クラス分けテストで
モコが亜空間を覚えた。元々クイーンキャットは収納庫を扱えたので、速く覚えるだろうなとは思っていた。フレイの祝福も、多分影響はしているんだろう。
中は300坪程のスペースで、それ考えると、私の亜空間はどんだけ広いんだって事になる。まあ、大は小を兼ねるというし、別にいいか。
あと、私の亜空間よりも温度が高い気がする。フレイによると、術者が一番快適に感じる温度になるという話だから、寒いのが苦手なモコには丁度いいのだろう。
中に何を置きたいか聞いてみたら、私も泊まれる位大きなベッドが欲しいようだ。
どうせなら大きくなったムーンも寝られる位大きなベッドが欲しかったけど、売ってないみたいだ。
とりあえずは大きな布団を用意して、みんなで寝転んでみる。
何とかなりそう…かな?
でもタイミング的に丁度良かった。具合が悪いとかで、万一人化を維持するのが難しい時、亜空間に逃げ込めるからだ。
影の中へ入れるのは、少なくとも視認が必要なので、モコ以外のみんなとは離ればなれになってしまう。
まだ低レベルの冒険者だからとはいえ、既にムーン達が強いのはギルドに知られている。余程の事がない限り指名依頼で長時間人化をしたままになることはないだろうけど、やっぱり不安だ。
かといって、私の超感覚で常に見続けるのは無理がある。
まあ、ムーン達も活動拠点をリロル市に移すんだから、いざとなれば私が亜空間移動をすればいいだけだ。
そしてリロル市内は勿論の事、近郊でも念話は充分に通じる。
何とかなる…てか、するしかない。
モチだけは常に私の影の中か、亜空間に住まわせるしかない。
それはちょっと嬉しいかも。念話でお話はできても顔が見られないのは淋しい。
いや、モチにも顔はないけど、そういう問題じゃない。
モチには窮屈な思いをさせてしまうかもしれないな。
井戸の魔道具は何とか完成した。機械に強いテッドのお陰もあって、構造から考えなくて済んだというのもある。
そのテッドだけど、私が教えた事もあって、錬金術のスキルを習得してしまった。
ポーションにはあまり興味はないみたいだけど、いきなり魔道具を作るのは難しいので、一通りやらせて、魔道具もただ火をつけるだけの魔道具とか、そういう簡単なのから教えたら、びっくりする位、のめりこんでいった。
まあ、転生者だし、チートはお約束なんだろう。
クラス分けテストの日。広い敷地に立つ学校にはたくさんの子供達がいた。
大概は大人に連れられているけど、私みたいに一人で来てる子もいる。
因みにテッドは、レイシアさんに連れられている。
「ユーリ!」
振り向くと、金属バットを持ったイリーナがいた。持ち歩きするのは不便かな?
「イリーナ。それ、持ち歩きするのに背負えたりした方がいいかな?」
「それだと、籠やバッグが背負えなくなるのよね」
ああ。なるほどな。
「それに軽いから、それ程苦にはならないし」
「ユーリ!お前、一人で来たのかよ」
「こっちの宿に拠点を移す事にしたから、色々と忙しいみたい」
ていうか、今日は親の参加は必要ない筈だし。
「ふうん…そっちは友達?」
「コーベットの教会の子だよ?テッド、知らないの?」
「いや…色々考えた上での事だし」
(使命の事もあったし、修行もしなきゃいけない。何かあった時に友達に迷惑はかけたくないから、避けてたんだよ)
(そもそも女神様は、自分の人生を犠牲にしてまでなんて言わないと思う)
(まあ…そうだけど)
「あの、テッド様。同学年になると思いますので、宜しくお願いします」
「様とかいいし」
「すみません」
「イリーナ、テッドは別に怒ってないよ?てか、本当に様とか要らないし」
「けど、ご領主様のお子様にそんな…ユーリは気にならないの?」
「いまいち貴族って分からないんだよね」
「きっとその辺の授業は俺の方が有利だな。ウチみたいなのは特殊だからな?」
まあ、そんな気はしてたけど。
受付を済ませて番号の書かれた小さな布を貰う。人数がかなり多いから、試験も大変だろうな。
記号ごと、およそ10人位に別れて各々に貸し出しの木の剣や槍などを持って戦う。
相手がテッドだったから、片手剣で本気で向かってくる。
(テッド!ちょっとは手加減しなさいよ!)
(お前に手加減とか必要ねーじゃん!)
それはそうなんだけど…もう!
短剣二本の双剣で受け止め、押しながら払う。テッドは後ろ向きに倒れた。
「そこまで!」
教師の声に、構えを解く。
「ちっ…同じ班になったのが運の尽きか」
剣を戻しに行く時に、二人が寄ってくる。
「お前、平民だろ?領主様の息子にケガさせて、謝れよ!」
「そうですわ。領主様は伯爵になられたのよ?」
ん?ケガなんてしてた?
「テッド、ケガしたの?」
「は?いや、ちょっと擦りむいたけど、治したよ」
「じゃあ大丈夫だね」
「馴れ馴れしいですわ!しかも呼び捨てにして!…テッド様、災難でしたわね」
「…誰?」
「私はワモット商会の娘でエリーゼと申します。以降お見知りおきを」
「テッド様、自分はリロル市長モールス男爵の息子でボルドと申します。以前にもお会いしたと思うのですが、お忘れでしょうか?」
「…ああ。見た気がする…で?何」
「テッド様のご学友として、ご挨拶をと。…おい平民、お前、まだ謝ってないだろう!無礼だぞ!」
「いや、ユーリが強いのは事実だから、むしろ擦りむく位で済んでるっていうか…それにユーリは俺の友達だから、無礼とかないから」
「こら!ユーリをいじめるな!」
モコが走ってきた。
「な…」
ボルドの方は、モコに見とれてる?
「何なんですの?」
「ボクはユーリのお姉ちゃん…じゃなくてお兄ちゃんだぞ!」
(いつもお姉ちゃんて呼ばれてるから間違えちゃったじゃないか!)
(モコ、大丈夫だよ?)
お姉ちゃんでも。
じゃなくて、これしきの事で来てくれなくても。
「あのさ、ここは学校なんだから、身分で対応が変わる訳じゃないし、どうでもいいことで騒ぐなよ」
「テッド様、そのような事ではいけませんわ!将来後を継がれなくとも私のような大商会の娘や下位貴族の跡取りとなる事もありますし」
ああ。今のうちからテッドに粉かけておくつもりか。お子様なテッドには効かないと思うけどな?
エリーゼは私達よりちょっと年上なのかな?10歳は行ってないと思うけど、こんな場なのにお洒落してきてる。
「俺、そういう面倒なの当分いいから。女子にも興味ないし」
「テッドはお子様だもんね」
「あなた!何様ですの!」
「ん?単なる友達だけど」
「あんた、ユーリに突っかかるのは止めてくれないか?俺の家が伯爵になるきっかけになったのも、ユーリのお陰なんだし」
「ど、どういう事ですの?」
「ダンジョンを見付けたのがユーリ。兄さんと母さんが見つけた事にはなってるけど。それ以外もユーリには色々とうちの領の利益になる事をしてもらってる」
「だ…だからテッド様は只の平民と結婚すると…」
「は?なんでそうなるんだよ」
「本当に。単なる友達だってば」
どこをどう見たらそう見えるんだか。
「なら、是非私とも仲良くなって下さいませ」
「じ、自分とも…父が是非にと」
「先は分からないけど、友人に難癖つけてる時点でお前達は印象マイナスだからな?」
まあ、そうだね。てか、貴族って面倒だね。




