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無限ループって怖いよね

 リリィから情報を聞き出し、買い出しを行った翌日。

 透たちはペルシーモ採取に向けて動き出していた。


 今回の行き先は、王都とは違って危険な場所だ。

 以前のようにピノが忍び込んでいないか、透は鞄を入念にチェックしてから家を出た。


「それにしても、アミィの名を口にしたときのリリィ殿の気迫は、凄まじかったのだな」

「うん。何があったんだろうね」

「気にはなったが聞き出す勇気はなかったな」


 エステルが苦笑した。

 昨日、リリィが『迷わず殺して』と口にしたあと、透もエステルも、しばらく精神がしびれて身動きがとれなかったほどだった。まるで精神魔術に置かされたかのようだった。それほど彼女の言葉には、強い感情がこもっていた。


「さすがはBランク冒険者の威圧感っていう感じだったね」

「ああ。……っと、そういえばリリィ殿はAランク相当の実力があるらしいぞ」

「えっ、そうなんだ」


 確かにあの時のリリィの威圧感は、首都に出現した魔人もかくやというほどであった。彼女の実力がAランク相当であっても不思議には思わない。


「あれっ、じゃあどうしてリリィさんはBランクのままだったんだろう。ランクアップクエストが受けられなかった、とか?」

「実際のところはわからないが、噂によると、何度かチャンスはあったらしいのだ」

「じゃあ、クエストに失敗した?」

「どうも、自分からランクアップを辞退したらしい」

「ふぅむ」


 冒険者はCランクに上がると、かなり生活が豊かになると言われている。

 該当クエストの報酬が破格だからだ。


 Dランクの透ですら、生活するに困らない報酬が得られている。

 Bランクともなれば、一度クエストを攻略しただけで、一年は働く必要がないほど稼げるのだろう。


「Aランクになれば、一生使い切れないだけのお金が手に入るし、国の英雄にだってなれたのに。もったいないのだ」

「リリィさんはお金とか、Aランクの肩書きに興味がなかったのかもね」


 リリィの興味は魔術に一極集中している。

 最近ではそこに、ほんの少しだけ『透の手料理』が割り込んでいるが。お金や肩書きに興味があるようには、とても見えない。


 東門に向けて歩いていた時だった。ふと透は違和感を覚え足を止めた。エステルもほぼ同時に足を止めた。


「なあトール。私たちは東門に歩いていたよな?」

「う、うん」

「いつ、道を間違ったのだ?」

「……さあ」


 気がつくと透たちは、見覚えのある路地裏を歩いていた。

 東門に向かうには、大通りをまっすぐ歩くだけでいい。裏道に入る必要はまったくない。なのに、現在二人は裏道に佇んでいた。


 裏道に入り込んだ理由は、考えなくても想像がついていた。


 ――運命の神に呼ばれたのだ。


 再び歩き出した二人は、すぐに見覚えのある建物の前に行き着いた。


「やはり、ここか」

「うん、ネイシス教会だったね」


 ここには、運命が無ければたどり着けない。

 実際、透がここに訪れるのはフィンリス襲撃犯を追った時以来だ。


「それにしても、アグニ教信徒の私が何故呼ばれるのだ?」

「まあ、せっかくだし道中の安全でも祈念していこうよ」

「そうだな」

「どうせ引き返してもここに戻ってくるだろうしね……」


『無限ループって怖いわよね』


 あの神ならそんな台詞をつぶやきながら、悪びれもせずに無限ループさせるはずだ。

 少々時間を取られるが、挨拶しなければ前に進めないので仕方がない。


 透はため息をつき、ネイシス教会の扉を開いた。

 祭壇の前で跪き、両手を合わせる。


(どうか、今回の旅から、無事に戻ってこられますように)


 透が願った、その時だった。


「アタシに祈るなんて、殊勝な心がけじゃない」


 まぶたを開くと、透は真っ白な空間に佇んでいた。目の前には、強制的に呼び寄せた犯人がふんぞり返っていた。


「……ログインボーナスはやめたんですか?」

「えっ、なに、ほしいの? しょうがないわね。じゃあ今回は、特製ネイシスちゃん人形を――」

「あっ、結構です」

「なんでよ!? これ、霊験あらたかなお守りなのよ!?」


 この運命神のお守りなんて持った日には、確かに命は助かるかもしれないが、その分とんでもない目に遭うに決まっている。


 よく見ると、人形は藁で出来ていた。


(なにそれ、釘を打てばいいの? なら欲しいかも)


 透の考えを見透かしたかネイシスは慌てたように人形を懐にしまい込み、人間を駄目にするソファらしき物体に腰を下ろした。


「さて、と。アンタをここに呼んだのは、とあるヒトからのプレゼントを渡すためよ」

「プレゼント、ですか?」

「ええ。はじめは断ったんだけど、どうしてもって泣きつくから、断れなかったのよ」


 ネイシスに頼るということは、悪徳金融に頼るようなものだ。後からどんな対価を要求されるかわかったものではない。

 きっとその〝ヒト〟とやらには、やむにやまれぬ事情があったに違いない。


「なんか変なこと考えてない?」

「いいえ、なにも考えてませんよ」


「そもそもアイツが悪いのよ? ずっと様子見してたせいで、手を貸すタイミングを失ったんだから。アタシはアタシで、自分のしもべに手を出されるのは嫌だからって断ったんだけど、『じゃあ他の〝ヒト〟はどうしてスルーしたんだ?』って言われたらぐうの音も出ないのよね」

「……?」

「まっ、それはさておき、これをあげるわ」


 ネイシスがポケットから銀の腕輪を取り出した。

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