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仕事を押しつけられる悪い予感

 呼び出しを受けた透たちは、マリィに連れられてギルドマスター室を訪れた。

 フィンリスギルドのトップであるアロン・ディルムトとは一週間ぶりだ。


 冒険者ギルドは世界中にある民間組織だ。地球で喩えるなら、グローバル企業である。

 そんなギルドの一員になった透は、まだまだ新人だ。

 その透が支部のトップと何度も会議を行うなど、日本ではまず考えられない事態だった。


(すごいことなんだけど……)


 彼からどんな話があるのかを考えると、あまり素直に喜べない。

 もしかすると、とんでもない仕事を押しつけられるかもしれないのだ。日本では実際にあった。


『これは水梳君だから頼む仕事なんだよ』とかなんとか言われて、地雷業務を押しつけられるのだ。


 特に相手がこちらを持ち上げる時は要注意である。

 偉い人というのはいつだって、こちらの状況など無関係に、無理難題を押しつけるものなのだ。


(うう……胃が痛い……)


 過去を思い出し、透は陰鬱になるのだった。


「さて、朝早くから呼び寄せて申し訳なかったね。今日、きみたちを呼び出したのは他でもない。これからのことについてだ」

「これから、ですか?」

「ちなみに、ボクが頼んだ指名依頼だけど、無事完遂してくれて助かったよ」

「いえ、とんでもない」

「王都では素晴らしい成果を上げたと聞いているよ。なんでも、銀翼騎士団の実力者と力を合わせて、最強の魔人を倒したとか。すごいね。フィンリスのギルマスとして鼻が高いよ。きみたちはフィンリスになくてはならない冒険者だ!」

「……」


 アロンがやけに透らを持ち上げている。


(うわぁ、すっごくきな臭い)


 早々に逃げるべきか。透は僅かに腰を上げた、その時だった。

 アロンが一枚の筒をこちらに差し出した。筒には僅かに赤い蝋が付着している。封蝋の痕跡だ。


「これは?」

「国王からの手紙だ」

「こ、国王!?」


 隣のエステルが血相を変えて立ち上がった。


「アロン殿、それは本当に国王陛下からの手紙だったのか!?」

「そうだよ。ビックリしたでしょ? ちなみに国王からの手紙だっていう証明も同時に届いたよ。ご丁寧に、宰相から各翼騎士団団長の割り印まで入ってたよ」

「す、凄いのだ……」


「これがボク宛に送られて来たんだよ。手紙を読んだ時のボクの心境を分かってくれるかな? もう体中から嫌な汗が噴き出して大変だったよ。ボクってこう見えても小心者でね、出来れば平穏に暮らしていたいんだけど、なかなかままならないものだよね。どこかにボクの代わりにギルドマスターになってくれる優秀な人材が転がって――」

「ん゛ん゛ん゛!」


 話の脱線を咎めるように、マリィが大きな咳払いをした。

 アロンが肩を竦め(ちっとも悪びれた様子はない)、再び口を開いた。


「さて、優秀な受付部チーフから怒られないよう話を戻そう。この手紙に書いてあった内容を纏めるとこうだ。フィンリスで起こった先の騒乱に対するお見舞いと、王都襲撃の話。そこで活躍したきみたちを派遣したフィンリスギルドへの感謝と、きみたちへの感謝――そして、褒美だ」

「褒美、ですか?」


 透は首を傾げる。

 てっきり地雷業務の無茶振りかと思っていたが、どうやら違うようだ。


(勘が鈍ったかなあ)


 透が日本の会社 (ブラック)から離れて約一ヶ月。以前は敏感だった仕事への危機察知も、新しい世界(しょくば)での活動で鈍ってしまったか。


「今回特別に、ランクアップクエストへの挑戦権が与えられたよ」

「おおっ、それはすごいのだ!」


 エステルが喜びの声を上げた。

 E以上の冒険者がランクを上げるには、ギルドから与えられるランクアップクエストを受けなければならない。


 クエストは通常、短期間のうちに連続して行えない。

 一度ランクが上がると、一定期間空けなければ、ランクアップクエストが与えられないのだ。


 透らは少し前に、Dランクに上がったばかりだ。なので、まだしばらくはランクアップクエストが受けられないはずだった。


(なんだ。褒美って、すごいアイテムじゃないんだ……)


 透は僅かに肩を落とす。


(ランクや肩書きよりも、お金やレアアイテムが欲しかったなぁ)


 気を取り直し、透は念のために尋ねる。


「ランクアップ……ということは、Cランクに上がるためのクエストで間違いないですか?」

「もちろん。いま君たちはDランクの冒険者だ。本当なら、優秀な人材はボクの権限ですぐにでもランクアップさせたいんだけどね。そうすれば一階の掲示板で消化不良を起こしてる依頼も、ちゃちゃっと片付けてもらえそうだし。

 でも地方ギルドのマスターなんて、肩書きはあるのに権利はなにもないって、中途半端な役職なんだよね。マスターなのに、上と下との板挟みなんて酷いと――」

「ん゛ん゛ん゛! マスター。本題を進めてください」

「あ、はい……」


 マリィに凄まれ、アロンがばつの悪そうな表情を浮かべた。

 ちらり透を見て『ほらね、肩身が狭いだろう?』と言わんばかりに、軽くウインクしてみせた。


「おほん。話を戻すけど、これは国王からランクアップクエスト許可証だ。君たちの功績を鑑みると、ランクアップの免状でも良かったんじゃないかと思うんだけど、まあ、保守派の重鎮たちから猛反対にあったんだろうね」


 アロンが意味深な視線を送ってきた。

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