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新しい友達

コーベットにある田んぼももうすぐかな。

まだ稲穂は垂れていない。

「ユーリ、朝っぱらから出掛けるなよ」

「田んぼが気になって」

「ここは台風がないからいいよな」

「そうだね。稲も倒れたりしないし、梅雨もないから日照不足もない」

適度な雨は降るから、作物は育つ。夏と冬の気温差は厳しいけど、いい所だ。


朝ご飯を食べて、紅茶をもらうとアルフレッドさんが切り出した。

「新ダンジョン発見の報告だけど、私とエーファで行く事になった。事前に報告は入れていたからなんだけど、陛下がどうしても私に来いと言って聞かなくてね。その間の領主代行は、シーナに任せるよ」

「てっきり私とエーファ君かと思っていたけど、問題はないわ。キースがいれば安心だし」


「俺も王都に行きたかったな」

「往復だけで1ヶ月以上かかるのに、テッドが大人しくしているはずないだろう?」

絶対飽きて困らせるね。

「護衛費用、案内料についてはギルドで受け取ってほしい。その他に、新ダンジョン発見の報酬として」

アルフレッドさんは、執事のキースさんから受け取った重そうな皮袋をムーンの前に置く。

ムーンが私を見たので、受け取り、思わずげっ、と呟いた。

「あの…白金貨も入っているんですけど」

「名誉を譲ってもらったわけだからね。妥当だよ」

「勿論精米機?とかの魔道具は別料金よ。それとポーションの報酬もね」

「えええ…」


「初等学校はそんなに高くはないけど、そこから先に行くなら結構かかるし、持ってても邪魔になる物じゃないしね?冒険者は、いつ何時お金が必要になるか分からないものよ」

「まあ、脱穀と籾摺りの道具はまだ出来ていないので…でも本当に私は、プロじゃないので」

「ええ。分かっているわ」


「あの、本当に貰い過ぎじゃないんですよね?」

「道中を考えると高ランク限定にはなるかもしれないけど、却って実力のある冒険者が我が領に集まってくるからね。それに、肉やドロップアイテムが出回れば、経済も活性化する。ユーリちゃんには難しいと思うけど、だから決してこちらが損をする事も、渡し過ぎという事もないから安心してほしい」

「分かりました」


確かに、もっと高ランクの冒険者ならあのシャケエリアも越えられるかもしれない。

膝位までを覆う防具があれば大人なら越えられるんだから。

実際、エーファさんだけなら空間固定して越えられたはずだ。

レイシアさんも多分空間機動を持っている気がするから、行けそうだし。


シーナさんも、もしかして行けたんじゃ?…まあ、そこまでの必要もなかったのかもしれないけど。下のエリアの情報は22階層まで持っていたしね。


うーん。だとすると、畑や田んぼは作っておいたら不味いかな?

でも、家は埋めたし、稲は一般的じゃないから荒らされないだろう。少し作物がとられる位なら…ちょっと悔しいけど。


(ユーリしゃん、どうしたんでしゅか?)

(ん…畑の事。ダンジョンからそう離れてないから、このままにしてもいいのかなって)

(住んではいけない決まりはないはずでしゅから、特に問題はないと思いましゅ。それに青龍様のお膝元で悪さをする人は少ないでしゅ)


それもそうか。亜空間移動で行き来している所を見られなければ、世話もできるし。


今日は依頼を受けないで、必要な器具を買ったりしてゆっくりと過ごす。

改めてコーベットの町をゆっくりと歩き、買い足したいものも買っていく。


ここはおばあちゃんの家があった所位の田舎だな。人口は多かっただろうけど、町の1/3位が年寄りだった。

小学生時代はそこで過ごしていたから、親近感が沸く。


魔道具店に立ち寄って、そこで何度か見た子が草むしりをしているのを見かけた。

「えっと…イリーナさんだっけ?」

「あ、はい。…ユーリさん?」

教会の孤児の中でも年長組で、少し話した事がある程度だったけど、薄いブルーの髪にアメジストのような瞳が印象的な美人さんだ。

「ギルドの依頼?」

「本当は年少組の依頼なんだけど、…具合が悪くて」

「病気なの?」

「たまにあるのよ。揃ってお腹を壊しているだけなんだけど」


「それって衛生面の問題があるんじゃない?」

「たまに神父様がクリーンをかけて下さるけど、貴族様方の住居が優先だし、魔力も使うから、怪我人の治療を優先させないと」

「とりあえず、依頼を先に終わらせようか。草むしりだけだよね?」

「うん」

店と塀の隙間の草むしりだ。土魔法で掘り返して木魔法の蔓を使って草を集める。


「えええ…凄い魔法の使い方をするのね。ユーリさんて」

「さんは要らないよ。明らかに私の方が年下だし」

「私は8歳よ?」

「そんなもん?…もっと上に見えた。で、終わりでいいんだよね?」

「店長さんを呼んでくるわ」

依頼票にサインを貰い、ギルドで完了報告をすると、イリーナが銅貨数枚を渡してきた。

「気にしないで。それに、教会に納めなきゃならないんでしょ?」

「うん…ありがとう」


教会の敷地内に建つ孤児院は、中にいる子供達の数を考えると明らかにキャパオーバーだ。

泥臭い臭いと、すえた臭い。

裕福な子供達が修行に来ている住居と比べるべくもない。

これでは病気にならない方がおかしい。


井戸に近づくと、影の中にいるモチが興奮した。

「イリーナ、スライムを出していい?」

あれから少し仲良くなれて、さんは取れた。

「ええ?」

「私、スライムをテイムしているの」

影からモチを出すと、井戸の中に入っていった。井戸の中にはスライムの気配がある。


ポイズンスライム?何度かモチが毒にかかったので、毒を消してあげた。

終わったみたいなのでモチを回収して、掌に乗せると、得意気に私を見上げた。

顔があればモチのどや顔が見られただろうな。顔がないのが本当に残念だ。

前と同じように、ポイズンスライムを取り込んだようで、毒生成のスキルが増えている。それと、状態異常耐性。

なかなかハイスペックなスライムになってきたな。


「中にポイズンスライムがいたから、そのせいもあったと思う」

「え…!じゃあ子供達は毒状態?」

「水で薄まっているから下痢だけで済んでいるんだと思う。解毒魔法も使えるから、その子達の所に案内して」

その前に、建物全体にエリアピュアだ。ついでに庭にもかける。


症状の軽い子はピュアだけで大分良くなったみたいで、突然部屋が綺麗になったのに驚いている。

まだ寝ていた子には魔法を使い、念の為に鑑定した。

「大丈夫になったけど、急にお肉とかはたべちゃだめだよ?」

「ありがとう!ユーリ」

呼ばれて来た神官親子もお礼を言ってくれたけど、そんなにたいした事はしていない。一番の功労者はモチだし。


「テイマーの方は久しぶりに見ましたけど、スライムをテイムしている方は初めてですね」

「大概は使い捨てみたいですからね。でもスライムだって進化したら侮れないですよ?」


下痢した子達の為に、お粥を作ってあげた。

それはいいんだけど、健康な子も欲しがったから、その子達の為にオーク肉で串焼きを作ってあげた。

「ね、ユーリって何歳なの?」

「六歳だよ。一応来年からリロルの学校に通うつもり」

「いいなあ…学校」

「イリーナは通わないの?只同然だよ?」

「うん…でも働き手がいなくなると、この子達の負担が増えるから」


「姉ちゃんがいなくても俺たちだけでやっていけるぞ?」

「そうよ。薬草採取なら私、得意だもの」

「いい機会だし、学校に通ってみたらどうかな?イリーナは魔法も扱えるし、初等学校だけでも行っておけば将来的にも役に立つよ?」

「一緒に行こう?イリーナ!」

「…うん!ユーリ!」

笑顔で応えたイリーナは、少し涙ぐんでいた。


信仰心の高いイリーナは、火と水の他に光魔法の適性もあった。

本人は全くそれに気がついていなかったらしく、ヒールとクリーンを使って喜んでいた。


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