エステルの父
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「生きてたんだね会いたかったよぉぉ――ぶげらぼぐら!!」
男が両手を広げてエステルに突撃。
抱きつかれそうになったエステルが、僅かに体をズラした。
男の抱きつきを回避し、さらにエステルが男の足を払った。
男は見事に転び、顔面からダイブしたのだった。
ここまで、一秒。
突然の出来事に、透は呆然とする。
状況に、まったく付いていけない。
「ああ、久しぶりのエステルちゃんの愛が重い……」
「何が愛だ」
エステルががくんと頭を下げた。
「ええと……。エステル?」
「ああ、すまないトール。これは、その……私の父なんだ」
エステルがものすごく嫌な顔をして、顔面をおさえてプルプル蹲る男を指差した。
父親を見る顔ではない。
「トール……? 誰だテメェは」
突然エステルの父が立ち上がり、透を睨み付けた。
その眼光は、今し方「エステルちゅわん」と口にしていた者とは思えぬほど鋭い。
「は、初めまして。その、水梳透と申します」
「ああん? こちとらテメェの名前なんて聞いてねぇんだよ」
男がさらに近づき、透にガンを飛ばす。
まるで不良の威嚇だ。
「なんでテメェみたいな乳くせぇガキがここにいるんだ、アアン!?」
「父上、私の仲間を威嚇するのは辞めてくれ……」
「はっ!? エステルちゃんと現われたってことは、テメェ、まさかエステルちゃんと…………!?」
「かか、勘違いするな。トールは私の仲間だぞ!」
「俺から愛しい娘を奪うとは、許せん!! 誰かァ! ポン刀もってこい!!」
「人の話を聞け!!」
スパーン! とエステルが父親の頭を平手で叩いた。
(……なんだ、これ?)
透はエステルと父親のやりとりに付いていけず、ただただポカンと口を開くのだった。
○
暴走する父に、エステルがこれまでの経緯を説明した。
その話は、エステルが冒険者を志したところから始まった。
商人にも、政略結婚があること。
政略結婚で、エステルは顔も知らない貴族の元に嫁ぎそうになったこと。
それが嫌でエステルが家を飛び出したこと。
昔から英雄譚を聞かされて育ったエステルは、冒険者を志した。
冒険者になると決めたからには、せめてそれなりの冒険者になるまでは、何があっても家に戻らない。
苦しくても音を上げない。
自分が選んだ道を、決して後悔しない。
そう決意して、エステルは家を飛び出した。
そこから三年。
エステルはDランクの冒険者になった。
Dランクは、もはやベテラン冒険者だ。
起てた志に、恥じぬ行いは出来たはずだ。
そう思ったからこそ、エステルは三年ぶりに、レグルス商会の敷居を跨いだのだった。
エステルの話を聞いて、透は非常に驚いた。
時々エステルの仕草に行儀の良さを感じてはいたが、まさか実家が政略結婚を申し込まれるほどの家柄だとは思いもしなかった。
「改めて紹介する。こちらは私の冒険者仲間のトールだ」
「透です。娘さんにはお世話になっております」
「けっ! テメェが娘さん呼ばわりすんじゃね――あだっ!」
「仲間だと言っているだろう。敵対するな」
エステルが問答無用で父の頭を叩いた。
父親に対する態度ではない。
だがこれが、エステル親子の距離感なのだ。
「俺はレグルス商会会頭の、ジャックだ。夜露死苦」
ジャックが透を間近で威嚇する。
挨拶のニュアンスが、なんとなく暴走族っぽい。
ジャックが透に手をさしだした。
透はそれを取って、握る。
その瞬間、
「ぬごぉぉぉぉ!!」
ジャックが奥歯を噛みしめ、顔を真っ赤にした。
まるで激痛を堪えるように息んでいる。
(えっ、なにこれ?)
ジャックの突然の変化に、透は唖然とした。
そんな中、
「チィ! 握力は鍛えてるようだな……ふん! これくらいにしといてやる」
「馬鹿な真似をするな」
スパンとエステルがジャックの頭を叩いた。
「すまんな、トール。父上は、昔からこうなのだ……」
「う、うん。まあ、良い父親なんじゃ、ないかな?」
父親の価値は人それぞれ、家庭それぞれだ。
エステルにとってジャックは、良い父親なのだ(たぶん)。
レスグル商会は御用商人の地位を頂いている。
また創業者レグルスの名を、時の国王が家名にする許可を与えた経緯もある。
ジャックは王国内で、最上ランクに位置する商人だった。
その商人が、家出娘がどこにいるのか判らないほど間抜けなはずがない。
商人は情報が命だ。
商人独自の情報網が、国中に張り巡らされている。
その情報網を使えば、娘がフィンリスにいることくらい容易に掴んでいたはずだ。
にも拘わらず、ジャックは娘を連れ戻さなかった。
商人としての未来を左右する、政略結婚をすっぽかしたにも拘わらず、だ。
それだけジャックは、エステルのことを愛しているのだ。
自分やレグルス商会の未来よりも、エステルの未来を優先してしまうほどに。
その気持ちが、透にはわかる。
娘はいないが、娘の幸せを思う父の気持ちは想像出来た。
(なんたって、元の年齢が32歳だからなあ)
「それで、エステルちゃん。今日はどうしたの?」
「私はもう20歳なのだ。ちゃん付けはやめてくれ……。今日はトールと一緒に、戦闘用の靴を探しに来たのだ」
「……チッ」
エステルで目尻を下げていたジャックが、透を見ると雑なものに早変わり。
(ここまで来ると面白いなあ)
ジャックにとって透は、どこの馬の骨とも判らぬ大根――どころか、愛娘につく害虫くらいに思っているのだ。
雑な扱いも無理はない。
こうした雑な扱いを受けている透は、扱いが雑だからこそジャックが信頼出来た。
ニコニコ笑顔で表情を繕う商人よりも、あからさまな態度で示してくれた方が判りやすい。
「それじゃあ父上。私たちは靴を探しに店に戻――」
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
ジャックが大声でエステルを呼び止める。
彼が執務室を飛び出した。
しばらくして、彼は高級そうな木箱を抱えて執務室に戻ってきた。
「はぁ……はぁ……。靴なら、俺はこれが、エステルちゃんに似合うと思うな!」
「だからちゃん付けは辞めてくれと――」
ジャックが箱を開くと、エステルが息を飲んだ。
中から、美しい銀色と、若草色の糸で刺繍が施された一対の靴が現われた。
(……すごい、魔力を感じる)
その靴には、微弱ながら魔力が感じられた。
ただの靴ではあり得ない。
「これはユニコーンの毛皮とミスリルを合せて作った靴だ。所々入ってる刺繍は、風の精霊結晶を砕いて染め上げた糸を使ってる。戦闘靴としての耐久力はバツグンだ。
おまけに、魔道具としても使えるぜ。この靴に魔力を込めると、少しだけ浮かぶ。足の裏から風魔術が放たれるんだ。この浮遊をどう使うかは、冒険者としての腕の見せ所だな」
商品の説明を行うジャックは、これまでとは全く違う商人然とした顔をしていた。
これが彼の、表の顔なのだ。
柔和な笑みを浮かべながら、言葉尻は強い。
商品に対して絶対の自信を感じさせる。
この人からなら、商品を購入して間違いない。
そう思わされる。
「……すごく良い品のようだが、いくらなのだ?」
「お金はいらないよ」
「しかし、私は客として来ているのだ。お金は支払いたい」
「いいや、いらないよ。これでエステルちゃんが大けがしないでくれたら、それで十分さ」
「…………頭の硬い奴め」
こうなったら、テコでも動かないのか。
エステルが諦めのため息を吐きながら、憎まれ口を叩くのだった。
もしかしたら、自分にもなにかあるのでは?
透はそわそわとして、ジャックに尋ねる。
「ええと……僕の靴は」
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