あの時使わなかったものが日の目を見る時
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透は手に魔力を込めて、《フレア》目がけて打ち放った。
瞬間、
――ピシッ!!
プラスチックが割れるような、乾いた音が響き渡った。
それと同時に、放たれた《フレア》が消滅した。
>><対抗魔術Lv1>取得
「なっ!?」
透が魔術を打ち消すと、男が眦を決した。
まさか魔術が打ち消されると考えもしなかったのだ。
目の前から《フレア》が消えて、透はほっと胸をなで下ろす。
透が用いたのは、同質の魔力をぶつけることによる相殺術だ。
以前、リリィに魔術を放たれた時に一度、透はこの術を用いている。
ぶつけ本番だったが、透が想像した通り上手くいった。
一度で成功させられたのは、透の<魔術>スキルの高さもある。
だが日々、魔術鍛錬に勤しんだおかげである。
「くっ、これならどうだ!!」
男はさらに《フレア》を発動した。
今度は3つ同時だ。
もしこれを受ければ、透は骨も残らないだけでなく、辺り一帯が火の海になる。
あまりの高温に、石さえ溶け出すはずだ。
それを透は冷静に、<対抗魔術>で打ち消した。
>><対抗魔術Lv1>→<対抗魔術Lv2>
相手の魔術を打ち消すと、透はすぐに男に接近した。
隙を作らぬよう、細かく【魔剣】を振るう。
「しっ!!」
「ぬぐぅ!!」
しばらく、一進一退の攻防が続いた。
だが、透には見えていた。
ワーウルフから学んだ、攻撃の手順。
まるで将棋で相手を追い詰めるように、1手ごと、相手の退路を塞いでいく。
10手、20手積み重なった先。
遂に、男に大きな隙が生まれた。
男の無理な攻撃を、透は力任せに弾いた。
――ィィィイイン!!
男の大剣が、頭上に弾かれた。
――チャンス!
透は男の首目がけて【魔剣】を振った。
【魔剣】は間違いなく、男の喉笛を切り裂いた。
――切り裂いたはずだった。
「えっ?」
しかし、男には傷一つついていない。
(まさか――っ)
男が頭上から大剣を振り下ろす。
驚いている暇などない。
透は即座にバックステップ。
同時に<異空庫>からあるものを放出した。
○
ユステル王都を襲撃した男――サルヌスは、突如視界を覆い尽くした緑色にドキリとした。
これまで戦っていた少年が、見たことのない魔術を放ったのだと思った。
だが、即座にこれが魔術でないことを理解する。
緑色からは、魔力を感じない。
また、枯葉のような臭いがした。
よくよく観察すれば、その緑が草木であることがわかった。
(ちっ、<異空庫>持ちか)
少年は<異空庫>に入れていた草木を、サルヌスに向けて放ったのだ。
何故彼が草木を<異空庫>に入れていたのか、サルヌスにはわかない。
不要なものを収納したところで、無駄に収納空間を圧迫するだけである。
(まさか奴は、緊急時の煙幕用に持っていたのか?)
そうだとするなら、一筋縄ではいかない相手だ。
実際、サルヌスは少年に手を焼いていた。
サルヌスはレベル60に至った熟練の戦士である。
人間程度ならば武器が無くとも木っ端微塵に出来るという自信があった。
実際、ユステル王都の人間はサルヌスが殴りつけただけで破壊出来た。
しかしこの少年と、もう一人の男だけは違った。
「こんなところで、足踏みしている訳にはいかない」
胸にある魔石には、結界毒がいまも大量に注ぎ込まれている。
一時間か、二時間か。
そう長くない未来、サルヌスは死ぬ。
ユステルに結界が張られているのは知っていた。
一度中に入れば、決して生きて出られないだろうことも、サルヌスは予測済みだ。
それでもサルヌスは、ユステル王都を訪れねばならなかった。
ユステルにいる、すべての人間を殺すために。
少年が草木を放ってから、数秒が経過した。
それでも草木はいまだ、サルヌスの周囲を漂っている。
「……風魔術か」
少年が風魔術を使用して、草木を舞い上げ続けているのだ。
――《フレア》で焼き払うか?
そんな考えが頭をよぎる。
だが、自らに近い標的を狙った場合、魔術は使用者にも牙を剥く。
周囲の草木を焼けば、サルヌスも多少の火傷を負ってしまう。
どうすべきか、サルヌスは逡巡した。
そのとき、草木の向こうから殺気を感じた。
(きたか!)
サルヌスは大剣を眼前に構えた。
次の瞬間、視界を覆う草木の向こうから、漆黒の矢が三本飛び出した。
普通の人間なら、間違いなく矢が刺さる攻撃だ。
だが、相手は熟達の戦士サルヌスである。
よほどの攻撃でもない限り遅れは取らない。
「ふっ!!」
サルヌスは危うげなく、大剣で矢を弾いた。
その瞬間だった。
「ガハッ!?」
サルヌスは〝背中〟から攻撃を受けた。
「馬鹿なッ!」
前方から放たれた矢を弾いたサルヌスは、まさか〝同時に背後から攻撃を受ける〟など考えもしなかった。
それはこの場にいるサルヌスに手傷を負わせられる可能性のある人物が、唯一少年だけだったからだ。
盾使いの男は、重症を負っている。
――他に誰が?
首を回し、サルヌスは後方を見た。
そこには少女がいた。
美しい金髪を後ろで留め、鉄の胸当てを装着した少女だ。
その少女を、サルヌスはこれまで一度とて見たことがない。
(新手かッ!!)
内心舌打ちをし、サルヌスは大剣を振るった。
幸い、傷は浅い。
レベル60のサルヌスに、深手を負わせられるほどの手合いではないのだ。
少女は全体重を攻撃に乗せたか。
体が宙に浮かんでいる。
その状態で、大剣は躱せまい。
サルヌスは、少女を仕留めたと確信した。
だが、
「なにっ!?」
少女は空中で、身動きが取れないはずの状態で、後方に〝跳んだ〟のだった。
マガポケにて「劣等人の魔剣使い」が更新されております。
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