罠部屋と謎の武器
稲が、実ってきた。
この分ならみんながいるうちに稲刈りできるだろう。
まだ薄暗い早朝から畑にも入っていき、モチを放した。
トマトがいい感じだ。一つもいで一口食べると、口の中いっぱいに酸味が広がる。
頼まれていたマジックポーション用の薬草を間引くように抜く。それとハイポーション用の薬草もだ。
以前とは違い、しっかりと根付いているし、数も増えている。
水魔法を畑全体に撒くと、雑草を食べていたモチにもかかって、ぷるぷると震える。
風魔法を常時発動にして野菜の収穫を進める。次は鍋用の野菜を多めに植えよう。
去年もそんな事言ってたけど、春まで保たなかったな。
微かな気配に田んぼの方を見ると、イナゴが飛んできた。
今年は結界石を置いてないので、野菜も被害にあっている。まあ、結界石は魔力を入れないと半日しか保たないから仕方ない。
風魔法を使っているので丁度いい。
そのまま小さく圧縮して、イナゴを狙う。小石位に圧縮した風弾が、イナゴに当たって弾ける。ちょっと嫌。
モチが、興奮して飛び跳ねて、小さなウォーターボールを放つ。
破壊力は無さそうだな。
(ちょっと違うかな?)
しょんぼりするモチを撫でて、慰める。
「ユーリ、朝ご飯出来たよ」
モコが呼びに来てくれた。モコにお礼を言って、モチを捕まえた。
今日はシーナさんの担当だ。ご飯楽しみ!
蜂蜜のたっぷりかかったフレンチトーストを頬張る。
「あまうま~」
「贅沢な食べ方よねー!ユーリちゃんのお陰で料理のレパートリーも増えたわ!」
「冒険者が来るようになれば、定期的に蜂蜜も出回るようになるでしょうね」
「Cランクのパーティーなら、15階層に降りられるわよね?」
「…もしかして忘れてる?まず山を越えられないと」
「ああー。そうよね」
「少なくとも成り立てCランクでは無理ね」
「定期的な山狩りだけじゃだめかしらね?」
「旦那様は山頂までは行きませんから」
「兵士達の練度では、ミノタウロスは厳しいものね。アル君が魔法で足止めすれば多分狩れるけど」
「それでも、魔物は絶滅したりしませんから」
いや、高級牛肉が絶滅したら困る。
「ミノタウロスもですけど、あの山にはオーガも出るんですよ。今回は出ませんでしたけど」
「あら、そうなのね?オーガが出るならCランクでは無理ね」
「ここは聖地に近い。丁度いいのではないか?高ランクなら、バカな事をする奴もそうはいないと思うし」
「そうね。ある意味ダンジョンより危険だものね」
「それにしても、こんなに広いのになかなか階段が見つからないわね」
「あ、ちゃんとした階段もありますけど、罠部屋に繋がる所もあるんですよ。ゴーレムを倒さないと先に進めませんし」
「どの辺とか、覚えている?」
「う…ん。今日は何故か、ゴーレムが多いので」
倒しても、階段も何もない時があるのだ。
「日が悪いのかしらね。今日は諦めて蜂蜜の日にしましょう!」
そう言いながら、マジックポーションを飲んだ。
 
それについては反対はしないけど、もう充分なんじゃ?エーファさんまで呆れている。
でも、シーナさんは冒険者は辞めたんだし、そうそうは来ないのか。
トレントの枝と魔鉄で作った矢は、属性魔法を通して打ち込んでいるみたい。
付与とはまた違う、精霊文字。私も習いたいな。
「階段見つけたけど、どうします?」
「罠の可能性もあるのよね。でも、行ってみるわ!」
罠…かな?魔法石がないし。でも、宝箱はあるかも。行ってみよう!
 
やっぱり罠だ!襲いかかるたくさんの魔物を、シーナさんの火魔法がカーテンを引くようにうねって襲いかかる。
私もモコの雷魔法に合わせて、広範囲に放つ。
残ったオークの上位種やオーガをムーンが斬っていく。
ドロップアイテムはモコとチャチャにも手伝って貰ってダンジョンに飲み込まれる前に範囲指定して回収した。
全てを倒したら、宝箱が出てきた。中には針金?…なにこれ。
「珍しい武器だね。暗器の一種で投げて使ったり、絡めて引けば断ち切る事もできるけど、扱いはすごく難しいと思う」
なるほど。必殺仕事人だね。
鑑定 鋼糸 魔鉄製 暗殺に使われる道具 命中補正 斬撃強化
「うーん。使います?」
誰も手に取ろうとしない。魔鉄だから魔法も通すし、扱えたら面白いとは思うけど。
「テッドが使ったりしないかな?」
「そうだね。テッドも僕と同じで近接戦闘は向いていないと思う。スリングを勧めてみようと思っていたけど、預けて、使わないようなら売ってもいいし。ユーリちゃん達はそれでいいの?」
「いいですよ。モコの杖を見つけたのもここだし、ちょっと変わった武器が出るのかもしれませんね」
双剣は私に合ってると思うから、魔法もあるし、これ以上はいいかな。
「私が少しは扱えるので、テッド様に教えてみます」
凄いな。さすが元Aランク。
「あら?これは何かしら」
シーナさんの所に行ってみると、壁から琥珀色の液体が流れていた。
鑑定 ウイスキー 蒸留酒。アルコールが強いので、飲用注意!
「お酒ですね。ウイスキーっていう」
「ウイスキー?聞いた事ないわね…あら!でも美味しいわ!これ。冷やしたらもっと美味しいかも!」
子供の舌には全然美味しくない。元々お酒は強くなかったからな。
空き容器は結構あるし、汲んでおこう。
「旦那様のお土産にされては?」
「そうね。ユーリちゃん、後で分けてもらっていいかしら?」
「勿論いいですよ」
瓶を大きめで作ればいいだけだし、ムーンが飲むかな?と思っただけだし。
そういえば、16階層を見つけるのは苦労したな。特にゴーレムが多い今日は、倒すのだけで大変だし。




