もふもふ不足
結論から言うと、教師は役に立たなかった。当然だ。小学校では精々魔道具の種類とか、そんな位しか習わないから。
諦めない。実現すれば、従魔達に雪の日でも気軽に会えるんだから。
それに買い物にも行けるし。
この世界はなんというか緩いから、道具屋や武器屋、古着屋は雨が降ると店を閉めてしまう。食べ物屋だって露店はやっていない。
雪の時は一週間に一度開けばいい方だ。
上の世界とは大違いだ。台風が来たって大手の店は開いている。
まあ、おばあちゃん家に住んでいた時は違ったけど。個人店ばかりしかなかったから、休日は休みだし、夜も暗くなると閉まっていたっけ。
なので、逆に休日しか開いていない図書館で勉強した。
厚みが出るのは不味いので、アルミホイル位薄く成形した魔鉄の板に魔石の粉と銀を合成して液状にした物で、地下一メートルを基準に熱量交換の術式を書いて、粘着液でレンガに貼り付けて、まずは実験してみる。
まあ、成功だ。私が魔力を込めて作れば数年はもつだろう。
勝手にやる訳にいかないから、テッドに相談してみた。
「素直に凄いけど…理由が家族に気軽に会いたいからとか、お前の発想は普通の人の斜め上を行くのな」
「なにそれ!いいじゃん!役に立ちそうだし。テッドのバイクよりかは役に立つよ?」
「……そうだな。とりあえず父さんには伝えておくよ」
テッドはユーリからそっと目をそらした。
まあ、亜空間移動って手もあるんだけど、そこは絶対知られたくない所だからね。
エメル以外と半日以上離れるのは初めての事だ。学校ではモコに会えるけど、精々耳位しかもふもふ出来ない。
モコの艶々な毛並みを抱き締めて眠る事も出来ないし、ムーンに埋もれる事も、チャチャに暖めてもらう事も出来ない。
「ね…ミア、どうしてももふもふしちゃだめ?」
「だから、あたしら獣人にとって耳や尻尾は大事な所なんだよ」
「うう…今日もモチだけで我慢するしかないのか…」
「スライムの従魔、役に立つのか?というか、溶かされたりしないのか?」
「モチはそんな事しないし、私の役に立ちたくて頑張っているんだよ?」
そう。頑張りすぎて何を目指しているか分からないけど。
そうして、どんなに頑張っても戦闘力はないけど、皮のなめしに役に立ってくれる。
テッドが一人部屋みたいなものと言ったのは、あながち間違いじゃない。正確にはレイシアさんと一緒だ。
あのお坊っちゃまとお嬢様は教室まで来てもらっているみたいだけど、テッドは自分の事は自分でする子だし、レイシアさんには別に仕事もあるみたいだ。
「そういえばユーリ、この前まで何かやってたみたいだけど、何か出来たの?」
「うん。地熱を利用して雪を溶かすレンガだよ。もふもふ…じゃなくて、お父さん達もリロル市の宿屋に拠点を移したのに、雪が邪魔で会いに行けないのは淋しいから」
「ええと…そんな熱い物、危険じゃない?」
「熱くならないよ?ええと、雪が積もっている時でも、地下はそんなに冷たくならないの。普通の魔道具だと魔石も必要だし、交換にも手間がかかるから、今ある熱を地表の熱と地中の熱を交換する事によって、熱を生み出すよりも魔力の消費を抑えて、何年かは交換しなくても持つようにしたんだよ?」
「イリーナ…今のユーリの話は理解出来たか?」
「ん…無理。ユーリって、コーベットでも地下から水を汲み上げる魔道具を作ったりしたんだよ。こう見えても凄いんだと思う」
…ん?こう見えても?
「ほーん。級長は伊達じゃないって訳か。伯爵の息子を押しての一番だから凄いんだろうとは思ってたけど」
「凄くはないよ。テッドよりもレベルは上だけど」
料理とかでは負けないけど、パソコンとかの事は全然分かんないし。SEってそういう系の仕事してたって事だもんね。バイクとはあんまり関係なさそうだけど。
馬車の改造とか、私には無理だろうし。
本当に、テッドが本格的に魔道具作りに取り組んだら、とんでもない物が出来そうだな。
バイクも本当に出来そうで怖い。
獣人という種族は、体外に魔力を放出するのが苦手らしい。だから出来るのが身体強化になるみたいだけど、モコは普通に魔法を扱えてるから、みんな驚いていた。
正確に言えば獣人じゃないし、獣人でも攻撃魔法を扱える人はいる。
私は水晶のせいで全属性扱える事はばれてしまったけど、弱い魔法しか扱えないふりをしている。
元から使えていた事になっている火と土と風、時空魔法は他の属性よりもちょっとは得意な感じに見せている。
テッドを見てるとやっぱり実力は出し切っていないみたいだ。
テッドの場合、命中スキルを取ってから日が浅いから、的を外すのは隠している訳じゃないだろうな。
イリーナの金属バットは切る事が出来ないから、不利になる魔物がいると聞いて、ちょっと責任を感じてしまった。
棒全般だから、防御にも使える所はいい。でもバットの先で突いても衝撃しか与えられない。
いっそ、バットの先に槍の穂先みたいなのを付けてみようかな?
学校で使っているのは槍使いの生徒と同じ木の棒だし、長いのが扱えるなら、戦術もまた変わってくるだろうし。
イリーナを見ていたら、テッドが性懲りもなく剣で勝負を挑んできた。
あの暗器は代替え品がないのだろう。接近戦は苦手でも、一応剣術のスキルは取れてるみたいだし、適当に相手した。
後ろからの殺気に反応してテッドを押して覆い被さると、ボルドの棒が、頭上を通り過ぎた。
「今の、私が避けてたら、テッドにも当たってたよ?私が気に入らないのなら、私にだけ当たるようにしないと」
「ユーリ、それ以前の問題だろ?さっきのは完全な不意打ちだ。ユーリじゃなかったら、ケガしてたぞ!」
「別に…狙った訳じゃありません!手が滑っただけです!」
「もういいよ。私達に怪我はないし…その代わり、二度目はないよ?」
軽く威圧をかけて睨むと、走り去ってしまった。
ボルドはテッドがぼっちになってもいいんだろうか?
ぼっちになれば、テッドと友達になれると思っているのかな?テッドの性格からしてあり得ないと思うけどね。
「ていうかユーリ!俺、助けられなくても避けられたぞ!後ろから攻撃来るの見えていたし。注意は間に合わなかったけど」
「まあ、あの程度の殺気でも向けられれば気がつくし別に貸しになんてしないから安心してよ」
「当たり前だ!避けられたんだからな!」
まあ実際、テッドは狙われてなかったから、私が余計なお世話焼いちゃっただけだ。
「逆に庇った事で頭打ってお馬鹿にならなきゃいいね」
ムッとしたテッドが何か言い返してくる前に、先生がボルドを引っ張ってこっちに来た。
「手が滑ったとはいえ、ユーリには謝っていないだろう?」
「平民に謝る必要など」
「ここでは人としてのルールを守ってもらう。それは説明済みだろう?」
「ちっ…悪かった」
全く心はこもってなかったけど、気にしてない。自分は正しいと思っている人には何を言っても無駄だからね。




