謀略の影
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隣でエステルが驚きの声を上げた。
だが透は集中して、神に祈り続ける。
(ネイシス様!!)
その祈は通じたか。
テミスの体中に刻まれていた傷を、白い光が跡形もなく消し去ったのだった。
「……ふぅ」
法術の発動が終わった透は、崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。
魔術を使いすぎて気絶してしまう寸前に近い。
ゆっくりとテミスを石畳の上に寝かせる。
傷が癒えただけか、あるいは寿命も延びたか……。見ただけではわからない。
あとは神の差配を待つだけだ。
「ぐぅ……ころ……してや……る」
その時、か細い声が透の耳に届いた。
透は即座に臨戦態勢となり、振り返る。
意識を取り戻した魔人族の男が、透らを睨み付けていた。
幸い、彼は怨嗟の言葉を吐き出すだけで、立ち上がることが出来ないようだった。
「……どうして、そこまで人間を怨んでいるんですか」
「俺の息子を、人間どもが、残酷にも食らったからに、決まっているだろ!!」
「……っ!」
男の言葉を聞いて、エステルが息を飲んだ。
その隣で、透は首を傾げる。
(あれ? 息子を食べたのって……)
「じゃあ、どうしてユステルに?」
「ここに、犯人が、いるからだ。そう、教わったんだ」
――フォルセルス教徒の、金髪の女に。
その言葉を聞いた瞬間、透の脳裡にある女性の顔が思い浮かんだ。
フィンリスにシルバーウルフを侵入させ、火災を発生させ、痺れ薬をまき散らした、あの女の顔が。
透の頭に血が上る。
しかし、すぐに透は冷静に務める。
まだ、情報が足りない。
自分の思い違いかもしれないと。
しかし、一度彼女のことが思い浮かぶと、連鎖反応的に別の情報が浮かびあがる。
『法術は危険。人の認識を騙す術もある。だから、〝神の許しがないと使えない〟』
リリィが法術の説明をしたとき、口にしていた。
もし男が言う女性がルカだったなら。
――彼女は人の認識を騙す術が使用出来る。
もしそれが、この男に掛けられたのなら。
――透が見た光景と、男が口にした理由が、法術で繋がる。
プチッ、と透の掌の皮を、爪が突き破った。
「と、トール。どうしたのだ?」
「……」
透は、答えられなかった。
口を開いた途端に、なにかが爆発してしまいそうだった。
「……俺は、息子の無念を晴らせず、仇も討てずに、死んでしまうのか……くそ……くそっ!!」
ここに、息子の仇などいない。
それを伝えれば、彼の心は強い怨嗟から抜け出せる。
しかし彼が〝本当は自分の息子を食らったのは自分だ〟と真実を知ってしまえば……。
今度は絶望の中、息絶えることになる。
「……ッ」
透は唇を噛みしめる。
男が人間を怨んだまま絶命するまで、透はその場から一歩も動けなかった。
○
「あららー。思ったより早く死んじゃいましたねー」
ユステル郊外の屋根の上で、黒いローブを纏った女性が笑うように肩を竦めた。
その女性――アミィは、手にした水晶玉をのぞき込む。
「うーん。予定よりも、足りないですかねー? レベル60の魔人族をぶつけたのに、なかなか人間って殺せないものなんですねー」
アミィは魔人族の領に侵入し、サルヌスに《認識歪化》を用いた。
法術がかかったサルヌスをそそのかし、ユステル王都にぶつけたのだった。
丁度、王位継承順位発表の儀にぶつけることで、大量の人間を殺せるだろうと踏んで……。
アミィが大量の人間を殺したかったのは、人間が憎いからではない。
国王に恥を掻かせたかったわけでもない。
アミィにとって人間の存在など、人間にとって綿胞子をどう思うか?という質問に同じ。
なんとも思わないのだから、聞くだけ無駄である。
アミィが今回の行為に及んだのは、あくまで魂を集めるためである。
古今東西、人知を越えた強大な力を求めんと欲すれば、生贄が必要と相場が決まっている。
アミィはその力を用いて、フィンリスに封印された神の王を復活させるつもりである。
しかし、予想に反して水晶に集まった魂が少ない。
「うーん。どうしてでしょうねぇ? 軽く千や二千は殺せると思ったんですが」
首を捻るアミィの視界の隅で、スライムがぽよんぽよんと動いていた。
「ん? ……あの核の色は!」
アミィはスライムの紫色の核から、神の気配を感じた。
よく見ると、そのスライムはアミィの水晶に向かっていた魂を捕らえ、天に還しているではないか。
――予想より魂が集まらないのは、あれのせいだ!
気づくと同時に、アミィは手にしたナイフを投げつけた。
現在のアミィの体はCランク冒険者のものだ。ナイフはかなりの速度でスライムに向かう。
だが、寸前のところでスライムは地面を転がり、難を逃れた。
すぐさまアミィは追撃を加えようとする。
だが、一歩踏み込んだ時だった。
「――ッ!?」
アミィは即座にバックステップ。
身を低くして、じっと中心部を伺った。
「……まさか、この距離でも気づきますかー」
中心部から、人の視線を感じた。
それは、かつてアミィの作戦をことごとく潰した人物である。
「ほんと、人外ですねー。魔人族最強の戦士を殺してしまいましたし……、ちょっと神に愛されすぎじゃないですかねー」
冷や汗を流しながら、アミィは嘆息する。
ここでアミィの存在がトールに露見すれば、今後の行動にも大きな影響を与えてしまう。
ただでさえ、アミィはユステル王国のお尋ね者になっているのだ。
誰にも見付からずに、動かなくてはならない。
――その時までは。
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