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Remember-00 ――/プロローグ

――その時感じたのは、恐怖による寒気と強い浮遊感だった。

 一緒に巻き込まれたのであろう木片がいくつかと、こぶし大の石が少々。それらと共に、俺の体は宙に放り出されていることは把握できた。


 足は当然地面についておらず、それどころか地面がどこにあるのかすら分からない。足の下にあるのかもしれないし、背中や頭の上かもしれない。

 風は滅茶苦茶な方向から吹き荒れているし、辛うじて目を開けることができても、この濃霧の中では真っ白で何も分からない。

 分かるのは、致命的()な衝撃()は不意を突いて襲ってくるということだけ。


「――、ッ」


 大きく息を吸い込んで、諦めた。

 助けを呼ぶとか、全身に力を入れて何かにしがみついて踏ん張るとか。咄嗟に行おうとした行動が、あまりにも手遅れだと理解してしまったから。


 何が起きたか分からない。ただ、もう間もなく地面に叩きつけられて俺は死んでしまうことは分かっている。

 ……冷たい風に晒されて手先の感覚が鈍くなるみたいに、俺の心まで冷たくなってしまったのかもしれない。自分の死が妙に他人事に思えた。


(俺は、死ぬんだな……)


 どこかで聞いたことがある。人は生命の危機に直面した時、周囲の出来事がゆっくりに感じることがあるとか。一瞬で地面に落ちるはずの体が未だに宙に浮いているのはそういうことなのだろう。

 だけど、俺にできることは自身の行動を振り返って後悔するだけ。打つ手が思いつかないし、仮にあったとしても、それをやろうとする気力も既に底を尽きていた。


(……このまま、何も出来ずに、誰の役にも立たずに――)


 振り返って後悔する。これは無駄な死だ。役に立たないどころか、親しくしてくれた人たちを酷く悲しませると思う。それはきっと悪いことだろうし、今までの恩をこんな迷惑で返してしまう――それがあまりにも悔しくて、力一杯に拳を握り締めた。

 無駄死にだけは嫌だ。意味なく役に立たずに死ぬことだけは、それこそ死んでも御免だ。


 冷え切った心に熱が宿った。

 歯を食いしばる顎にも更に力が込められて、握り締める拳にも更に力が宿って――ピシッ、と。なんかよく分からない手応えと()()()を感じた。


「……?」


 握り拳に目線を向けると、透明な刃物――鋭く割れたガラス片が握られていた。

 いつの間に握り締めていたのだろうか。力を込めて握り締めすぎたらしく、割れて出来たガラスの刃は赤い液体で濡れていた。


「俺は…………」


 約束があった。その約束は俺でなければ果たせないし、もとより死んでは果たせない。

 だから、助かる確信は無いけれど、できる限り足掻いてみようと思った。


 ガラス片を握り締めた腕をやっと胸元へ近づけた。頭の回転に対して、落下する体も腕の動きも酷くゆっくりで思うように動かせない。

 俺の手のひらを切り裂いたように、このガラス片には刃物のような切れ味がある。これなら、きっと――


「そうだ、こんなところで――」


 ゆっくりと、刃を()()に添える。

 地面はまだ見えない。だけどきっと一呼吸する間もなく、地面が俺の全身を粉々にするだろう。

 だから、自分の何を犠牲にしてでも、何かを失ってでも、俺は生きて約束だけは果たさなければならない。


「俺は――!」


 地面が()俺を()叩き()潰す()まで、あと数秒。


「――絶対に、死ぬわけにはいかないんだ……ッ!」


 ガラス片が俺の首を切り裂くまで、あと――


恐らく初めまして、月夜空くずはと申します。


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