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アミィの焦燥

 続く言葉を待つが、話す気はないようだ。


 アミィが細剣を構えた。


「(ちょっとちょっと。アタシが出なくて本当に大丈夫なんでしょうね?)」

「心配しないでください」

「(失敗したら、死ぬだけじゃ済まないのよ? 魂が弄ばれて、消滅するかもしれないんだから!)」

「そうなったら、その時です」


 透はスキルボードを顕現させて、素早く指を走らせる。



>>〈アドリブLv5〉発動

>>スキルポイント:130→0



 ――タタタタタ。


 新たなスキルにポイントを振って、準備完了。

【魔剣】を構えて、集中力を高める。


 わずかに、アミィの重心が揺らいだ。

 その瞬間、透は前に出た。


【魔剣】を頭上から振り下ろす。

 相手は、【魔剣】を避けようとしない。

 受ける素振りも見せない。


(そう来たか!)


【魔剣】は人族にダメージを与えられない。

 つまり透の攻撃は、無視出来るのだ。


(一旦間合いを開けて――)


「(安心して。ダメージは通るから)」


 頭に響いたネイシスの声を信じ、透は【魔剣】を振り抜いた。

 人を斬った感触はない。


 だが、葉一枚斬るくらいのかすかな手応えはあった。

 おそらく、魂に触れた感触。


 アミィの表情は、変わらない。


「(強がってるのよ。その武器の威力は、アタシたちが保証する。だから――絶対に負けないで)」

「――はいっ!」


 その時、微かに殺気を感じた。

 とん、と地面を蹴って後ろへ。


 次の瞬間、眼前を細剣の先端が通り過ぎた。


 アミィが死角から攻撃してきたのだ。気配を感じにくい、暗殺者風の攻撃だ。

 元々アミィは短剣を装備していた。だからその手の攻撃が得意なのだろう。


(なるほど。僕の攻撃をあえて受けたのは、隙を作るためか)


 自らの魂を犠牲にする、究極のカウンターに気をつけながら、連続攻撃。

 警戒しているのがわかったか、アミィが小さく舌打ちをした。


 先程とは違い、透の攻撃を丁寧にさばいていく。

 しかし、わずかにガードが甘い。


 受けがなした時、回避した時、それぞれで【魔剣】の切っ先がアミィの体を切り裂いた。

 それで傷は生じないが、アミィの魂を確実に削っているはずだ。


 斬って、突いて、すくい上げ。

 相手のガードを崩していく。

 透は少しずつダメージを与えている。

 なのにアミィの表情には余裕が浮かんでいる。


(やせ我慢?)


 魂を削られる痛みはわからないが、少なくとも追い詰められている時にそのような表情は浮かばない。

 気味の悪い相手だ。

 透は一度バックステップ。


 止めていた息を再開させた。


「んー、そろそろ辛くなって来たんじゃないですかー?」

「えっ、それはこっちのセリフだけど?」


 アミィの言葉に透は首を傾げた。辛くなるのは透ではない。追い詰められている側のアミィだ。にも拘らず、彼女は悠然としている。


「この宝具はー、ダメージを与えた人のスキルを封印するんですよー。わたしを攻撃したあなたは、かなりスキルが封印されてー、戦闘が辛くなってきているんじゃないですかー?」




 アミィは透がもうすぐ動けなくなると踏んでいる。いくら神の恩恵が篤くとも、所詮人間は人間だ。スキルさえ封じれば怖いものはない。


(さあ、どうしますか?)


 次の出方を慎重に伺う。

 だがトールは再び、前と同じように斬りかかってきた。


(……おかしいですねー)


 トールの攻撃を受けながら、アミィは違和感を覚えた。

 この宝具は、持ち主に傷を与えた者のスキルを封印する。攻撃一回につき一つ、ランダムでスキルが封印される。


 現時点で、アミィはトールに八度体を斬られている。しかし、彼からはスキルを封印されただろう変化が見て取れない。


(運良く戦闘スキルだけが残ってるんですかねー?)


 冒険者が所持する平均的な戦闘系スキルの数は多くても八個。それが人間の、才能の限界だ。

 現在アミィは八度斬られたので、すべてのスキルが封印されている計算になる。だが、トールの動きはほとんど変わらない。


(非戦闘系スキルを持ってるんですかねー?)

(もしくは、劣等人は所持スキルがエアルガルド人より多いんでしょうかー?)


 とはいえ、非戦闘系スキルだってそう多くは持てない。

 あと数度斬られれば、トールも観念するだろう。そう、アミィは考えていた。

 だが、さらに三度、六度、十度と斬られても、トールの動きは変わらない。


(何故ですかっ!?)


 何度斬られても、動きが止まらない。

 現時点で残る魂の数は八百五十程まで減っていた。とはいえ【魔剣】一撃あたり、昇華する魂の数はせいぜいが五から十だ。まだ、八十五回攻撃を受けられる余裕がある。


(まだ大丈夫。大丈夫ですよー)


 まだまだ余裕はある。だというのに、アミィはまるで自分が追い詰められているような感覚を味わっていた。


 それもそのはず。これまでアミィは、『必ず勝てる』と思った相手にしか戦いを挑まなかった。フィンリスでも、ユステルでもそうだ。少しでもこちらの身が危ういと思えば、直接手を下さず、間接的に標的を仕留めてきた。


 しかし現在、勝利できる確信のない戦いに、アミィは初めて身を置いていた。

 刃が自らの魂に直接突きつけられるような感覚――恐怖を、初めて味わった。


「……あっ!」


 体がぎょっとして、アミィの手元が狂った。

 その隙を、トールに咎められた。

 袈裟懸けに大きく斬りつけられた。


 魂が――斬られた。


「ぎゃぁぁぁあ!!」


 激しい痛みに、アミィは声を上げた。

 魂への傷は大したことはない。かすり傷程度だった。それでも、魂を直接攻撃される痛みは、想像を絶している。


 残る魂は五百。たった一度の攻撃で、三百近くも魂が昇華されてしまった。


「あなた、宝具の呪いを無効化出来るんですか?」

「いいえ。出来ませんけど」

「なら何故ッ、変わらずに攻撃を続けられるんですか!?」


劣等人の魔剣使い 小説4巻

何卒、ご購入宜しくお願いいたします!

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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