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9.USSシャーロット改

 がらがらとシャッターが開き、店の半分を占めるガレージから巨大な箱状のものが走り出す。

 それは戦車だった。完全な主力戦車といえるほどのものではないが、キョウの装甲車と同じく8輪をそなえる、比較的軽いものだ。

 それでも主砲は戦車として必要充分なものを装備しているし、後部には有線式のミサイルポッドを左右3本そなえる、現在の壊れ果てた世界では望める最高の代物と言えた。


「はぁ……まさか本当に使う機会があるとは思ってなかったけどねえ」

 車両下部の運転席に座りながらクリスはぼやいていた。

 毎日のように装甲を磨き、ワックスをかけて、うっとりと眺めるだけだったもの。

 自分の生命に危険がせまればそうしなければならないと思っていた。頼もしく思っていたものではあるが、本当にそんな機会が訪れようとは、と。


「やってみたいとは思っていたんだろう?」

 キョウはそう言う。盗難に入られる可能性を考えれば見せびらかす事も出来なかったものだ。

 実際クリスの声には、隠しきれない興奮があった。

「弾薬費や、あと装甲の修理費についてはキョウにツケとくからね」

 どれだけ派手にやらかすつもりなのか、とキョウはこっそり呟く。

 あと案内人の稼ぐ金で、それは何とかなるものなのか。


 まあいい、全ては生き残ってからだ。彼がやる気になっているのなら願ってもない。


 キョウは戦車の砲手席に座っていた。自動給弾機構があるので装填手は居ない。

 エミは車長兼通信手の席に座っている。通信するような相手もないので、席があるから座ったというだけだった。その二式に包まれた足がキョウの頭上辺りに置かれている。

「……俺は外なのか?」

 ルイスは戦車の上、砲塔に腰掛けながらそう言う。

「流石に米軍のMk82を着たままじゃごつすぎて車内には入れないよ。そいつを店に置いてくる気があるなら別だけどね?」

 クリスがそうこたえ、ルイスは肩をすくめながら首を振っていた。


 驚いたように戦車を見上げる住人たちの視線を面白く感じながら、街の門をくぐる。

 行き先は海岸だ。おそらく潜水艦はだいぶ離れた所に潜行しているだろうから、そこが最終目的地といったわけでもないのだろうが。

 と、キョウはふと思いついたようにクリスへと声をかけていた。

「川へ向かった方がいいかもしれないな」

「……川だって? ……ああ」

 言われて、クリスも気づく。潜水艦を沈めようとするのなら、その浮上を待つ気がなければ爆雷を使うだろう。

 キョウを待ち伏せた時の襲撃でロケットランチャーを使い切ったのなら、なおさらだ。


「でも東京湾へ流れ込む河口かあ。どれがそうかな」

 問いかけるクリスに、キョウは地図を開きながら言っていた。

「とりあえずは荒川だ。川に沿って南下し、海岸にまで着いたら考えよう」



 6時間。

 USSシャーロット改の指揮室で、その艦長は苛立たしげに椅子を叩いていた。

「既に任務は終わっているのじゃないか。定期連絡すら寄越さないというのは、どういう事なのか」

 隣に控える副官へとそうこぼす。

 彼より年上の副官は、苦笑しながらそれにこたえていた。

「彼等が装備している通信機は、あまり遠くまで電波を届かせられるようなものではありませんからね」

 この艦の浮上時期を逃しては通信が届かない。

 定期連絡は3時間おきのため、次のそれへ間に合うようゆっくりこちらへ向かっているのじゃないか。そう彼は言っていた。


「そんなものか。連中は二時間半程度を、海岸でぼんやり待っているというのか?」

 ではもう少し浮上する間隔を短くしてはどうかと艦長は言う。

 副官の男はそれに首を振っていた。

「3時間おきという事です。それと違った動きをこちらがするとは、彼等も思わないでしょう。その――なんとかいう補給拠点で酒でも飲んでいるのでは?」

「あのサイバードロイド達がか?」

 面白くもないジョークを聞いた、と艦長は顔をしかめてみせる。


「まあ、しばらく休まれた方が良いでしょう。ここはどうしても息がつまる」

 指揮所はそう狭くもないが、それでも。

 隔壁を隔てた外は海中なのだと思えば、艦内の空気はそれ自体が重苦しく感じられた。

 喉を流れ落ちるのにすら口の中にへばりつくように。

「この中ならばどこに居ようと一緒だよ。……彼等の冷凍ポッド以外ではな」

 吐き捨てる艦長に副官は苦笑を向ける。

 確かにそうだ、そこだけが唯一、ちがう場所だろう。

 だが自分がそこに入る気にはなれなかった。

 もしこの艦に何かあれば、もはや二度と目覚めることもない。そんな場所に。



 リャンは部下たちに大型のボートを牽いたトラックを運転させていた。

 荷台には爆雷が積まれている。年代物だが、問題なく起爆してくれるだろう。

 ボートに積むにはやや重い代物であるし、それを投下するための機構も存在しないが、遺伝子強化兵であればもう自ら投げ込んでしまっても良い。

 こんなボートは今の世界ですら惜しくはないのだから、潜水艦の上まで到達したらこれごと沈めてしまっても良いとリャンは思っていた。


 あとは……どうなるだろう。潜水艦に未だ迎撃能力があるとしても、多少ならば何とかなるか。

 リャンの部隊は待ち伏せを返り撃たれて1名を失い、ミハイルを失って残り9名。

 これだけ居ればまあ問題はない。仮にサイバードロイドがあと1~2体残っていようとも。

 機士修道会の潜水艦が搭載出来るドロイドは、最大で8だった筈だ。


 ではやはり気にしなければならないのは彼――キョウの方か。

 逃げ切った彼が、機士修道会などのために駆けつけるとは思えなかったが、万一という事もある。

 リャンは破損したヘルムをそれでも被り直し、振動ナイフの動作を確認していた。

 そして部下に車を止めさせ、ボートを川に浮かべるべく指示を出し始めた。



「居たよ、トラックが三台。ボートを牽いてる」

 前方センサーから送られてくる情報をかぶせたモニターを見ながら、クリスが言う。

 その声に、キョウは乾いた唇を舌で湿らせながら砲塔を動かしていた。


「こいつには何発弾があるんだ?」

 今更のように訊く。キョウが睨むモニターには照準線が映るだけで、残弾表示などはない。

「手元を見てくれよ、自動給弾装置の方だ」

 クリスにそう言われ、右手を確認すると、そこには20とデジタル表示が見えた。

「エミ、残り2発になったら言ってくれ」

 頭を少女の右足にぶつけながら、キョウはそう言う。

 わかったという返答が頭の上から返り、彼は再び砲の照準へと戻った。



 響くエンジン音に振り返るリャン。

 今や前照灯を点けながら迫るクリスの戦車に、彼女はぎょっと目を見開いていた。

 戦車だと。どこからあんな物を持ち出してきたというのか。

 咄嗟に部下たちに散開の指示を下し、自身もトラックの荷台から飛び降りる。

 地面を転がって逃れながら、戦車の砲塔がトラックの方を向くのを確認する。

 そしてその主砲は彼女の見ている前で、轟音と共に徹甲榴弾を発射していた。

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