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劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る(WEB連載版)  作者: 萩鵜アキ
2章 フィンリスに忍び寄る騒乱

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常設依頼のクリアを目指して

 常設依頼は受付の必要がない。

 なので透らはそのまま、シモンの店に直行した。


「ごめんください」

「……やっと来たか」


 店に入ると、カウンター横の椅子にどかっと座って腕組みしていたシモンが片目だけを開いて透を睨み付けた。


(ひえっ!)


 その眼力は、まるで幽鬼のようであった。

 これまで一睡もしていないのか、目が血走っている。


「あのぅ、昨日預けた剣は――」

「ああ、出来とる。確認しろ」


 シモンがカウンターに、一本の剣を音も無く載せた。

 態度は乱暴だが、カウンターに武器を載せる手つきは慎重だった。

 彼がどれほど武器を大切にしているかが理解出来る。


 早速透はカウンターにある剣をマジマジと観察する。


 鍔は一般的な長剣のものと同じ、横長のものである。

 シンプルだが質実剛健。飾りがゴテゴテ付いてるよりも、実直な方が信頼出来る。


 握りには、ざらざらとした肌触りの皮が丁寧に巻かれている。

 これならば剣が濡れても、手が滑ることはない。


「エステル、抜いてみて」

「わ、私がか?」

「エステルの武器でしょ」

「そ、そうだったな」


 エステルは僅かに頬を紅潮させ、透から受け取った長剣をゆっくりと引き抜いた。


「おおー!」

「う、む。これは、すごいのだ……」


 現われた刀身は、まるで新雪が降り積もったかのような白銀だった。

 全体がつや消しの白銀色で、刃の鋭い部分だけが鏡面のようにきらり光を反射する。


「想像してたより、凄く軽い……」

「重心はどうだ」

「……おそらく、大丈夫だと思うが、振ってみないとわからないのだ」


 エステルは蕩けた表情で長剣を眺めている。

 剣に魅了されたかのような表情に、透は慌ててエステルの肩を突いた。


「エステル、エステル!」

「んっ、どうしたトール?」

「使い勝手を試すのに、そろそろ依頼に行こうか」

「ああ、そうだな」


 エステルが名残惜しそうに剣を鞘に収め、剣帯に差した。


「剣の料金なんですが、おいくらですか?」

「銀貨10枚で構わん」

「えっ、でも――」

「坊主は銀貨10枚の短剣を買った。それをうちの炉で作り直した。そんだけだろ?」

「そうですけど、鍔とか握りとか、鞘まで付けて頂いたものはお支払いさせてください」

「そりゃオレが練習に作ったもんだ。坊主にケツ持てなんて言えねぇよ」

「……っ、じゃあ、せめて炉の使用料だけでも」

「いらねぇって言ってんだろ! さっさと銀貨10枚置いて出てけ!」

「……ありがとうございます!」


 シモンの言葉は非常に悪いが、それは実直さの裏返しだ。

 透は彼の心意気に、頭を下げて答えるのだった。




 フィンリスを出て森にやってきた透らは、早速魔物の捜索を開始した。


 透らが受けたのは、常設依頼の定番『ゴブリン退治』であった。

 この相手ならば、剣の使い勝手を試すのに丁度良い。


 透は犬も歩けばゴブリンに当たる、という考えで森に入ったが、しかし歩けど歩けどなかなかゴブリンに出会えない。


「ねえ、エステル。ゴブリンって、遭遇率が高いんじゃないの?」

「それは……透の世界の知識か?」

「まあ、そうだね」


 当然ながら日本にゴブリンなどいない。いたとしても、あのような醜悪な生物は、現代兵器で根絶やしにされているだろう。


 さておき透のそれは、日本の知識というより、ゲームの知識である。

 弱い魔物は遭遇率が高い。


 また、透が初めてゴブリンに出会ったときは大群だったこともあって、森に入ればあっさり見つかるだろうと考えていた。


 しかし、なかなかゴブリンに遭遇出来ない。

 これでは新しい武器の使い勝手どころか、常設依頼もクリア出来ない。


「たしかにゴブリンはよく遭遇する魔物だな。運が悪ければ大群に出会ってしまうが」


 そう言って、エステルが苦笑した。

 彼女はおそらく、自分が死にかけた時の記憶を思い出したいに違いない。


 その時だった。透の耳に、草が不自然に揺れる音が届いた。

 瞬間、透はその音の元へと移動する。


「ゴブリンッ――じゃない。……なんだこれ?」


 草を揺らしたのはゴブリンではなく、ぷにぷにとした、透明の生物だった。


「ああ、それはスライムだな」

「おっ! これがスライムなんだね」


 それは『ぷるぷる、ぼく、いいスライムだよ』でおなじみの、日本でもっとも有名な無性生物だ。


 透はじっくりとスライムを観察する。

 全体的に水まんじゅうのような楕円形をしていて、中心部に小さなコアが確認出来る。


 移動速度はゆったりしている。時々スライムはぽよん、とその場で飛び跳ねた。

(かわいい……)


「……」

「ダメだぞトール。宿はペット禁止だ」

「くっ!」


 透が行動に移すより前に、エステルが透を止めた。

 彼女が止めなければ、透はスライムを胸に抱えて街に戻っていたに違いない。


「……って、スライムはペット扱いなんだ?」

「一応、そうだな。人間にとって有益な魔物だから、飼っている市民は多いぞ。水槽に入れれば水を清潔に保つし、ため池に入れれば下水さえ浄化する。

 フィンリスでも、上水道や下水道、それに井戸にも沢山スライムを仕込んでいるはずだ。死んだスライムの補充用として、ギルドに街からの依頼が来るのだぞ」

「へぇー。スライムって、身近な生き物なんだね」

「そうだな。川に毒物が流れると、スライムが毒を嫌がって一斉に水から上がってくるから、危機察知にも役に立つのだ」


 ナマコの如く水を綺麗にし、カナリアの如く毒物に反応する。

 エアルガルドのスライムが有能すぎる。


 小動物好きの心を激しく刺激された透は、いますぐスライムを保護したい気持ちに駆られた。

 しかし、エステルの目がいつになく厳しい。


 透は泣く泣く、スライムの捕獲を断念した。

 きっといつか、スライムをペットにしようと心に誓って。


「ところで、トール。一つ聞きたいのだが……」

「なに?」

「いや、そのぅ……頭の上の≪ファイアボール≫はなんなのだ!?」


 透の頭上では、現在10の≪ファイアボール≫が、縦横無尽に動き回っている。

 以前は5つが限界だったが、日々の訓練のおかげで10まで展開出来るようになっている。


「一体、トールはなにと戦うつもりなのだ……」

「ゴブリンだよ」


 しかしそのゴブリンがどこにもいない。

 透は肩を竦めた。


「あっ、≪ウォーターボール≫の準備はばっちりだから、火事の心配はしなくて大丈夫だよ」

「そんな心配はしていないっ!」


 エステルは肩を怒らせた。

 驚異的な魔力が籠もった≪ファイアボール≫が、頭上でブンブン音を立てて動き回っていれば、誰だって近づきたくはない。


 ゴブリンはさして珍しい敵ではないが、ここまで遭遇しないのはトールのせいではないだろうか?

 そんな疑問が、鎌首をもたげる。


 トールの奇行を辞めさせるかどうか真剣に考えているエステルとは打って変わって、透はのほほんとしながら、ゴブリンをおびき寄せる手段を考えていた。


(魔物を呼び寄せる定番といえば、口笛だよね。でも、この世界で口笛って有効なのかなあ?)


「エステル。ゴブリンをおびき寄せる方法ってなにかある?」

「ないことはないぞ。魔物寄せは特殊な香草を燃やせば良いのだが、ゴブリンだけ狙っておびき寄せるのは難しいな」

「そっか」

「あとは、ゴブリンではないが犬種を呼ぶ犬笛や、竜種を呼ぶ竜笛ならあるな」

「うーん」


 しばし悩んだ透は、おもむろにエステルから離れて茂みの中に入り込む。


「どうしたのだトール?」

「ちょっとお花を摘みに」

「――ッ!? わ、わかった。終わったら教えてくれ」

「了解」


 エステルが背中を向けていることを確認し、透は茂みの陰に隠れてスキルボードを出現させた。


 技術ツリーにいそぎ目を走らせる。


(やっぱり、魔物寄せのスキルはないか……。なら、仕方ないか)


 取得しなければ、効果の程がわからない。取得したところで、望んだ効果は得られないかもしれない。

 それでも透は、意を決してそのスキル――<口笛>を取得したのだった。


>>スキルポイント11→1

>><口笛>→<口笛Lv4>


 エステルの元に戻った透が、軽く口笛を吹いて取得したスキルの具合を確かめる。


 ――ピィッ! ピィーッ!

 ――ホーホケキョッ!


 口笛は透の思うとおり好きな音、好きな音階を奏でられた。


「ほぅ。透は口笛が上手いのだな」

「まあね」

「それで、口笛を吹いてどうしたのだ?」

「これでゴブリンを呼べないかなーと思って」

「たしかに物音を立てればなにかしらは呼べるかもしれないが、ゴブリンは厳しい気がするぞ」

「まあ、やってみるだけやってみるさ」


 ゴブリンを呼ぶのに口笛を使うという時点で、分の悪い掛けである。

 あとは、Lv4の口笛でなにが出来るかだ。


(せめて、どういうことが出来るのか事前にわかればいいのになあ……)


 そんなことを思いながら、透はゴブリンを呼ぶに相応しい音をイメージし、唇を震わせた。

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