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神様からのプレゼント(呪)

 透の耳に、エステルのものではない、妙に聞き覚えのある声が響いた。

 透は驚き瞼を開く。


 ――そこは、真っ白な空間だった。

 ――目の前には、白い服を身に纏った自称神の姿があった。


 突然変化した状況に、透の呼吸が止まる。

 頭の中まで真っ白になって、なにも考えられない。


「……ろ、ログインボーナス?」

「男の子って、そういうのが好きなんでしょ?」


 男性の趣味でもググっているのか。自称神が手の平でぽちぽちとスマホを弄る。

 そのスマホをぽいっと乱暴に投げ捨てて、透に向かってぐいと体を寄せた。


「エアルガルドに降りてから初めての、記念すべき初回ログインよ。今回は特別に、アタシの加護をプレゼントしてあげるわ!」


>>称号【ネイシスのしもべ】を入手した。


「いえ、結構です」


>>称号【ネイシスのしもべ】を返上した。


「なんでよ!?」

「それ貰うと、あなたの信者になるとかそういうオチだったりするんじゃないですか?」

「……チッ、違うわよ?」


 こいついまちょっと舌打ちしたか?

 透がぐっと眉根を寄せた。


「アタシから特別な加護を受けられるなんて、万人に一人いるかどうかの栄誉なのよ? すごく霊験あらたかなものなんだから、貰っておきなさい」


>>称号【ネイシスのしもべ】を押しつけられた。


「必要ないです」


>>称号【ネイシスのしもべ】を返上した。

>>しかし称号【ネイシスのしもべ】は呪われている。

>>称号【ネイシスのしもべ】は返上出来なかった。


「……なにか、変なことしました?」

「まあまあ、気にしない気にしない」


 自称神がニシシと笑った。


 透は、この世界に来てから神に尋ねたいことが山ほどあった。

 だが、質問がまったく頭に浮かんでこない。

 神が突然出現したせいで、頭の中が真っ白になってしまったせいだ。


「……ところで、神様(?)はどうしてここに?」

「そのクエスチョンマークはいらないわよ。アタシはネイシス。この世界で運命を司る神として崇められてるのよ!」


 どやっ!? と言わんばかりに、ネイシスと名乗った女性が胸を張った。

 透はそんなネイシスを、悲しげな目で眺める。


「……誰に、崇められてるんですか? 信者ゼロなのに」

「うぐっ!? しし、信者ゼロじゃないわよ! 一人はいるもん!」

「一人しかいないんですね。他の宗教は沢山信者がいるのに……」

「ねね、ネイシス教はね、そんじょそこらの人類が入信出来る宗教じゃないのよ! それにね、信者が沢山いるからって、神格が高いとは限らないんだから!」


 ネイシスの弁は、まるで友達が少ない人の言い訳だった。

(……っていうか、その信者一人って、僕のことじゃないだろうな?)

 ダラダラと脂汗を流すネイシスを余所に、透は一つだけ聞きたい事を思い出した。


「そういえばネイシス……様? 【魔剣】について聞きたいことがあるんですけど」

「だからそのクエスチョンマークはいらないんだって。そうそう【魔剣】ね。もうLv2にしたんでしょ? どうよ使い勝手は」

「悪くはないですけど、あれってどうして人間だけが切れないんですか? っていうか、切れないのは人間だけですか?」


「そうね。一応人間だけは切れないわよ。といっても、アンタが考えてる人類と、エアルガルドの人類はまたちょっと違うけどね」

「違う?」

「この世界には、アンタたちが言う『亜人』が結構居るのよ。それも含めて、その【魔剣】じゃ切れないわね」

「どうしてそんな仕様なんですか?」


 透にとって、【魔剣】の仕様は決して悪いものではない。逆にセーフティとして対人ロックがかかっていた方が良い場面が多々ある。


『人殺しはクセになる』

 それはアガサ・クリスティが書いた推理小説に登場する、名探偵エルキュール・ポアロの台詞だ。


 実際に癖になるか、人を殺したことがない透はわからない。

 だが、癖になった場合、取り返しが付かなくなる。


 透にとって【魔剣】のセーフティロックは望むところだった。


「人間が斬れないのは、そう設定したからじゃなくてあくまで副次効果よ。能力のメインは人類に対する運命修復効果」

「運命、修復?」

「元々背負った運命を誰かにねじ曲げられた場合に、正常な運命に戻す力があるわ。たとえば、何者かに〝魂ごと操られていた〟場合とか、ね」


 ネイシスの言葉で、透はクレマンらや、フィリップたちを斬った時の変化を思い出した。

 透が【魔剣】で斬った時、彼らはまるで人が変わったように大人しくなった。


(あれは、誰かに操られてたのか……)


 透が黙考する中、ネイシスがぽんと手を拍った。


「あーそうそう。そういえばアンタ、なんでスキルボードをちゃんと使わないのよ?」

「ん? いや、ちゃんと使ってますけど……」

「じゃあなんで称号を設定しないのよ?」

「……称号?」

「あー、その様子は気づいてなかったのね。まっいいわ。スキルボードの一番下に、称号の設定があるから、あとでしっかり確認して設定しておくように」

「あ、はい」


 スキルボードにそんな機能があったとは、透は思いも寄らなかった。


 しかし透が気づかなかったのも無理はない。

 画面に表示される技術スキルが大量で、一番下まで確認出来なかったのだ。


 ふと、透は神に再開した時に尋ねようとしていた質問のうち一つを思い出した。


「あっ、そうだ。ネイシス様はどうして技術スキルに<肉眼ウエイトリフティング>みたいな奇妙なスキルを入れたんですか!?」

「面白そうだから」


 ただの趣味だった。

 にしても、悪趣味である。


「いいじゃない、<肉眼ウエイトリフティング>。取ってみたら新しい道が拓けるかもしれないわよ?」

「そんな新しい道は結構です」

「じゃあ<物真似>なんてどう? 王様の物真似をしたら人気者になれるわよ」

「それ本当に人気出ます?」


 確かに歌手や芸能人などの物真似は、日本では非常に人気があった。

 ではエアルガルドではどうか?


 王様の真似をしても、王の存在が俗世から遠すぎて誰も気づいてくれない可能性がある。

 あるいは気づかれても、不敬罪で処刑される未来が透にはハッキリと見えた。


「スキルの幅は可能性の幅よ。一見使えそうにないものでも、実は有効な使い方があるかもしれないんだから。固い頭でいらないって判断下してぽんぽん格納すると、その分視野が狭まるわよ」

「はぁ……」

「それじゃ、今回はこのへんで」

「えっ、ちょっと待ってください。まだ聞きたいことが――」

「それは次の機会ってことで」


 ネイシスが笑みを浮かべ、手をひらひらと振る。

 まるで辺りに霧が立ちこめたかのように、彼女の姿がぼやけていく。


「あっそうそう、教会の掃除よろしくね!」

「もしかして、清掃の依頼をギルド出したのは――」

「アタシよアタシ。教会の隅に掃除用具入れがあるから、その中の道具は自由に使っていいわよ。もうすぐ皆が来るから、隅々まで綺麗にしておくように!」


 その言葉と同時に、透の眼前から白い空間とネイシスの姿がかき消えたのだった。


          ○


 瞬きをすると、元の場所に戻っていた。

 隣ではこの世界の作法なのか、両手を組み合わせて祈るエステルの姿があった。


 透は運命神ネイシスと5分近く会話をした気がしたが、この世界ではさほど時間が経過していない様子だった。


「隅々まで綺麗にしておくように、か)


 透は辺りを見回す。するとすぐに、掃除用具入れを発見した。


(本当にあった……)


 そのことで、あれが夢や幻ではなかったのだと思い知らされる。


「エステル。あそこに掃除用具があるから、それを使おう」

「うん? トールはどうして、あの箱の中に掃除用具があると知っているのだ?」

「えっ、いや、なんとなく……」


 掃除用具入れについて、この場では透しか知らない。

 うっかりエステルが知らない情報を口にした透は、慌てて誤魔化した。


 掃除用具入れには、デッキブラシと箒、ちりとりが収納されていた。


(この道具で、これだけの広さを……か)


 教会は学校の教室を二つ足し合わせたくらいの広さがある。

 しばらく使用も清掃もされていなかったせいで、中には埃が絨毯のように降り積もっている。


 また、天井には蜘蛛の巣がいくつも張られていて、その蜘蛛の巣にも埃が付着している。

 壁だってなんだかよくわからないシミがいくつも付いていた。


「よし、トール。日が沈む前に、一気に終わらせるぞっ!」

「……うーん」


 早々に作業を始めなければ、いつまで経っても清掃は終わらない。

 しかし、気合を入れて作業をしたところで、今日中に終わるとは透には思えなかった。


「どうしたのだトール?」

「ちょっと、試したいことがあるんだけど、良いかな?」


 そう言って、透はとある作戦をエステルに提案するのだった。

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