閑話5 反発者の末路/“責任”の背負い方。
「――よう、ガデリア。久しいじゃないか」
忌々しい声が俺を呼んだ。路地裏に続く道の入り口で、その男は俺を手招いていた。
……なにが久しい、だ。さっきから俺たちを付けまわっていた癖に。あのギルドのユウマとかいう男は気がつかなかったみたいだが、最初から追けられていたみたいだ。
「チッ、まだそんなに金が欲しいってのかよ」
「まあな、情報屋としてお前さんたちはお得意様だったんだぜ? なのに最近は全く顔を出さねぇからよ」
このネーデル王国は中、上流階級どもの巣という訳ではない。こうした表に出てこられない連中が、ひっそりと下水に住むネズミみたいに巣食っている面もある。どんなにギルドが綺麗ごとを主張しても、つまりはこういう訳だ。
「悪かったな。だがもう、反ギルド団体はお前たちから情報を買うことは無い」
「ああ、知ってるぜ。なにせ反ギルド団体は騎士兵様に潰されちまったんだからなぁ?」
「ッ……!」
「まあそう睨むなよ? 別に隠すようなことでもねぇじゃないか。それに事実は変えられねぇ……ただ、気に入らねぇのは――」
「な――!?」
不意に、腕を掴まれて強引に路地裏へ放り込まれる。
振り返って「何をしやがる」、と声を出そうとした口は、続いて襲ってきた強い衝撃で動かせなかった。ニタリと笑った顔で拳を振るった男の姿が、絵みたいに目に焼き付いていた。
「てめぇらの中に、俺たちについて情報を漏らした奴がいる……一昨日は一人、昨日は三人も騎士兵に俺たちの存在を掘り当てられて捕まっちまった! 次は誰だ……? 俺か? それともあいつらか? てめぇら反ギルド団体のヘマのせいで俺たちまで震えていなきゃならねぇんだよ! オラッ!」
もう一度、頭が揺れる。
口から血の味。気を強く持って揺れる視界から立ち直ると、ぞろぞろと人が集まってくる。助けではなく、この男と同じ情報屋の連中だ。
同じく騎士兵に取っ捕まるのを恐れ、反ギルド団体の俺を半殺しにでもしないと気が済まないような連中だ。
「オイ! 何か言ってみろよ……反省の言葉か? 反ギルド団体がこの程度の組織で申し訳ございませんとかかぁ? なあオイ!」
「ゴフッ……!?」
別の男からの蹴りが腹に入る。ちゃんと鳩尾に入れてくれれば、こんな地獄から意識だけは逃げられたかもしれないのに。激痛が左腹に居座って、ジリジリと負傷を訴えてくる。
「ッ……クソッ、クソッ……クソがッ……!」
……悔しい。誰にも聞こえない声で反吐のように悔しさを噛み締める。
反ギルド団体は、団長は“この程度”なんかではなかった。誰もが生きるために、同じ苦しみを味わう人をこれ以上生み出さないために戦い続けてきた。誇りを掲げず、自ら汚く泥まみれになりながらも信念だけは曲げなかった連中だ。自身を卑下しながらも、誰にも見せない“誇り”だけは皆胸に抱いていた。
それを、こんな、楽して金が欲しいだけの、連中、なんかに――
「なぁ、反ギルドの小僧ッ! 落とし前って言葉、知ってっか? 不始末にケリをつけるための言葉なんだってさ! ハハハッ!」
キン、と粗雑にナイフを鞘から引き抜く音。揺れる視界では刃渡りは分からない。でも、こんな俺を殺せる程度には立派なものだろう。
……馬鹿どもめ、そんなものに金を使うぐらいなら、馬車に金かけてこの王国から逃げればよかったのに。
「ゴフッ……そんな、俺を殺して、ッ……意味があるのかよ。俺の死で、不始末のケリがつくってのか……? あ?」
「“意味”なんかねーんだよ! テメーみたいなやつのせいでこびり付いて取れねぇ不安をスカッとさせるから殺すのさ!」
「ッ……!」
壁際に蹴り飛ばされる。楽し気な足取りで迫る男ども、ナイフの微かな反射光。
……野暮用のつもりが、こんなことになるとは――いいや、こんなこと、とっくの昔に覚悟して背負って生きていた。いつか俺は、対価を払う必要があるって。反ギルド団体に居た頃、諜報員としての役割を引き受けた時から失敗すればそうなる“責任”を引き継いでいた。
だからこうして、無意味に死ぬのも、別に不満がある訳じゃない。死して楽になるのはずっと前から望んでいたことなのだから。
ただ、まあ。あの暇してる連中が俺の死を知れば、どんな顔をするのかは興味あったのだが――
「……よっ、随分と楽しそうだな。俺は遠慮したんだが、今日限定商品の“酒入り氷菓”をみんなで仲良く食べてたのか?」
……そんな中、暢気な声が聞こえた。
ギルドの、男。そいつの後ろにはグレアまで居やがる。ああ、くそッ。こんな情けないボロボロな姿、見せたくないから置いてきたのに。
「あ? おい兄ちゃん、去りな。見なかったことにしてどこかに行った方が良い。だろ?」
「ッ……来る、な。これは俺の……責任、のケリだ」
ナイフを見せつけて、穏やかな口調で男はギルドの男を脅す。
それを見たギルドの男は相変わらず何を考えているのか分からない表情で――俺を見た時、初めて明確な感情を表した気がする。
「…………」
「ッ、なんだよお前、来るのか!? オイ!」
ブン、とナイフを何も無いところで振って威嚇する……が、ギルドの男は全く気にもとめず、こちらに歩いてくる。
余裕のある歩きだ。武器も防具も身に纏っていない癖に、まるで鎧に身を固めた騎士兵のような堂々とした動き。ナイフを構えた情報屋はそれを見て、穏やかではいられなかったらしい。
「ッ、何がしてぇんだ、テメエは――ッ!」
一直線にギルドの男に迫って、首元目がけてナイフを突き出した――!
「――」
真っ向から、ではなく体を少しズラしてギルドの男はナイフの突きを寸でのところで避ける。
……ギリギリだ。薄皮一枚掠めてそうな避け方で、ギルドの男は首元に迫るナイフを避けた――瞬間、爆風が路地裏を駆けた。
「ブワッ!?」
「な、なんだ!?」
……知っている。今の暴力的な旋風。そしてあの、身に纏っている銀色の風のような靄。
魔女狩りで処刑方法はギロチンではなく、火炙りを選ぶ理由は万が一にでも“それ”が起こるのを避けるため――なんて、そんな話を団長から聞いた気がする。
首元を掠めたナイフを利用して、あの男は“転生”してみせた。
「な、なんだお前……がフッ!?」
「立ち去れって言った次にナイフ構えて襲ってくるお前が言うなっての。だよなぁベル? ……今は集中しろ? そうだな……えっと」
ギルドの男はぶつぶつと独り言を口にしながら、ナイフを持っていた情報屋を膝蹴りでぶっ飛ばす。
……ぶっ飛ばす、というのは文字通りで、あり得ない勢いで人が後方に吹っ飛んで行く様は、彼やあの王女の実力が、根底から違うということを理解させられる。
一方、ギルドの男は大層呑気なもので、残った情報屋の残党を指差しで数えている。数え終わると、その指さしていた手をピッ、と振り払うように握り直して一瞬、俺に視線を一度だけ落とした。
「……なあ、聞こえてるか? 俺さ、アンタと同じように色々裏の事情を背負い込んで、最後にはそんな感じにボロボロになっちゃった男を一度見たことがあるんだ」
「な……に、を」
残党のうちの一人の手首を掴んで、壁に向けて投げ飛ばしながら、その男は語る。
その表情は、何かを弔うように、寂し気を隠すみたいに微笑んでいた。
「その人は最初、自分の意志で動いていた。誰かのために、何かのために……でも最後には、彼に同調した周りの人間が手に負えなくなってさ、止めたくても止められないような、そんな暴走した状態になっていたってさ」
取り巻きの情報屋もただではやられない。慌てて持ってきた急場しのぎの武器をそれぞれ構えて、ギルドの男に向ける。
そんな光景を前に、ギルドの男は二歩、三歩距離を取って、ふぅ、と息を整えて続けた。
「あの人、他人からおっ被せられた“責任”ってやつのせいで命を賭けちゃったんだ……最後には納得して死んだみたいだけど、俺ならあんな最期、きっと死ぬほど後悔する……と思う」
「ッ! ま、待て……その男、って、まさか」
「……まあその、なんだ。だからさ、お前はそうならないでくれよ」
このギルドの男が語る、ある男の末路。
……聞いたことのない部分もあるけど、知っている気がする。俺が誰よりも尊敬した、あの人。その尊敬する人に、お前はああは成るな、と。
「記憶喪失なりに生きて、少し分かったことがある。責任はちゃんと背負うべき物だけど、その責任のせいで人が死ぬようなことはダメなんだ。責任は入水自殺のための重石じゃない。強風とか荒波に逆らって自分を貫き通して前に進むための重石なんだ……って。だからさ、それを背負いたいのなら、生きててくれよ」
前髪を雑に掻き上げて、相変わらず素手のまま、ギルドの男はその言葉を俺に投げかけると、残党を狩るように飛び出して行った――
入れ違うように、グレアが俺の元に駆け寄ってくる。争いの場がギルドの男のおかげで離れてくれたから、ようやく近くにまで来られたのだろう。手には包帯とか薬の入った小瓶とかが握られている。
「グレア……何故ここに来た……」
「……さっきのユウマさんの話、僕もなんとなくわかるよ」
「……?」
「昔、団長が一人でいる時にさ、とても寂しそうな顔をしているのを何度か見たことがある。どこかで諦めちゃったような、そんな顔」
「ッ……そんな、何で」
「きっとユウマさんの言う通り、あの人は他人の“責任”をずっと背負って今まで生きていたんだ。きっとあの人は、沢山の家族に囲まれていただけで、あの人自身は酷く孤独だったんだと思う」
……弟は、こういうやつだ。いつも誰かの表情を伺って生きている。
自分たちが生きることでいっぱいいっぱいな俺とは違いすぎて、意見が合わないだろうと思って、今までまともに話を聞くことはなかったが……コイツには、団長はそう見えていたのか。
「あの人……あんなに人に囲まれて、あんなに笑顔でいたのに……ああ、それに気がつかないなんて俺は子供だ」
「違うよ! ガデリアは僕の兄貴じゃないか! 君が子供だったら僕はその何だい!? 子供の子供になるじゃないか!」
「そうじゃねぇよ……アホめ」
まともに話を聞いて初めて分かった。俺の弟はアホ野郎だ。思わず笑ってしまうような、そんなアホ。
……遠く。あとほんの少しの間もなく情報屋の残党とギルドの男は決着を付けるだろう。その光景を、俺は色々な思いを浮かべながら、ただ眺めていた。
■□■□■
「……何があったのかと思ったら、そんなことがあったのね」
「えっと……ハイ」
「いやいや、怒ってるわけじゃないのよ! ただまあ……災難だったわね、ユウマ君」
「災難だったのはそっちのガデリアだと思うぞ。聞いた感じだと、一方的な因縁をふっかけられたみたいなものなんだから」
あれから場所は移動して、現在はギルドの広間。グレアの手を借りて、俺たちは負傷したガデリアを連れてここまで来たのだった。
俺に怪我は無いけれど、ガデリアの怪我は無視できない程に酷かったので、今こうしてレイラさんが薬を塗ったり、彼の捻挫した部位を添え木で固定していたりする。
……最近よく嗅ぐなぁ、この臭い塗り薬。変に清涼感あるのが未だに慣れない。
「……そういえば、ガデリアは諜報員だったな……その役職にそんな危険が潜んでいたとは。元リーダーとして、しばらくは俺が護衛に付いていた方が――」
「はいはい、君は書類仕事以外しちゃ駄目なんだって。運搬業務すら与えられない体で護衛なんてさせると思う?」
「む、むぅ……」
後方から護衛を立候補する岩のような顔をした大男に、レイラさんは雑な対応で流す。
今のこの男がレイラさんの担当で、そして何よりも彼こそが俺とシャーリィが死闘を繰り広げた、あの痛覚の無い弓銃使いの男本人だ。あの後、怪我は回復したが痛覚の異常は治らず、現在は安全な書類仕事を中心に行わせて社会復帰をさせているらしい。
……ぶっちゃけて言うと、こうしてお互い平然と隣に立って和解できているのが不思議だ。あの時の傷の恨み! 殺してやる! ……みたいになっても不思議じゃない因縁があったのに。
「ユウマ君も、だいぶ無茶したんでしょ? 裏社会の連中を六人ぶっ倒しただなんて。ほら、背中とか怪我してないか見せなさい!」
「いやいや、俺は全く怪我してないって――ちょ、お前!? なんで俺を拘束する!?」
「すまんな小僧、今の俺はレイラの手伝いなんだ。これも手伝いだと判断した」
「おーけー、流石仕事を覚えるのが早いわね。腕抑えるのは任せたわ」
「ぐッ……やっぱりあの時の恨みでも持ってるのかコイツ……!」
やはり、転生抜きでの純粋な力ではこの大男の方が上だ。不意打ちで両腕を取り押さえられたらもう抵抗できず、ガデリアの隣に無理矢理座らされてしまう。
……ってほら、やっぱり怪我してないじゃん! だからレイラさんその薬壺近づけるのやめて! めっちゃ臭うから!
「……ユウマ、さん」
「ぐおおおおッ……、ん?」
薬の臭いから離れようと、首の可動域の限界に挑んでいる真っ最中でふと、隣からガデリアに呼びかけられる。
「……今日は、その。ありがとうございました。今後も、よろしくお願いします……頑張りますんで」
「…………お、おう」
初対面の時とは全然違う雰囲気。不思議と毒気が感じられない声に、変に反応してしまった。
「! ガデリア、お前ってそんな素直な奴だったか……?」
「フフッ、ユウマ君ったら人気よね~」
「ッ、ええい茶化してるんじゃないよレイラさんに拘束野郎! ホラ見ろ、怪我はしていないんだからさ!」
隣から茶化すようにツッコミを入れる二人組の手を逃れ、乱れた服を着直す。そのまま逃げるように広間を後にして、自室にへと帰った。
『……これをきっかけに、反ギルド団体が市民と打ち解けると良いな』
「……まあ、そうだな。初めはガデリアが不安だったけど、きっと根は良い人なんだと思う。だからきっと、反ギルド団体の人達みんな、悪い結果にはならないさ」
■□■□■
……今日は快晴で、絶好の出発日和だ。
反ギルド団体の一件を解決してから何日経ったのだろうか。色々な出来事が起こっていたせいで、決して短くは感じられなかった。
『出発直前なのに観光で歩き回ったせいでヘトヘトになる、だなんてことは勘弁してくれよ?』
「分かってるよ、流石にそんなヘマはしないさ。疲れながら馬車に乗ったら地獄を見るのはもう学んだ」
思い返せば、シャーリィと共に馬車を乗ったあの日はいつだったのだろうか。鮮明に思い出せるけど、遠く昔の出来事のように感じられる。
異世界で倒れていてベルと出会った事も、転生使いとして覚醒したことも、シャーリィと共に反ギルド団体を鎮圧したことも……そうした出来事がみんな遠い過去に感じられるのは、自分が“今”に固執しているからだと思う。
今の自分には居場所がある。胸を張って「これが俺の暮らしだ」と言い張れる営みがある。親しい知り合いを数えようにも、両手じゃ足りないぐらいにできた。
……だからこそ。これからもう間もなく冒険に出るというのに、後髪を引かれてしまってこんな感じに散歩なんかをしてしまっているのだが。
「あ、ユウマさん!」
と、横からそんな俺を呼ぶ声がした。ちょうど荷物を馬車に積み込み終わったらしいグレアが、俺の元に駆け寄ってくる。
こちらもこの王国を立ち去る前に、ちょっとした立ち話をしておきかったから有難い。
「グレア! こんなところで出会うとは……普段の仕事場から離れてるけど、新しい仕事を任せられたのか?」
「はい! 今日から新しい仕事を任されたんです! ペーターさんがこの仕事なら任せられる……ああいえ、他の担当してる二人がくせ者過ぎて手が空いていないとかで……」
『……ペーターさん、苦労してるんだな』
ポケットの中からそんな同情の声。そういえば、レイラさんとペーターさん、バーンさんの三人組だった頃も何かと苦労している立ち位置だったのを思い出した。
新しく元反ギルド団体の人達も増えても、そんな苦労する立ち位置なのは今も変わらないらしい。
「? 今ユウマさん何か言いました?」
「ッ、いや、何も! それより……えっと、ガデリアとはどう?」
「ガデリアですか? 今日は彼とも一緒に仕事をしてますよ。ほら、あそこ」
グレアが指をさした先を見ると、そこには見知らぬ男たちに囲まれているガデリアの姿があった。
以前の出来事と酷似していて少しビックリしたが、当然ガデリアに傷は無く、恐らく仕事仲間であろう男たちと共に笑っている。何を話しているかは聞こえないけれど、多くの人に囲まれて心から笑顔を見せている彼の姿は、以前の自暴自棄だった頃とは似ても似つかなかった。
……きっと、彼は彼なりに自分の居場所というものを得たのだろう。俺はこれから手に入れた居場所から旅立つが、彼はこれからも彼の居場所で幸せになって欲しい――だなんて、いつの日かのシャーリィみたいな祈りを心の中で込めていた。
「…………」
「呼んできますか?」
「……いや、いいよ。休憩時間に一言、元気に頑張ってくれって伝えてくれ」
「はい、伝えておきますね。きっとガデリアも喜びますよ」
「喜ぶぅ? ガデリアがぁ? いや馬鹿にしてるとかじゃないけどさ、今までの経験上だと苦言を一言返されそうで……」
「あはは、そんなことはないですよ。ああ見えてもガデリアはユウマさんのことを尊敬しているんです」
「尊敬ぃ? ガデリアがぁ? いやこれも馬鹿にしてるとかじゃないけどさ――」
……って、いかんいかん。さっきから同じ反応を繰り返している。
些細なやり取りが名残惜しくて、ついつい話が長くなってしまったらしい。話すことは話したし、もうそろそろ切り上げる頃合いだろう。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。二人とも仕事頑張って」
「はい! ユウマさんも頑張って下さいね!」
「おう、頑張るよ!」
「それと組織の名前の件、どうかよろしくお願いしますね!」
「……頑張りマス」
その件まだ覚えていたんだ……名前候補は幾つかうろ覚えで記憶しているので、いつか組織の名前を決める機会があれば彼の意見を尊重しよう。そんな機会があるかは知らないけど。
『……気は済んだかい?』
彼らの元を離れてギルドを目指して歩き出すと、ポケットの中からそんな尋ねる声がした。どうやら名残惜しく感じていることは彼女にはバレバレだったらしい。
「まだちょっと名残惜しいけど、一生の別れって訳じゃないからな」
『そっか。まあ、それもそうだな』
「それにさ、楽しみなこともできたよ」
『……楽しみなこと?』
「またこの王国に戻ってきた時、俺の知っている人達はどうなっているのかがさ。元反ギルド団体の人達は立派なギルド職員になっているかもしれないし、もしかしたら誰かが結婚なんてしているかもしれないだろ? そういう変化が楽しみかも、なんて」
『やっぱりユウマは変わり者だな。普通の人は変化を怖がったり、したがらなかったりするものだけど』
「もう付き合いも長いだろ? 俺はそういう変な奴なのさ」
変化が怖いというのは、不幸になったり死んでしまったり――そういう負の方向の変化が嫌だから怖がるのだと、俺はそう解釈している。
だけど俺の知っている人々はみんな強い。力が強いとかそういう訳ではなく、日々を逞しく生きている。だからきっと、そんな悪いことは起こらない。また訪れた時には良い変化をしてくれる――例えば、その間に起きた何か面白い出来事でも話してくれるだろう――そう俺は信じている。
……さあ、もうギルドの扉の目の前まで到着した。
これから始まるであろう旅の始まりに、ちょっとの不安と大きめの期待を抱いて、羊皮紙に何かを書きながら俺を待っているシャーリィの元へと一歩大きく進みだした――
以上で第一章の閑話は終了となります。
第二章は11月を目標に執筆中です(進捗は現時点で残り10話分程度、練り直しや矛盾点の確認も含めるともう少しかかるかもしれませんが…)。
長らくお待たせしましたが、第二章からもよろしくお願いします……!
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