10.激突
砲身を飛び出した砲弾は、小さな羽を広げて突き進んでいった。
そして狙い違わずトラックの車体へと突き刺さり、光と黒い爆煙をぶちまける。
続いて荷台に載せられた爆雷がそれに誘爆し、爆発と共に今度こそ赤い炎を夜空へと棚引かせていた。
「次だ」
歓声をあげるでもなく淡々と、キョウは照準を移して引き金を引く。
二代目のトラックが同じように破壊され、荷台の爆雷が炸裂していた。
最後の一台へと照準を向けようとしたところで、頭上から悲鳴が上がる。
ルイスの構えていた自動小銃が火を吹き、何者かと交戦に入ったのだと告げていた。
「クリス、車を出せ! ジグザグにだ! だが上のお客さんが振り落とされない程度に!」
「無茶苦茶言うなあ!」
そう叫びながらもアクセルを踏み、ステアリングを振るクリス。
後部を振って走り出す戦車の上で、ルイスは足裏に装備された爪を展開しながら獣人を迎え撃っていた。
「こいつめ……!」
自動小銃の連射を浴びせ、一瞬敵が怯んだ隙に弾倉の前部につけられたもう一つの引き金を絞る。
銃身下部に装着されていたグレネードが発射され、獣人の上半身は炸裂していた。
榴弾で頭部を吹き飛ばされては遺伝子強化兵の再生能力もそれで終わりだ。
だが、40ミリグレネードの残弾は残り1発。かさばる物であるため、たとえパワーアーマーであってもそれほど多く持ち運べるものではなかった。
リャンが戦車の接近を察知するのが早かったため、獣人たちはその全員が無傷だ。
戦車に追いすがる8名をそのゴーグル内の表示に捉えながら、ルイスの背には冷たい汗が流れる。
「エミ、砲手を代わってくれ」
キョウはそう言って上部ハッチから外へと飛び出していた。
入れ替わりにエミが砲手席へと滑り込む。脇につけられたパネルを二式の指先で操作し、砲のトリガーとは違う接触感知式のモニターを側面から引っ張り出していた。
「え、ちょっと待って……何してんの!?」
足元からクリスの戸惑うような声が響くが、エミは気にしない。
映し出された後方画面から、残り1台のトラックと迫る獣人の姿にロックオンマーカーがともってゆくのをその無感動な目で眺め、全てが完了すると同時に発射ボタンをこすっていた。
軽く仰角を取った6本のミサイルランチャーから轟音が走る。
空へと打ち上げられた短距離ミサイルは、その先端に装備された電子機器の導きに従い、ぐるりと宙返りして地面へと舞い戻った。
トラックを貫く2本のミサイル、追いすがる獣人に1人1本が割り当てられ、覆いかぶさる4本のミサイル。
凄まじい爆炎が上がり、呆然とそれを見るキョウとルイスの眼前で火柱が上がった。
「エミ……か? まさか、使ったのか……ミサイル」
キョウが躊躇いながらも言うが、エミは当然のことのように返す。
「使えるものは使うわ。出し惜しみ出来る状況でもないんでしょ」
やはり、戦争末期から突然この場所へ送り込まれた人間の思考だった。
キョウにはこの世界で使用可能な短距離ミサイルの6発が、どれほど手に入りにくいものであるか、仕事上でも痛いほど分かってしまっている。
使えと言われても本当にいいのかと返してしまっていただろう。
だが、彼女にはそんなためらいはない。
自分の命より重要事など無いと、それが分かっていると自分では思っていたキョウだが。
知らないうちに自分の命にすら値段をつけてしまっていたのだと気付かされるいっときだった。
「ふ……ふふ……」
リャンは笑っていた。目の前の状況が可笑しくてたまらなかった。
まさかここまで、想定すらしていなかった戦車の一台でここまでやられるとは。
もはや巻き返しの手段はない。そもそも自分がここから生還出来るのかがわからない。
笑うしか無い状況に対してそのまま笑っていた。
「やってくれたわね、キョウ=スズキ。……まさか貴男がここまで思い切りの良い人だとは思わなかった」
命の次くらいには弾を惜しむ男だと思っていた。
それがこの世界で生きる人間として当然の作法だと。
ならばこちらも、そうしよう。
命を危険に晒してまで使うかどうか悩む、そんな物は存在しないと教えられたのだから。
「なぁっ!?」
クリスの悲鳴があがった。
戦車の右前輪が突如として吹き飛び、彼の前に並ぶモニターのうち一つが警告音を奏でる。
いったい何を食らったのか。
8輪を持つこの戦車が、そのうちたかが一つ吹き飛んだ程度で運転に影響を及ぼすものではないが。
それが連射出来るものであるとするなら危険だ。これの装甲も役には立たない恐れがある。
彼はモニター付属の小さなキーボードを操作すると、側面モニタの一つを周囲の索敵に割り当て、その原因となるものをさぐっていた。
そしてほどなくして見つけ出す。
小銃のような物を構えた狼女の姿を。分析結果が出るまで更に1秒を待ち、彼は呻いた。
「04式電磁歩槍――あいつらのレールガンかよ」
砲塔の上で、キョウもそれを確認していた。
ハンドガンとして作られているキョウのレールガンと違い、それはスナイパーライフルだ。
キョウのものはバッテリー内のパワーを1弾倉を撃ち切るために使い尽くし、長いチャージ時間を必要とするが、リャンの持つものはそれとは少し違った。
1射ごとにチャージを行う。しかしそれにかかる時間は20秒ほど。
レールガン用弾薬の調達が難しい今の世界で、どちらがすぐれた兵器なのか。
考えるまでもなくあちらだろう。そもそもキョウの持つそれは数時間前に使用し、未だにそのチャージが完全には完了していないような代物なのだから。
「煙幕を張れクリス! やつは――俺が引き受ける!」
そう言って戦車から飛び降りる。
二式動甲冑が除装され、一瞬だけその顔を見せるキョウ。
しかしその顔はすぐに割れ目が入り、3秒弱をかけて外骨格と複眼に覆われていた。
「来たわねキョウ……インセクト!」
その接近をリャンは迎え撃つ。スナイパーライフルを両手に構え、片膝をついて。
これが吐き出す銃弾の速度はマッハ7である。
たとえ強化人間の反応速度であろうとも、撃たれてから躱せるようなものではない。
狼のヘルムは右目を失っていたため、今はそれを外していた。
金色の瞳を輝かせながら、スコープも使わず彼女はライフルを構える。
幾度も繰り返した射撃訓練が意識せずとも全く同じ姿勢を彼女に取らせ、反動に備えさせる。
そして、彼女は引き金を引いた。
無駄な感慨も余韻も無く、次弾発射に20秒かかるライフルを地面に投げ捨てた。
キョウはリャンへと駆けながら、腰の後ろから伸びる杖を抜く。
彼の複眼には見えていた。リャンが引き金を絞ろうとする指、そして筋肉にかかる力の全てが。
そしてレールガンが発射される一瞬前に上体を横へとぶれさせる。
銃口がこちらを追うような素振りはなかった。通常そのような事をしては狙いがつかなくなる。
ライフル射撃とは自分自身を銃と化し、的へと自分の身体自体を向けるものである。
小手先で狙うのではない、的に身体自体を合わせるのだ。
いや、強化人間の筋力であれば可能だったかもしれない。
それにレールガンの弾速が加われば、手首だけでも的を捉える事が出来たかもしれない。
しかし強化される前から、兵として染み付いた射撃は変えられなかった。
「ぐっ……ぅ!」
身体の真横を通り過ぎてゆく衝撃波を、杖の磁力フィールドを使って緩和しながら走る。
既に失中をさとっていたリャンは、振動ナイフを抜いてキョウを迎える構えを取っている。
その両者が、激突した。




