最後の花火
ヒューードン、ドン
海の向こうで花火があがる。砂浜には多くの人が集まり、レジャーシートの上に座って空を見上げている。花火の形が変わるたび、大きさが変わるたび、楽しそうな歓声があがる。
わたしは楽しそうに花火を見ている彼をそっと見上げた。彼はわたしの視線に気づくことなく、花火を見ている。
この花火大会には小さな頃から毎年訪れていた。それも、22歳の今年で終わる。来年には、わたしは就職のため上京することが決まっている。
いつかこの町を出ていくのだろうと昔から思っていた。東京の会社を選んだのは自分自身だ。だけど今、この花火大会に来るのが最後だ思うととてもさみしく感じる。きっと、この町の思い出の中で、花火大会の思い出が強いからだ。この町に住んでいるとはいえ、高校も大学も、電車にのって遠くまで通学していた。だけどこの花火大会だけは、小さな頃は両親と、中学校以降は中学の時の友達と、毎年見に来ていた。
このグループの中で、上京するのはわたしと彼だけだ。
彼はさみしくないのだろうか。この町を離れること。
そう思っていると、彼がふっとわたしの方を見た。
「どしたん?」
「ううん。何でもない。花火、きれいやね」
そう言ったわたしの顔を見て、彼は察したのだろうか。にっと笑みを浮かべてわたしに言った。
「来年は新人やし無理かもしれんけど、再来年は花火大会にあわせて一緒に帰ってくるか」
「お、いいやんいいやん、そうしなよ」
「来年は2人以外のメンバーも集まれるかわからんし、再来年には全員集合ってことでよくない?」
彼が帰るというと、他の友人たちも口々に賛成の意を述べた。
一緒に帰っていいんだ。
そう思うとともに、これからもこの関係が続いていくことが嬉しくて、わたしも自然と笑っていた。
きっとこれが最後じゃない。またみんなで会える。それに彼とも…。
ほんとはいつか、2人で花火を見れたらいいな。
そんなことを考えていると、隣にいた彼がわたしの耳元で囁いた。
「東京では、2人で花火を見に行こうね」
驚いて彼を見上げると、彼はわたしが好きな笑顔でわたしを見ていた。そしてそのまま、彼はわたしの手をためらいなく握った。わたしの気持ちなんてお見通しというみたいに。
きっとこの時わたしは顔が真っ赤になっていたに違いない。
そしてわたしは、返事の代わりに手を握り返した。