オーガ討伐
そこには二体の魔物が――
「…………」
「…………あ、あれ?」
――倒れていた。
魔物は二体とも、綺麗に頭を貫かれて絶命していた。これでは自分が攻撃されたことさえ気づかなかっただろう。
奇襲としては、パーフェクトな結果である。
(運が良ければ当たるかな、くらいにしか思ってなかったけど……)
想定を遙かに上回る結果に、弓を放った透自身でさえ困惑してしまう。
「……いや、戦闘にならなかったのだから、良いに決まっているのはわかってる。だが、気合いを入れた手前、なんともやりきれないのだ」
「……呼ぼうか?」
「やめるのだ!」
口をすぼめると、エステルが真っ青になった。
もちろん冗談だ。こんな場所で魔物を呼び寄せるほど、透は命知らずではない。
呼吸が落ち着くと、すぐに魔物の見聞を始める。
魔物は人間によく似た、オーガ種だった。
力が非常に強く、ひとたび捕まると握力だけで引きちぎられるほどと言われている。
討伐ランクはB。間違いなく、強敵だった。
それを裏付けるように、オーガ2体倒しただけで、透のレベルは三つも上昇していた。
>>レベル:33→36
>>スキルポイント:0→30
同じ人型モンスターであるゴブリンの何体分になるのやら。そんな相手を、弓の奇襲で倒せたのは運がよかった。次も同じことが出来るとは思わない方が良いだろう。
(ポイントも増えたし、早速スキルを取得しようかな)
ネイシスに『スキルを取れ』と言われたばかりだ。あれでも一応神なので、助言には従っておいた方がいいだろう。
とはいえ、まだめぼしいスキルが見つかっていない。
(うーん。これが良くないってことなのかな?)
考え出すと、ドツボに填まりそうだ。なので透は思い切って、まともそうなスキルを取得した。
>>スキルポイント→30→5
>>〈アドリブLv5〉NEW
これで楽器スキルがあれば、素敵な即興を奏でられるだろう。
魔物に対して意味があるとは思えないが、アドリブの意味は広い。運が良ければ、予想外の活躍を見せてくれるはずだ。
オーガの魔石を抜き終わると、すくっとエステルが立ち上がった。
「あれっ、素材の剥ぎ取りはいいの?」
「ああ。オーガは使える部位がないからな」
「そうなんだ」
「死体はこのままにして、迅速にクエストを進めるのだ」
「えっ、う、うん」
使える部位がないなら仕方がない。
ただ……。
(このままにしておいて大丈夫かな?)
以前に、大量のゴブリンをそのまま廃棄したせいで、本来その場に生息していないロックワームを呼び寄せてしまったことがある。
それ以来、透は魔物の死体をきちんと処理することにしていた。しかし、いまオーガの処理をすると他の魔物に気づかれる可能性がある。
(いまは処理出来ないから、回収するかな)
エステルが見てない間に、透はこっそりと〈異空庫〉にオーガの死体を回収した。
(あと処理は……まあ、万年炎にでも投げ込めばいいか)
そんなことを考えながら、透はエステルの後を追うのだった。
それ以降、透たちはBランクの魔物を倒しながら山を登っていく。
Bランクの魔物は非常に強かったが、決して倒せないレベルではないことがわかった。
「そもそもオーガはレベル五十以上。対して私は三十二だ。レベル差の法則からいえば、そもそも相手にならないのだがな」
何度目かになるオーガとの戦闘を終えた後、エステルが苦笑を浮かべた。
「だが、不思議なのだ。あの魔人と戦った後だと、オーガがさして強いとは思えないのだ」
「ああ、たしかに」
オーガは強い。それは疑いようのない事実だ。
しかし尋常ならざる相手と比較してしまうと、どうしてもオーガが見劣りしてしまう。おかげで恐怖に体が支配され、極端に力んだり硬直することがない。
レベル差がありながらもオーガに勝利出来ているのは、冷静さを保てていること。それに、武具性能が高いことも大きい。
エステルのブーツは空を蹴る。オーガの攻撃が絶対に届かない場所まで舞い上がれる。
彼女が引きつければ、透がオーガを攻撃する。【魔剣】はバターを切るように、簡単にオーガを切断出来た。
また、レベルは劣っていても、透の身体能力はオーガを上回っていた。
基礎スキルが身体能力を大幅に底上げしているのだ。
透だけでなく、エステルも負けていない。
空中で加速する彼女の上段斬りは、首都に現れた魔人こそ倒し損ねたが、オーガには効果抜群だった。
二人は上手く立ち回りながら、Bランクの魔物を次々と倒していくのだった。