Remember-41 ――/――
折角の雰囲気をぶち壊す、作者からの追伸(6/13)
前回更新で11月(去年)に更新開始予定です! と宣言してましたが……今の自分からは正直、「うせやろ……」って言いたい気持ちです。
ほんっっっとうに申し訳ございません!!! 仕事やら「あ、ここで話が拗れた方が面白いな」とか、色々盛ったりやってる間に、11月更新予定が“来年の”11月更新になりかけました……いや、なりかけてます。いや、本当にすみません……
ですが、その分二章は期待は裏切らず、展開は色々掻き乱して予想を裏切る展開にしてみせたと自負します! やっぱりハードル高くしすぎたので下げたいですが、もう言い切ります!
お待たせした分、楽しませてみせますので、どうかよろしくお願いします……!
感想、評価、レビュー等、もしよろしければしていただくと大変励みになります。
――窓から覗く月は上弦。
シンとした空気の夜、その人影は一つの装置と向き合ってた。
「…………」
木製の箱のような装置に取り付けられたダイアルを回し、ガラスの中で指針を動かし、刻まれた数字に針を合わせる。
静かな空気を砂嵐の音で掻き乱す。ザーザーと音を立て始める装置と向き合いながら、一人静かに待ち続ける。
『……待たせた。こっちは直前まで急な仕事が入っててな、やむを得ず簡易通信装置で通信している……ノイズが酷いかもしれないが我慢してくれ。そちらの状況は』
「こちらは拠点から通話しています。ノイズも今のところは問題ないです。状況は……以前に連絡した時と変化はありません」
『そうか……問題を先送りしているようなものだが、それでも状況を保てているのを良しと受け取るべきか……』
装置の穴から聞こえる歳を感じさせる低い声に対して、その人影は高くも落ち着いた声色で冷静に答える。
目の前の装置――通信機器からの声は止まり、溜め息のような息遣いが聞こえてくる。何を口にするか、言葉に迷うように息を吐ききると、機械越しに年老いた声は続けた。
『……変化はないということは、君はまだ行動は起こしていないんだな。それで、どうするつもりだ?』
「どうする、とは何を指しての話でしょうか。」
『すまない、少し抽象的過ぎたな……私が言いたいのは勧誘の件だ』
「……ああ、アレですか」
心底つまらなそうに、機械に向かって一言吐き捨てる。その溜め息は、先程機械越しに聞こえた溜め息に負けず劣らずなものだった。
『最近動き始めた魔術の組織……今まで潜伏していたのか、最近結成されたのかは分からないが……君はその組織から勧誘――いや、君の能力を利用しようとしている組織から引き込みを受けているのだったな。それに対する君の考えを聞きたい。返答によってはこちらも動く必要がある』
「当然、そんなもの切り捨てるつもりです」
静寂に変わって、ノイズが空間を支配した。
静かな砂嵐が束の間ほど続き、“なるほど”と機械越しに鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
『……そうか。だが、そこまで明確な意思を持っていながら行動を起こしていないということは、何か考えがあるのだな』
「やむを得ず、と言うべきですね……ハッキリと明言してしまうと敵対するでしょうから……いえ、きっと連中は私に敵対しない。私が転生使いと知っているからこそ私自身には敵対はしないでしょう」
『そうか……手に負えそうか? 私もそちらへ向かうべきではないか?』
「……大丈夫です。これは私自身の問題。お気持ちは嬉しいですが、私の勝手が招いた厄介事は私の力で解決します」
『そうか……だが、君は少々無茶をしすぎだ。他人の力を借りても――』
「…………もし?」
突然、途切れたように言葉が止まってしまい、確認のために声をかける。
通信が途絶えた……わけでは無いらしい。機械からはノイズに混ざってなんとも言いたげな息遣いが聞こえていた。
『……いや、すまない。今のは失言だ……聞かなかったことにして欲しい』
「い、いえ。私は気にしていませんから! 大丈夫です!」
申し訳なさそうな声がノイズに沈み、少し慌てて大丈夫だと言う。
冷静なガワが剥がれつつも、失言を深く受け止めている話し相手を何よりも気遣っていた。
『……そういうことなら、私は君が助けを求めるまでは動かないし何もしない』
「ありがとうございます」
『礼は良い……ただ、一つ聞かせてくれ』
「?」
『君は何故、拒むつもりでいるんだ? その組織の目的は君の目指すものと同じなのだろう? だというのに、何故?』
機械越しに聞こえる、人の温かみのある声色。
自ら孤独になろうとする姿勢への問い。
それが自身を想っての言葉だと気づき、月明かりで浮かび上がった影は思わず笑みを浮かべた。嬉しさで浮かんだ笑みを、どうにか相手に悟られないように、自身を割り切って、冷静な答えを口にする。
「……彼らが知っているのは魔女である私だけだから。彼らは本当の私自身を知らないから、私の能力だけを値踏みして知ろうと踏み寄らないから、私も彼らに踏み寄らないのです」
見上げた月明かりを眩しく感じて、魔女はとんがり帽子を深く被り直す。
口にした拒絶の理由は、怒りでも嫌悪でもない。優しさをもった言葉だった。
『了解した……簡易装置の燃料が底を尽きる。いつでも応答できるようはしておくから、何かあれば連絡してくれ。遠慮は要らない』
「はい……ありがとうございました」
相手が切り上げると分かった魔女は、礼の言葉を口にした。
ここで別れの言葉ではなく礼の言葉を口にした理由は彼女自身もよく分かっていなかったが、言わずに通話が終わるのは心残りな気がして、頭で考えるよりも先に口走っていた。
『……踏み寄らない、か。やはり、変わらず優しいな。君は』
最後に一言、親愛の込められた言葉と共に相手の声はノイズに沈み、二度と浮かび上がって来なくなった。
通信は終了したと理解すると、魔女は装置のダイアルを完全に回しきり、動力を断った。ノイズが途絶えた途端、静寂が耳障りなほどに感じる。
――そうして、もう一度だけ月を見上げた。
「……いいえ。きっと、私は優しい人ではないと思います。私は、臆病なのが優しそうに見えるだけ――」
月下に魔女は独り呟き、想う。
これは、もう終わった後の物語。終わっているから、既に幕は下りている。観客は当然居ないし、照明も全て消えている。
だからきっと今の私がここに居る“意味”など無い。
「――――はぁ」
けれど、誰も見ていない幕の裏で、私はただ、贖罪のためにここで生きている――




