放浪
もう、ずいぶん前のことになるけれど、
読んでいますと言われて、
理屈抜きに嬉しかったことがあった。
言ってくれたその人も、色々と書く人で、
素直な自然体の文章が、
いまも心地良くぼくの胸に残っている。
ぼくは、そんなに上手に書けないと、
ずっと感じていたものだから、
その人に読んでいますと言われて、
ほんとに嬉しかった。
書いているとき、辛いことがあって、
嬉しい思い出を思い出したくなると、
そのことを思うようになっている。
気持ちが折れても、頭がふやけても、
期待されて、誉められて、嬉しいと
思えるんなら、大丈夫だと思う。
だけど、生きていたら、
色々と気難しいことが多い。
苦しいからと、自分が言いたいことを
言っているうちは、伝わらない。
いつまでも、どこまでも、
嬉しいことが、ぼくには何よりも貴重だ。
その貴重なことでさえ、
相手が聞きたいことにしたとき、
やっと伝えられる。




