フレイと幽霊
影の中で泣いてるフレイをどうしたもんかと思いながら、そっとしておいて、とりあえず授業が終わった。
「行くぞ!ユーリ!」
そういえば剣の稽古の相手をする約束してたんだっけ…。
「ごめん、テッド。忙しくなった」
とりあえずフレイから事情を聞かないと。
「は?学校の用事じゃないよな?」
「本当に、ごめんね」
「テッド様、訓練なら自分と」
ボルドの誘いに、テッドはため息をつく。
「俺と同等か、それ以上の奴とじゃないと、訓練にならないだろ?」
俺は剣術が苦手なのに、それよりも槍が苦手ってどうなのさ?
ちっ、ユーリの奴、逃げやがった。本当に用事があるのか?授業中にボーッとしてたのは、何かあったからか?
亜空間に入ってフレイを出してやると、少しは落ち着いたのか、泣き止んでいた。
「うう…シャンドラ様に頼まれて、精霊のたまり場の結界の綻びを直してたんでしゅけど…ちょっと間違えてうっかり穴が広がってしまって…そうしたら精霊喰いが襲ってきて…ユーリしゃん!こんな事頼むのはお門違いなんでしゅけど、手伝って下しゃい!」
「それは、私に出来る事?ムーン達にも協力してもらった方がいい?」
「いえ…従魔とはいえ、魔物が来ると他の微精霊が怯えてしまうので。お願いしましゅ!」
「分かった。早い方がいいよね?」
モコに出掛ける事を伝えた。
 
フレイの亜空間移動で来たのは見たことのない森の奥地だった。
「これ…空間を遮断する結界だね。これを張り直せばいいの?」
「いえ…それは私の役目なので、精霊喰いの方をお願いしましゅ」
「精霊喰いって…もしかして、この幽霊?」
普通に怖いんですけど!
「これ位なら、普通の聖魔法でやっつけられましゅ…もし消えないのがいたら、ターンアンデットが使えれば」
「いや、それは無理だよ?」
エリアピュアを使うと、幽体が消えて小さな光が寄ってきた。微精霊には自我がないけど、本能的に助けられたのは分かるのだろう。
索敵魔法で害意を探ると、大分離れてはいるが、強い反応があった。
(フレイ?原因が分かりそうだけど)
(っ!はわわ。もう一回やり直しでしゅ)
もしかして、私が念話したから?
 
フレイの所に戻って、作業を見守る。普通の結界じゃない。時空属性を用いた空間遮断の結界だ。
「幽霊は微精霊を食べちゃうの?」
手を止めた所を見計らって声をかける。
「幽霊…アンデットの事でしゅね。奴らは魔力がないと存在できないので、魔力の塊と同じ微精霊を食べるんでしゅ」
「索敵魔法を使ったら、ここから離れてはいるけど、強い反応があったんだけど、どうしたらいいかな?」
「うにゅ…ユーリしゃんはまだターンアンデットは使えないでしゅよね…」
「ディスペルは覚えたから次だけど」
「!いつの間に?」
「モコが眷属になったお陰かな?聖魔法が扱いやすくなったんだよ」
「眷属…」
「そういえばフレイ、眷属の事知らない?他のみんなも眷属にしてあげたいんだけど、やり方が良く分からなくて」
「眷属は…従魔よりも深い絆で結ばれた存在でしゅ。絶対に裏切らない、そんな存在でしゅ…その恩恵は凄いでしゅけど、主が危険な時には命を投げ出しても救おうとしましゅ。そして、主が持つ以上の魔力を使おうとすると、眷属の魔力を使いましゅ…そして、主が死ぬ時は、眷属も共に死ぬでしゅ」
え…嘘!そんな!
「眷属から従魔に戻す事は出来ないの?」
「無理でしゅ。それだけの覚悟と深い絆がないと眷属になれないでしゅから」
「うう…」
「とりあえず、聖水でその地を覆って応急措置するでしゅ…ユーリしゃん?」
「私…がモコを殺しちゃう?」
「ユーリしゃん?クイーンキャットはユーリしゃんよりも寿命は短いでしゅよ?ユーリしゃんがおばあちゃんになる前に先に死んじゃうと思いましゅけど?」
「私が危険にならなければいいんだね?…分かった。頑張って強くなる。いのちだいじにが作戦だね」
「ちなみに従魔の中で一番寿命が短いのは?」
「モチしゃんでしゅね。ただ、たまに新しいスライムを取り込んでいるのが気になりましゅけど…基本、スライムは数年でしゅ」
「モチと契約してそろそろ4年半か。そんなにお年寄りには感じないけど」
「モチしゃんは一応上位種でしゅから、多少長生きはしましゅ」
モチは意思の疎通が出来ない分、ペットみたいな感覚だ。
それでもやっぱり悲しい。
私に出来る事は、ちゃんと可愛がって、最後まで面倒を見る事…少しでも長生きしてほしいな。
とにかく聖域から流れ溜まった湖で、水をたくさん汲んだ。
索敵で感じた所に行くと、朽ちた屋敷があった。雰囲気出てるなー。幽霊屋敷そのものじゃん!もう日が暮れるから、急いでやらないと!
聖水を屋敷にかけ、元の精霊の溜まり場に戻った。
「フレイの仕事はまだ終わらないの?」
「精霊喰いのせいでかなり数が減ってしまったので、もう少し様子を見るでしゅ」
「そっか…頑張ってね!」
「ユーリしゃん…ターンアンデットを覚えたら退治に来てくれましゅか?」
「ええ…お化け退治?」
怖いけど…フレイの為に…いや!やっぱり怖い!お化けは無理だよ…。
「どうしても…私じゃないとだめ?」
「ユーリしゃんの魔法なら、そう苦労せずに倒せると思いましゅけど?どうして怖がってるでしゅか?」
「だって、死んでるんでしょ?それなのに生きて?いるんでしょ?」
「生きてはいましぇんよ?存在しているんでしゅ」
「何が違うか分からないけど、せめて従魔のみんなにもついてきてもらっちゃだめ?」
「ここにゲートを開くなら大丈夫でしゅ」
「ひ…一人じゃないならちょっとは怖くないかな…」
本物のお化けがいるお化け屋敷なんて無理だよー!




