完封勝利
細剣を駆使しながら、アミィはアロンたちを追い詰めていく。
基礎レベルはアロンとグラーフが頭一つ抜けている。感覚的には、アロンとは二十、グラーフとは十違うだろう。にも拘わらず、アミィは戦いを優位に進めていた。
アロンとグラーフの体に、着実に傷を増やしていく。はじめは明確にあったはずの差が、徐々に埋まっていく。
「……くっ、貴様、一体なにをした!?」
攻撃を受け止めながら、アロンが呻いた。
はじめアミィは彼の攻撃を認識することさえ出来なかった。しかしいまや、よそ見をしていても攻撃を躱せるまでになっていた。
これほどの差がついた理由は、宝具にある。
悪魔を倒して手に入れたこの細剣には、特殊能力が付与されている。それは攻撃を受けると、相手のスキルをランダムで封印する呪いだ。
あの二人ならば、即座に異変に気づいただろう。しかしまさか自分のスキルが封印されたとは、夢にも思わないはずだ。
スキルを封印されてもなお攻撃を続ける二人とは違い、リリィが後方でじっと息を潜めている。
彼女のスキルも、アミィは一つ封印している。《ホーリーレイ》が頬をかすった時だ。
この細剣がなければ、アミィは一瞬で滅ぼされていただろう。あるいは何も出来ないまま、封印されたに違いない。
宝具の効果があったからこそ、アミィは戦場を支配出来ているのだ。
(痛い攻撃を食らった甲斐がありましたねー)
リリィの魔術はかすり傷だったから良かったが、アロンは左腕の欠損、グラーフは顔面骨折だ。
この体が普通の冒険者のものならば、いかに宝具があろうとも戦況は覆せなかっただろう。しかし、現在のアミィの肉体はフォルセルス教の司祭のものだ。
ルカは高位の回復法術を修めていた。おかげでアミィは、攻撃のダメージを完璧に回復することが出来たのだった。
無論、無条件に回復出来たわけではない。アミィの傷を治すには、膨大なマナが必要だった。そのマナを、アミィは自身にストックしている人間の魂で補填したのだった。
(あの回復だけで、魂を五つも使っちゃいましたからねー。その元は取らないといけませんよねー)
アロンたちを倒し、その魂を手に入れる。あわよくば、リリィかアロンの肉体を手に入れれば、もう誰もアミィを止められるものなどいない。
しかしながら、体を乗っ取るにはかなり厳しい条件をクリアしなければならない。
(まあ、乗っ取るのは無理でしょうねー)
アミィはじわじわと、アロンたちを追い詰めていく。
時々、アロンとグラーフの攻撃を、わざと回避しそこねた。少しだけダメージを負うように回避する。すると、面白いように宝具の呪いが発動した。
アロンとグラーフは、少しずつ、動きが鈍くなっていく。
いくらレベルが高くとも、スキルがなければただの人だ。戦闘開始から十分経った頃、アロンとグラーフは地面に這いつくばったまま、起き上がらなくなった。
「あれれー。もう終わりですかー? 戦闘前の威勢はどこに行ったんですかねー」
「くっ……。お前、ボクたちのスキルを封印しているだろ!?」
「さてー、どうでしょうねー」
「しらばっくれるな。隠そうともボクは見えている」
「ふむー」
アミィは腕を組み、鼻を鳴らした。アロンには、その二つ名の元となったスキル【神眼】がある。それで、自分や他人のスキルを覗き見たようだ。
しかし、気づくのが少々遅すぎた。封印されたスキルは、使用者が死ぬまで永続する。アミィがいる限り、彼らはもう二度と、まともに戦えまい。
さておき、アミィの目的は別のところにある。〈細剣〉のスキル上げはこのくらいにして、次の段階に進まなければ、邪魔が入る可能性がある。
「この細剣は相手のスキルを封印出来るんですよー」
「やはりか……」
「どおりで筋肉の動きがおかしいと思ったぜ」
アロンとグラーフが、それぞれ苦み走った表情を浮かべた。そんな二人に対して、リリィの顔色は変わらない。
(なんか、存在が嫌ぁな感じですねー)
いまのところ、彼女から受けた攻撃は一度。一つしかスキルを封印出来ていない。
呪いはランダムであるため、何のスキルが封印されたかはわからない。魔術スキルを封印出来ていれば、肉弾戦が出来ないリリィに反撃の余地はない。
――が、もし無関係のスキルが封印されていて、まだ戦えることを隠しているのだとすれば……。
(不穏ですねー)
これから始まる本番に向けて、リリィは不安要素だ。さっさと殺してしまおう。そう思い、アミィが一歩踏み出した時だった。
遠くから、覚えのある強い気配を感じた。
瞬間、強い怖気に体が硬直した。
「これは……」
背中に冷たい汗が流れる。間違いない。あの少年がいま、背後にいる。
しかし、それにしては早すぎる。魂をいくつも消費して発動した時空法術が、そう簡単に抜けるはずがない!
(なら、何故こんなに早く戻ってきたんだ……!?)
ぎぎぎ、と油がキレたブリキのように、アミィはぎこちなく振り返る。
「これは一体、どういうことなんですか?」
そこには、【魔剣】を顕現させた神の使い(トール)の姿があった。
劣等人の魔剣使い 小説4巻
12月上旬発売予定
何卒、宜しくお願いいたします!