
しばらくエメルの姿を見ていない。パスは途切れていないから、生きているとは思うけど、まさか迷子?
とりあえず海辺に行ってみる事にした。
(エメル?私の声は届く?)
(ユーリ…ごめんなさい。しばらくは行けそうにないわ)
声が、弱々しい。
(怪我しているの?)
(あはは…ドジやったわ…しばらくこの島で休んでいるから)
距離は…遠いな。だからエメルの様子が分からなかったのか。
この世界の地図が記憶に刷り込まれているから、場所も距離も分かる。
空間固定で足場を作って行けば、たどり着けるかもしれない。
(ボク達も連れて行ってよ!)
(でも、空間固定の足場は脆いから、失敗して踏み抜いたら海にドボンだよ?それにモコは軽いけど、チャチャは…)
(影に入れてよ。従魔なんだからさ)
(あ…)
(ユーリ、忘れていた?)
(そ…そんな事は)
(どっちでもいいよ。エメルも仲間なんだから、連れて行ってよ)
(そっか。分かったよ)
空間の足場に乗るのは天井を平らにする時に何度も上っているから、慣れている。
ユーリは、空間固定で透明な足場を作りつつ、海の上を走った。
角の付いた魚、ソードフィッシュがジャンプして襲ってくる。
ミスリルナイフで応戦しつつ、肩掛けタイプにしたバッグに入れていく。
白身魚で淡泊な味だから、塩を振って食べると美味しいんだよね。
マジックポーションで魔力を補充しつつ、走り抜ける。
子供の足で半日以上かかった。もうへとへとだ。ポーションでお腹がタプタプする。
それでももう一本飲んで、やっとエメルに会えた。
(ユーリ…本当にもう、無茶して)
ハイヒール…いや、エクストラヒールじゃないと無理かな?
魔力がキツイな。とりあえずモコとチャチャを出して、もう一本飲んだ。
「あう…エクストラヒール!」
(ありがとう。大分楽になったわ)
ヒール系では毒の治療はできない。残念ながら、毒消し薬は作った事がない。
ここは本当に小さな島で、直径一キロって所かな。
毒に効く薬草、生えていればいいんだけど。
とりあえず日が暮れる前にテントを張ろう。
前はできなかったけど、今はチャチャがいる。チャチャに手伝って貰いながら海岸から少し離れた場所にテントを張って、結界石を置いた。
夜寝る前にもう一度魔力を充填しておけば朝まで持つだろう。
(エメル、お腹空いてない?)
さっき仕留めたソードフィッシュを串刺しにして、塩を振って焼いた。
(助かるわ。この怪我じゃ、獲物も捕りに行けなくて)
走っている途中で何故か空歩なるスキルも手に入れたし、収納庫のスキルも手に入れた。
これがあればマジックバッグは要らないけど、町に行く時には持って行こう。
まだ食べたそうだったので、大量に作ったゆで卵で作ったポテトサラダを出してあげた。ポテトサラダといいつつメインはゆで卵だ。
マヨネーズもたくさん作ったけど、かなり余り気味。
ただモコがマヨネーズが好きなので、活躍の場はありそうだ。
大きめのテントだからみんなで入って寝られるけど、チャチャが大きくなったら全員は無理だろうな。
夜中、魔物の声で目を覚ました。
エメルにはまだ寝ているように言って、モコとチャチャを連れて外に出た。
うわ…こんな小さな森の中にも魔物がいるのか。テントには入って来られないみたいだけど、タヌキとか巨大カマキリ、アリ、でっかいトカゲもいる。鳥の魔物もいるけど、鳥目じゃないのかな?
結界石に魔力を充填し直して、チャチャにはアリとカマキリ。モコにはタヌキをお願いして、ユーリは雷魔法で鳥を狙う。
一発では仕留められなくても、麻痺の効果もあるから、落ちてきた所にとどめを刺せばいい。闇魔法の麻痺よりも雷の方がダメージを与えられる。
ただ、相手が強いとリカバリーされてしまう。雷の魔法はあまり使ってないから、そう強い魔法は使えない。
それでもなんとか倒して、チャチャの応援に行く。
カマキリ強い。素早い動きと、硬い鎌。闇魔法で視界を奪って、麻痺もかける。そうしておけば、チャチャが爪で一撃だ。
モコも数が多かったタヌキを仕留めて、やっとかたがついた。
今夜だけで随分レベルが上がった。こんな小さな島なのに、住んでいる家の周りの森よりも強い魔物が多かったんだな。
本当は明るいうちに確認しておくべきだったけど、魔力不足で、ふらふらしてたから仕方ないかな。
朝までまだありそうだ。もう一度エクストラヒールをエメルにかけて、寝袋に潜った。
朝ご飯をパンで済ませて、森に探索に入る。見たことのない草を鑑定して、毒消し薬を作れる草を見つけた。
多めに採取して、家の畑にも植えようと思った。
錬金術のスキルのおかげで、作り方は分かる。ふむ…光魔法を水に込めるのか。
そういえば、収納庫の魔法を覚えたら、マジックバッグを作る為に必要な空間拡張の付与も覚えたんだった。
あとでチャチャのバッグをマジックバッグにしてあげよう。
よし。毒消しポーションが出来た。
(エメル、これ飲んで)
(ありがとう、ユーリ…楽になったわ)
念の為に確認してみると、毒は消えていた。
念の為に島でもう一泊する事にした。折角なので、今日は狸汁だ。
とはいえ、夜中に戦った狸の肉は使えない。採取の最中に仕留めた狸…ブラックラクーンというらしい。
それは血抜きをしっかりやったので、今夜のご飯には充分だ。
次の日にはエメルもすっかり回復したので、家近くの海岸まで背中に乗せてもらった。
やっぱりソードフィッシュみたいな飛び跳ねる魚は襲ってきたけど、私達のお腹に入る事になるんだよね。
(エメルの背中に乗るの楽しかった!また乗せてね!)
(ふふっ。またそのうちね)
エメルも楽しかったみたいだ。




