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3.出会い

「わざわざ遺跡漁りなんてしなくとも、あんたらなら自分で作ればいいんじゃないのか」

 キョウはそう言っていた。

 別に戦時中でも戦前でも、日本の技術がそれほど突出していたわけでもない。

 欧州だろうが米国だろうが作ろうと思えば作れた筈なのだ。


 だが、ジェイクは苦笑していた。

「意地の悪い事を言ってくれるな。これほどまでではないが、本国ステイツも似たようなものだ」


 このサイバードロイドにしても、生産は戦前から稼働している自動化されたプラントだより。

 新機体の開発など夢のまた夢だとジェイクは言う。


「それはNMUの方も同じだろうな。もはや両者とも、過去の技術にすがるのみだ」

 寂しげにそう言って、ジェイクは歩き続けた。


 とくに襲撃を受けることもなく、目的地までの道のりは平和に過ぎた。

 と言って、真の目的地はここから30メートル下なのだが。

 車を降りたキョウは装甲車の後部を開き、自動小銃を引っ張り出す。

 既に弾倉に込めた弾薬を掴み取り、動甲冑のポケットへと突っ込んでゆく。


 装甲車の後部、誰を乗せる事もないので座席は取り外し、単に荷台として使っている場所には数発の銃弾が飛び込んで暴れまわっていた。

 やはり少しは貫通してしまったのか、大規模なメンテに出さねばならないとキョウは唸っていた。


 巨大な鉄の人型が、医療施設内に積まれたがらくたを無遠慮に蹴散らしながら進む。

 一応部屋に入る度、銃口とハンドガードに据え付けられたフラッシュライトを向けて回るが、あまり緊張感はなかった。

 NMUの兵が潜んでいるならべつだが、警備システムだけならば問題にもならないし、既に破壊されているものが殆どだった。


「ここだ」

 ジェイクの指揮により、隠された分厚い床のハッチが切り開かれて暗い階段を覗かせる。

 そこから先が、さきほどの話にあった軍研究所ということか。


「これより先は、我々も入っていない。どのような構造になっているか、どんな障害が存在するかも全て不明だ。お前の案内人としての能力が評判通りである事に期待したいな」

 そう言って階段の前を退くジェイクに、キョウは肩をすくめて足を進めていった。


 さて――ここからが俺の仕事か。

 動甲冑の左腕に付けられた簡易なパネルを叩いてカメラを切り替える。

 次々と捉える光の波長を変える視界から目的のものを見つけ、キョウは消音器サイレンサーを装備した自動小銃を構えた。


 空気が抜けるような音と、何かが割れるような音がほぼ同時に響く。

 落ちた薬莢を拾い上げながらキョウは言っていた。

「警報装置は殺した。左右にタレットが2基、これはもう動かない筈だ」


 その先も同様に、曲がり角を迎える度に各種探知を起動し、警備を眠らせてゆく。

 そう、破壊するではなく、眠らせるだけだ。

 自動修復がすぐにこのくらいは直してしまうだろう。

 それまで数時間といったところだろうが、その間がキョウたちがこの中で活動出来る時間だ。


「待った、そこで止まれ」

 何かの低い唸りを聞いて、キョウはジェイクたちに掌を向け、停止させる。


 巡回しているドローンか。音からしてホバリングする皿のような物だろうと考え、ポケットの中から円筒形の物体をさぐりだす。

「パルスグレネードを使う。あんたらの身体にも良く効いちまうからな、ちょっと下がっててくれ」

 言って、起動ボタンを押したそれを投擲していた。


 曲がり角の先から走る青白い閃光。

 行って確認すると、小口径の機銃を備えたドローンが床に落ちてショートしていた。

 工具を取り出し、手早く回路を切る。これでこいつもしばらくの間は問題ない。


「危なげないな、やはり、優秀な案内人って噂は真実のようだ」

 キョウに追いつきながら、ジェイクはそう言って笑っていた。



 警備が厳しい外側の区画を抜け、内部へと入る。

 研究所というやつは内部でのごたごたをあまり心配しなくて良い分、最外殻の警戒は強いが内側に入り込んでしまうとそうでもない。

 パスコードを打ち込むのをミスったからといっていきなり撃ち殺されることもない。


 気を抜く事は出来ないが、気を張りすぎる必要もないといった程度の気持ちで、キョウは綺麗に掃除の行き届いた通路を進んでいった。

 掃除を担当するロボットは居ても、汚す人間が居ないのだから綺麗なのは当たり前だった。


 最奥部の研究ブロックまで来て、ようやくキョウは二式を除装し、フィルター越しでない空気を吸い込んでいた。

 少し埃っぽいが充分に美味い。ナノマシンによって毎回構築され、脱着する度に清掃がなされている筈の二式内の空気だったが、それでも息苦しさを感じるのは変わらない。

「ここには特に危険はないと思うぜ。漁りたいものがあるなら手早くやってくれ」

 キョウがそう言うと、機士修道会の兵士達は手慣れたようにセンサーを起動し、辺りにあるものを調べ始めていた。


 そして、しばらくの時が流れた後。

「これは……!」

 兵のうち一人が驚愕の声を発する。ジェイクに通信が送られ、彼もまた動く。

 キョウは思わずその後を追っていた。

 後から考えれば、それはすべきでなかったのかもしれないが――いや、何とも言えないか。


「見て下さい、これを」

 兵が示す小部屋の中には透明なケースが置かれていた。

 ケースを挟む機器を見るに、それは冷凍睡眠ポッドのたぐいであると思える。

 だが、キョウはそれよりも前に、ケースの中に眠るものに目を奪われていた。


 少女だ。

 黒髪の、標準よりやや細く思える少女が、ケースの中にはおさめられていた。


 ジェイク達もそれを見はしたのだろうが一瞥した程度で、モニター類を覗いている。

 興奮した様子で何事かを話し合う彼等だが、キョウにはその内容があまり理解出来ない。知らない単語が会話内に増えすぎていたのだ。


「……あれは、何なんだ?」

 キョウはジェイクに問いかける。

 彼が返答してくれるかどうかは微妙と思ったが、果たして声はきちんと返されてきた。

「あれが……俺達の求めていたものだ」


 次元転送式強化服の実験体、プロトタイプX-2。

 戦時中、悪夢と呼ばれた者達の祖。

 彼等がこの世界で、人として戦うために不可欠なもの。

 それがケースの中で眠る少女なのだと、ジェイクは言っていた。


「では、あれを持ち帰るのか」

 続けてのキョウの問いに、ジェイクはうなずいていた。

「ああ、ここにある研究データと共にな」


 キョウは何故か、とてつもない不安を感じながら更に問いを続けた。

「そのあと、あの子はどうなるんだ?」

「ん……あぁ……」

 ジェイクは初めて興奮したような様子を抑え、言い難そうに声を落としていた。


「おそらくは、解体されることになるだろうな。彼女の身体自体にシステムが組み込まれているだろうことは疑いない」


 解体、だと。


「我々が必要とするのはインプラント化されたシステムではないが……その現物を見て、外からでもそれが起動出来るよう、仕組みを変えねばならない」

 そのためにも、データ取りのために実験を継続し、最終的には解体となるだろうとジェイクは言う。


 キョウはもう一度、ケースの中で眠る少女を見た。

 自分もまたそのようなものだが、他にも同じような生き残りが居る可能性は高い。

 だが、彼女はきっと、ただひとりしか居ない。

 俺を諦めることは出来ても、彼女を諦めることなど誰も認めないだろう。

 それでも――今自分が考え、それしかないと思っていることを実行すべきかどうか。


 彼は長く、と言っても最大でも数分だろうが、考え。

 そして目を瞑り溜息を吐いた。

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