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劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る(WEB連載版)  作者: 萩鵜アキ
2章 フィンリスに忍び寄る騒乱

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フレアライト

 扉を開くと、部屋の中に二体の大きな犬の姿を発見した。

 犬はシルバーウルフより二回りほど大きかった。


「シルバーウルフの親?」

「あれは、ウルフチーフだな」


 透の疑問に、エステルが油断なく剣を構えながら答えた。


「Dランクの魔物だ」

「了解」


 短い言葉で、魔物の強さを把握する。

 相手はDランク。ロックワームほどの実力の持ち主だ。


 透は警戒しながらも、普段通りの速度で部屋の中に踏み入った。


「「グルルルルル!」」

「と、トール」


 牙を剥いたウルフチーフが、二匹一斉に透に襲いかかった。

 次の瞬間、


「――えっ」


 エステルが呆けた声を発した。

 続けてドシャ、と水袋を落としたような音があたりに響いた。


 透に襲いかかったウルフチーフは、すでに真っ二つに切り裂かれ、絶命していた。

 襲いかかられると同時に、透が切り裂いたのだ。


「トール。犬は倒せないのではなかったのか?」

「それは、敵意のない犬限定だよ。こんな殺意の衝動に満ちた犬、放っておいたら危ないでしょ」

「……トールの基準がわからない」


 エステルが頭を抱えた。

 透の基準は明快だ。自分への殺意があるかどうかである。


 といっても、<威圧>で殺意を引っ込める相手は無視をする。

<威圧>しても殺意を収めないものは、すべからく敵になる。


 これは、シルバーウルフに限ったことではない。

 ゴブリンも、もし<威圧>して殺意をひっこめる魔物であれば、透はあれほど倒そうとは思わなかった。


<威圧>をしても殺意を捨てなかったからこそ、ゴブリンは倒され、ウルフチーフも倒されたのだ。


 勿論小動物系には多少の温情が与えられるが、それはそれ。

 殺意の有無は絶対である。

 温情をかけた結果殺されたでは、救いがない。


 さておき、透はダンジョンのボスと思しき二体の魔物を倒した。

 残るはフレアライトを見つけるだけだ。


「ねえエステル、フレアライトってどんな形なの?」

「ここにあるのは加工前の原液という話だから、液体っぽいのではないか?」

「となると、あれかな」


 透が見つけたのは、壁からゆっくりと流れ落ちる液体だった。

 樹液のように壁から溢れるそれは、やや飴色をしていた。


 鼻を近づけると、その液体からガソリンのような臭いがした。


「おそらく、これで間違いなさそうだな」


 エステルが<異空庫>から革製の袋を取り出した。

 この依頼に際して、事前に市場で購入していた水筒用の革袋だ。


 その口を壁に付けて、液体を採取する。


「これで、ようやくDランクの冒険家なのだな……」

「まだ早いよエステル。クリアを報告するまでが依頼だからね」

「わ、わかっているのだ」


 革袋がいっぱいになるまでフレアライトを集めた透は、ダンジョンを出て足早にフィンリスに戻るのだった。


 しかしこの時点ではまさか、フィンリスに変事が起こっていることなど、二人は想像だにしていなかった。


          ○


 魔術書リリィの店主リリィは、店内で異変を察知した。

 長年の研鑽で研ぎ澄まされた感覚が、フィンリスの異常を感知している。


 ――いったい、なにが起こったんだ?

 珍しく外が気になったリリィは、魔力を練り上げ無属性魔術を展開した。


「≪索敵(サーチ)≫≪効果拡大(エンハンス)≫。……ッ!?」


 その瞬間、リリィは言葉を失った。

 使用した無属性魔術は、〝敵〟を感知する≪サーチ≫と、その効果を拡大する≪エンハンス≫だ。


≪サーチ≫を発動した途端に、リリィは大量の害意を感じた。

 それも、街の一部だけではない。フィンリス全体が、だ!


「これは、なに?」


 呆然としたのは一瞬だった。

 これでもリリィは人間に比べて長い年月を生きている。


 店を開くより前、リリィは己の魔術スキルを高めるため、冒険者として活動していた。おかげで<魔術>スキルは特級と呼ばれるLv6に至り、フィンリスでは他の追随を許さぬ使い手となっている。


 たとえどんな相手だろうが、魔術でねじ伏せられるという自負があった。


「……わたしのお店には、指一本触れさせない」


 リリィは落ち着き払い、カウンターの下から愛杖を取り出した。

 豪奢な飾りは一切ないそれに魔力を込めながら、リリィはおもむろに店の外に出た。


 そこには、地獄絵図が広がっていた。

 これまでリリィが見たことのない光景だった。


 フィンリスの街中を、大量のシルバーウルフが縦横無尽に駆け巡っている。

 逃げ惑う民衆が、次から次へとシルバーウルフみかみ砕かれ、絶命していく。


 フィンリスの石畳は、既に真っ赤に染まっていた。

 驚いたのも束の間、リリィは≪ウインドカッター≫を用いて、目に見える範囲のシルバーウルフを次々と切り裂いていく。


 追いかけられている人や、攻撃されている人に、一切怪我を負わせない。

 正確無比なコントロールで、シルバーウルフだけを倒していく。


 しかし、


「……ッ」


 リリィ一人の力では、焼け石に水である。

 フィンリスに入り込んだシルバーウルフは、数えるのも馬鹿らしくなるほどだ。

 初級魔術をちまちま放っていては、埒があかない。


 当然だが、大量のシルバーウルフを一気になぎ払う実力がリリィにはある。

 しかし、それを行えば街や人がただでは済まない。

 シルバーウルフを倒すのに、街を破壊し人間を殺してしまうのは、本末転倒だ。


 無論、シルバーウルフだけを狙った大規模魔術も行使可能だ。

 しかしそれを発動するには、魔力を練るのにかなりの時間がかかる。


 魔物の知能は人間より低いが、決して愚鈍ではない。

 彼らは自分に害をなす者に敏感である。もしリリィが大規模魔術を発動しようとすれば、必ず妨害する者が現われる。

 リリィを守る者が居ない状態では、大規模魔術は使えない。


 リリィにとって、現在の状況はまるで手足が封じられたようなものだった。


 最悪、自分の店だけでも守らねば。

 リリィは店の前に立ち、何人たりとも通さぬ覚悟を持って、シルバーウルフをすべて倒していく。


 そんな中、一際大きな声が聞こえた。


「みなさん、頑張ってくださいまし! 冒険者の力は、このような日のために使うものですわよ!」


 朗々としたその声は、Cランク冒険者ルカのものだった。

 ルカについては、リリィはよく知っている。


 光と水、無属性の三属性を収めた、メイス使いの秀才だ。


 彼女は共用井戸のあたりに陣を張っていた。

 冒険者集団を束ね、背後から檄を飛ばしている。


「大切な人を、大切な街を、わたくしたちの力で守りますわよ! 正義神フォルセルスの名において、悪しき魔物に鉄槌を!!」

「「「おおおおお!!」」」


 ルカが法術――中級法術の≪戦意高揚≫を発動すると、冒険者の気勢が一気に上がった。


 冒険者たちが、シルバーウルフを危うげなく倒していく。

 それもそのはず、シルバーウルフはEランクの魔物だ。

 ステータスが底上げされる≪戦意高揚≫がかかっていれば、Fランクでも余裕をもって倒せる相手である。


 だが、質より量。

 この尋常でない数が、冒険者の反撃を困難なものにしていた。


 ルカは井戸の傍で、戦況を見守っている。

 度々指示を飛ばしながら、魔物の討伐と市民の救助を並行している。

 Cランク冒険者らしい差配を振るっていた。


「ん……大丈夫。安心した」


 ルカと冒険者たちの奮戦で、潮目が変わった。

 この調子なら、フィンリスが落ちることはない。


 そう確信したリリィだったが、≪エアカッター≫で斬り捨てたシルバーウルフを見て、眉根を寄せた。


 シルバーウルフの胃から、琥珀色の液体が溢れ出てきたのだ。

 その色を見て、リリィは嫌な予感を覚えた。


(あれはどこかで……まさか……ッ)


 リリィの記憶が回答をはじき出す、その前に――、


 ――ドッ!!


 フィンリスの空気が、大きく揺れた。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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