表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/141

生き残った仲間を案じる思い

「――ッ!」


 エステルに肩を揺さぶられ我に返った。


「うっ……」

「大丈夫かトール!?」

「あ、ありがとうエステル」


 現在透は、攻撃した態勢のまま硬直していて、地面には黒い影が倒れている。

 もし影が生きていれば、透は反撃されていたかもしれない。それは今も相手に敵意が残っていれば、だが……。


「もう、起き上がる力がないみたいだね」

「これはなんなのだ? 急所を斬られたのに、まだ生命力を感じるのだ」


 透はシールダーを頭上から真っ二つにし、アタッカーは首を切断した。にも拘わらず、影は体が分かれることなく、斬ったはずの場所もくっついたままだ。

 おまけにエステルの言う通り、生命力も感じる。


 影たちはまだ、生きていた。

 しかし反撃する気配は感じられない。


(もしかしてこれ、人間なのかな?)


【魔剣】はあらゆるものを切り裂くが、唯一人類だけは切れない仕様だ。

 だから透は、影が人類なのかと考えたが、どう観察しても人類には見えない。


「どうも、この人(?)たちは元々冒険者だったみたいだよ」

「あー、たしかに戦闘時の動きは、冒険者っぽかったのだ。となると、これはレイスではないか?」

「レイスって、幽霊の?」

「ああ。冒険者が死亡した時、時々レイスになるのだ」

「そうなんだ」


「死ぬ時に強い念があったとか、周囲のマナが濃いと、レイス化しやすいという噂だ。そうならないように、神官が浄化の儀式をするのだが、さすがにここには神官もおいそれと出張出来ないだろうからな」


 レイス化も仕方がない、とエステルが首を振る。

 先ほどの戦いで毒気が抜けたのか、あるいは生命力のほとんどを使い果たしたのか、倒れたレイスたちはピクリとも動かない。


 彼らがレイスになってしまったのは、この場のマナが濃いせいもあるのだろう。

 だが、彼らの感情が流れ込んだ今、どれほど強い念を抱いていたかが理解出来る。


(冒険者……クエスト失敗……ああ、そういうことか)


 やっと、情報が一本の線で繋がった。


「浄化って、神官がするものなんだよね?」

「ああそうだな……ん、いや待てトール、早まるな」

「なにが?」

「どうせ、このレイスを浄化しようというのだろう?」

「えっ、なんでわかったの!?」

「一ヶ月ちょっとの付き合いだが、お前の考えていることは大体理解出来ている」


 エステルがなにかに怯えるように肩をふるわせた。


「(そうでなければ、生き延びられなかったからな)」

「……う、うん?」


 最後に何かぼそぼそつぶやいたが、なにを言っているのかまで聞き取れなかった。


「レイスは神官が浄化するのだが、神官が使う浄化法術はかなりマナを使うのだ。ペルシーモの実を取ってない状態で、マナを大量に使うのは危険なのだ」


 説得するエステルだったが、透の瞳に浮かんだ強い光を見て肩を落とした。彼はすでに法術の使用を決意してしまっている。もう何を言っても説得出来ないだろう。


 Bランクの魔物が跋扈する山の中で、マナを使い切るなど自殺行為だ。

 普通のパーティなら殴ってでも止めるだろう。


 しかしエステルは、トールの愚行を止めようとはしない。なぜならば彼はいつだって、エステルの想像を飛び越える活躍をするからだ。


 ゴブリンの大群だって、クインロックワームだって、オーガの大群だって。何度も死を覚悟した。けれどエステルは生きている。

 おまけにいまや、Cランク冒険者に手が届く場所まで到達している。これもすべて、トールの存在、破天荒な行動があってのものだ。


 だからエステルは、彼の選択を尊重する。

 いよいよ目の前で、トールが浄化の法術を発動。周りに光の粒が浮かび上がり、少しずつ影を包み込んでいく。


『……あ……が……とう』


「えっ?」


 突如耳に、人の声が聞こえた。

 それはトールのものでも、ましてや自分のものでもない。


 ――影だ。


 影が初めてしゃべったのだ。


『……世間知らずの…………を、…………頼む』


 エステルのいる位置からは、うまく言葉が聞き取れない。だがトールには聞こえたようで、真面目な面持ちで頷いた。

 次の瞬間、強い殺意が渦巻いた。エステルたちに対してではない。それはここにはいない、誰かへの怨念だ。


 ごくり、とエステルの喉が鳴った。

 強い怨嗟に、呼吸が苦しくなる。



『アミィに、気をつけろ』



 その忠告を最後に、二つの影が空気に解けて消えた。


 影が消えたあとも、エステルは身動きがとれなかった。

 それくらい、彼らが遺した負の感情は強かった。しばらくして、エステルは酷い乾きを感じた。〈異空庫〉から水を取り出し、口を湿らせる。


「アミィとは、やはりあの?」

「たぶん、同一人物だと思う」


「そう、か。結局、あの影がなんだったのかまでは聞き出せなかったな」

「たぶん、このクエストに挑戦して無くなった冒険者じゃないかな」

「そういえば、マスターがそのようなことを口にしていたな。となると、百年間もここに残り続けたのか。……いたたまれないな」

「そう、だね」


「……ところで、トールはあの影に何か言われてなかったか?」

「うん。『世間知らずの魔術馬鹿をよろしく頼む』ってさ」

「魔術馬鹿? それは一体――」

「それはそうと、もうすぐペルシーモだね。張り切っていこう!」


 トールが拳を振り上げた。一見楽しげに見えるが、その瞳には以前首都で一瞬見せたものと同じ色が浮かんでいる。


 激しい怒り。


 エステルでさえ怯えるほどの怒気を、彼は空元気で隠しているのだ。

 だからといって、それを聞き出せるような雰囲気ではとてもない。エステルは黙ってトールに追従するのだった。


「それでトール。この万年炎はどうやって攻略するつもりなのだ?」

「それはね、こうするんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ