プリンとクレープ
シーナさんに連れられて、キッチンへ。中には数名の料理人がいた。
「今日はね、みんなにプリンを教えて欲しいの!あれは私の中で最高のお菓子よ!」
そっか…プリンも無かったのか。てか、プリン位ならテッドでも作れただろうに。
冷蔵庫…というか、保冷庫?氷をトレーの上に乗せて、上部に置いてある。金属で出来た箱も二重になっていて、保冷効果も高そう。
「凄いでしょ?それ。昔テッドが二重にする事を考えたのよ?そうしたら、氷もなかなか溶けなくなったの!」
なる程。グリーフロッグの皮をパッキン代わりに使っているんだ。中は風魔法で真空にしてあるんだろうな。
「奥様、こんな子供に本当に作れるんですか?」
「うふふ。この子はテッドと同じなのよ」
「はあ…」
さすが貴族の家の保冷庫だ。種類も豊富だし、量も多い。
「とりあえず一度作ってみますね」
作って、味を見てもらうのが一番分かってもらえるだろう。
コンロの魔道具は自作の物と違い、 火加減が簡単に調節できる。
分解してみたいな…でもどうせ発動基盤は見えないようになっているんだろうけど。
まあ、自分で研究するのも面白いけど。
よく濾した卵と牛乳の液体の中に、シロップを煮詰めた物を落とす。
温度を測る物はないから勘だけど、大体上手くいく。
「あとは、甘い包み焼きも教えてね」
「いや、あれは包むものをクリームや果物にすればいいだけですし」
「ああ?包み焼きを甘くするんですか?」
「ジャムなら作り置きがあるから、それでとりあえずやってみたら?」
ジャムだけというのも何なので、植物性生クリームと、果物も挟む事にした。
収納庫からハンドミキサーを出すと、みんな驚いていた。
そういえば、ハンドミキサーの方はシーナさんに見せた事なかったな。
その前に、プリンを火から下ろして、金属のトレーに並べる。
型がなかったから陶器のコップで大きさもまちまちだけど、す も入っていない。
「熱いうちは食べちゃだめなの?」
「すぐに甘い包み焼きが出来ますから、おやつはそっちにしましょう?」
今度茶碗蒸しも作ってあげよう。
料理人の人たちは、六歳の子供が手際よく作っていくのが珍しいのか、遠巻きにしていた人も集まってきて、手元を見ている。
「皆さんもどうぞ?」
「!今、お茶を淹れますね!」
クレープの方は概ね好評だ。やっぱり肉を包んで食べるのが常識だからか、微妙な表情をしている人もいたけど、今度はアイスを入れてもいいな。
「甘い物ばかりでいいんですか?」
「そうね…ちゃんちゃん焼きは難しいかしら?」
「シャケが手に入ればいいですけど…」
それと味噌だね。今回作る分位なら私が持っているけど、それじゃあ教える意味がないし。
「じゃあ、肉じゃががいいわ!」
「あれ?でも珍しい料理じゃないですよね?」
「そうね。醤油がないと出来ないけど。でも、前に行商人から手に入れた実がまだ残っていたわ!」
おお!これがそうか!
ヘタの所を切り、絞ると醤油が出てくる。不思議だな。
絞り切った後で開いてみると、種が出てきた。
「シーナさん、種があるんですけど、育てれば出来ませんか?」
「それが出来ないのよねー。芽すら出ないのよ。何でかしらね?」
「んー…気温とか?」
「気温て?」
「え…暑いとかそういうの」
「ああ。特殊な地域以外はあんまり変わらないわよ?そういえば前にテッドにも同じ事聞かれたわね」
そっか…そういう世界だっけ。じゃあどうして?
あとでミルドラ辞典で調べてみるか。
肉ジャガセットの野菜はテッドが沢山手に入れていたので作れるけど、本当はしらたきも入れたい。
「シーナさん、こんにゃくって分かりますか?」
「さあ…?聞いた事ないわね。これ以上の材料が必要なの?」
「ええと…あればいいな、位なので」
(ユーリ、糸こんを入れたいのか?無くても問題ないけど、鍋には欲しいよな)
(うん…まあ、ないなら仕方ないよ。後でアオさんに聞いてみようかな)
(…お前なあ…青龍様に下らない事聞くなよ。いくら仲良くして下さるからって、神に次ぐ存在なんだぞ)
(んー…そうだよね。私、まだ常識の齟齬があるみたいだから、変な所があったら注意してね)
(は?落ち人って常識は妖精に教わるっていうか、刷り込みされるんじゃないのか?アリエール様からはそう聞いたけど)
(私の担当妖精は、ドジっ子だったの。だからちょっと他の人とは違うかも)
(…はあ。そうなのか?ま、確かにお前は変だよな?)
(何それ!どこが?)
(俺、モコと二人でダンジョン入るまでモコは雌だと思ってたのに、実は雄で、ユーリが雌扱いしてるとか、初めて知ったよ)
(それはいいの!モコは本当に可愛いんだから!そう思わない?)
(確かに可愛いけど、てか証拠見せられるまで信じられなかったけど)
うわ…いつの間にそんなイベント発生してたの?
(何顔を赤くしてんだよ。モコとは男同士みたいだし、いい友達になれそうだな)
(も…モコのもふもふは最高だけど、あげないよ!)
(もふもふ…ね)
こら、そんな目で見ないでよ。絹糸のように滑らかなクイーンキャットのもふもふは、本当に最高なんだから!
(それにしても、材料ほぼ同じなら、カレーが食べたかったな)
(カレールーはないみたいだから、買えないよ?その代わりに材料になる薬草は育てられたんだけど、配合とか全く分からないから、結局上の世界みたいなカレーは食べられなかった)
(そうか。ないものなんだ。そして料理に詳しいユーリでも無理なのか)
(残念ながら。そして私の舌まで幼児化したから、辛さが辛かった)
(あー。だよな。でもまだいい方だよ。転生者は赤ん坊からスタートだからな?)
(シーナさんのおっぱいでやらしい気持ちになったりしたの?)
(それはなかったな。ただ、子供らしからぬ赤ん坊で、罪悪感はあったな)
(精神が引っ張られてても記憶はあるから私達はちょっと変な子供なのかもね)
夕ごはんの後に冷えたプリンを食べて、思わず笑顔になる。料理人の人たちの評価も聞きたい所だけど、後の機会にだね。




