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劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る(WEB連載版)  作者: 萩鵜アキ
3章 王都ユステルの炎禍

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悪徳商人

先日、Kラノベブックスより書き下ろし短編2編を収録した、小説「劣等人の魔剣使い1巻」が発売されました。

皆様どうぞ、宜しくお願いいたします。

「それでは早速、リリィさんに家を売った商人の元に向かいましょう」


 マリィが加わり、一行は物件販売商会に向かった。

 マリィの後ろを透が歩く。その後ろに、不穏な空気を漂わせるエステル、そして不機嫌なリリィが続いた。


 道中を行き交う男たちは皆マリィを見て表情が緩み、透を見て「女三人も連れて歩きやがって」「爆発すればいいのに!」と言うような舌打ちをして、その後ろにいるエステルとリリィを見て、すっと視線を逸らした。


『頑張れよ』

『死ぬんじゃないぞ!』


 過ぎ去った男たちは何故か、透に内心エールを送るのだった。


 物件販売商会に着いた透らは、カウンターに設置された呼び鈴を鳴らした。

 店員が現われるまでの間、透は壁に張り出された紙に目を走らせる。


(賃貸業者と同じで、良い物件を紙で張り出してるのか)


 貸部屋はアパートタイプで銀貨10枚から。

 一軒家の販売は金貨40枚から。


 平民が慎ましく暮らせば、1ヶ月銀貨5枚で生活出来る。

 それを思えば、賃貸1部屋で銀貨10枚はあまりに高すぎる。


(火災があったばっかりだから、需要が高まってるんだろうけど、ちょっと高すぎるなあ。……ん?)


 張り出された紙を眺めている透は、とある物件情報の前で足を止めた。

 その時、店の奥から店主と思しき禿頭の男が現われた。


 店主はニマニマとした、少し脂っこい笑みを浮かべて手もみをする。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「先日領主様に販売した物件について、確認したいことがあります」


 マリィが普段の受付嬢とは違う表情で尋ねた。

 まるで監査官かなにかのようだ。


 雰囲気の鋭さに気づいたか、店主は腰を低くし、伺うような目つきになった。


「失礼ですが、あなたは?」

「冒険者ギルド所属、受付部チーフ代理のマリィです」

「これは、失礼いたしました。まさか受付部チーフ代理が、このような見目麗しい方だとは思いも――」

「世辞は結構です。私が尋ねたことに答えて頂けますか?」


 マリィに言葉を遮られた店主が、不機嫌そうに片眉を上げる。

 だがその表情はすぐに消え、また媚びへつらうような笑みを浮かべた。


「へえ、へえ。あれは、たしか中古の一軒家でしたな。あちらの物件が、どうかなさいましたか?」

「実は領主様がご購入しました物件が、〝Bランク冒険者〟であるリリィさんも購入したとおっしゃっておりまして。販売時に、なにか手違いがあったのかとこうして確認しに来たんです」


『Bランク冒険者』という部分を、マリィがわざとらしく強調した。

 そのせいか、店主が怯えたようにギクリと肩を振るわせた。


 先ほどまで乾いていたはずの禿頭に、薄ら脂汗が滲んでいる。

 それを誤魔化すように、店主は頭を撫でてカラカラ笑った。


「いやあ、うちの店は現在嬉しいことに、大繁盛中でしてね。契約成立数が普段の十倍を超えているのですよ。だから、もしかしたらうっかり、鍵を渡し間違えてしまったのかもしれませんなあ。いやあっはっはっは」


 店主の様子を観察していたマリィは、「なるほどそう来たか」と思った。


 現在マリィがトールらのもめ事に首を突っ込み、受付業務を抜けてまでこうして物件販売商会まで顔を出したのは、領主(正確には筆頭執事だ)から内々に、市場の実態把握任務を賜っているからだ。


 マリィが行うべき実体把握は、物件の過度な値上げだ。

 商品への値付けは、商人の自由だ。どんな商品に、どのような値段を付けても問題はない。


 高ければ売れず、安ければ利益が出ない。

 適切な値付けを行えねば、すべて商人の首を絞める結果に繋がるだけだ。


 しかし、火災が起こった現在のフィンリスは違う。

 住宅需要が著しく上がっているため、目玉が飛び出るような価格を付けても売れるのだ。


 当然ながら、領主として商人の儲けを抑制すべしとは考えていない。

 商人が儲ければ儲けるほど、税収が上がるためだ。


 しかし、人の不幸や弱みに便乗した値上げは、領主として見過ごせない。

 何故なら領主は現在、一刻も早く市民に以前と同じ暮らしをさせるべく動いているからだ。


 商人の物件販売価格の著しいつり上げは、領主の動きを無駄にする妨害行為である。


『不当な値段つり上げに対する実体を調査せよ』


 ギルドはそう、領主から依頼を受けていた。

 しかし、実際に商会を訪れたマリィはどこかきな臭さを感じていた。


(どうも価格のつり上げだけじゃなさそうね。他にもなにか隠していることがありそうだわ)


 長年培ってきた受付嬢としての感覚が、この店主がなにかを隠していることを察知する。

 さて、ではどう切り込むべきか?


 マリィが頭を悩ませていると、横からトールが一枚の紙を持って現われた。


「すみません。この物件なんですけど」

「あっ……」


 紙を見た店主の顔に『しまった!』という思いがありありと浮かんだ。

 マリィが急ぎ紙を見る。だが、なんの変哲も無い物件情報である。

 一体男は、これの何に反応したのか。


 マリィが首を傾げていると、トールがずいと前に出た。


「この物件、僕らが領主から頂いたものとまったく同じようですけど、何故これがまだ〝販売中〟の掲示板に貼られているんですか?」

「ち、違う。販売したあとに取り忘れていただけだ! なにも、実際に販売してたわけじゃない!」


 トールの問いに、店主が頭を振った。

 そして慌てて紙を奪い取り、破り捨てた。


「す、すまないね。忙しいから、取り忘れてしまっていたんだ」

「そうでしたか。ところで、合鍵ってどこで作れるんですか?」

「…………」


 トールの問いに、今度はなにも答えない。

 ――いや、答えられないのだ。


 店主の顔は既に蒼白だ。

 額には、大量の脂汗が浮かんでいた。


「マリィさん。合鍵を作れるお店を知っていますか?」

「ええ、いくつか心当たりがあります」

「だ、そうです」


 そう言って、トールはさらに店主に近づいた。

 まるで秘密の話を打ち明けるみたいに、店主の耳元で語りかける。


「あなたがどれくらいの頻度で合鍵を作っていたか。調べれば、すぐにでもわかるでしょう。それでも、まだしらを切りますか?」

「…………ぐっ」

「相手は冒険者ギルドとBランク冒険者、そして領主様です。どうするべきかは、しっかり考えた方が良いですよ」


 トールの声には、追求する側のマリィでさえ背筋が震えるほどの響きがあった。

 もし彼の矛先が自分に向いていれば、マリィは抵抗する気など起きないに違いない。


(これは、勝負が決まりましたね……)


 マリィの予想通り、店主は自ら犯した罪を次々と自白した。

 この商店は値段をつり上げるだけでなく、なんと一つの物件を複数人に売るという、多重販売にも手を染めていた。


「面白いようにお金が稼げるから……つい」というのが、犯罪者の弁である。

 店主はマリィが呼んだ憲兵に捕らえられ、拘置所へと連行されていった。


 連行される店主を見ながら、マリィは思う。

 ――トールさんが話しはじめてから、急激に追い詰められたわね。


 現時点ではさしたる証拠がないので、店主は誤魔化そうと思えば誤魔化せたはずだ。

 マリィたちがこの場から去った後に、利用している鍵屋に大金を握らせれば最悪、多重販売を誤魔化すことは出来た。


 しかし、店主はあっさり白状した。

 まるで聖職者が使う自白法術にでもかけられたかのようだった。


「トールさんの威圧に負けたのかしらねえ」


 男が簡単に白状した理由はわからないが、おかげで重要な情報が手に入った。

 この情報を纏めて領主に伝えれば、ギルドとして一定の成果となる。


(フィンリス襲撃の際は何も出来なかったから、こういうところで挽回しておかないとね……)


 フィンリスにおいて、冒険者ギルドの信用は失墜したままだ。

 少しでも信用されるよう、どんな小さな仕事も、ギルド一丸となって全力で取り組んでいかねばならない。


(トールさんのおかげで、早く報告が出来そうね。今度、お礼に食事に誘おうかしら? うふふ)


 ギルドに戻るマリィの既に、食事に招いた将来有望な冒険者を、どう口説くかで頭がいっぱいだった。

7月16日に漫画版「劣等人の魔剣使い」が、マガポケにて更新されました。

エステル初登場回で作画に時間を掛けたいとのことで、来週の更新はお休みとなります。


次回は7月30日更新となります。

どうぞ、宜しくお願いいたします。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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