第十二話 ダンジョンとタネ(前編)
「んー……、またポーションの空き瓶だ……」
ダンジョン・ティバリス地下五層。捨てられていたポーションの空き瓶を拾い上げながら、ミルミラーレはポツリとつぶやきました。
ダンジョンの中には、冒険者が使い終えたアイテムなど、様々なゴミが捨てられていることがあります。それを拾い集めて処分するのも、ダンジョンマイスターの仕事の一つとなります。
そんなゴミとなったポーションの空き瓶を見つめるミルミラーレ。『はぁ……』というため息と共に、それをポイッと後ろへ放り投げました。
空き瓶はきれいな放物線を描いて空中を舞った後、大きく開かれたタネの口の中へと収まります。そして、咀嚼されることなく、タネのお腹の中へと消えていきました。
「タネちゃん……。それっておいしいの?」
ミルミラーレは、振り返ってタネに尋ねます。
「おいしくない」
タネからはすぐに返事が返ってきました。
「なら別に食べなくてもいいよ。後でゴミに出すだけだし……」
「気にしないで」
ミルミラーレの言葉に、タネは表情一つ変えることなくそう答えます。
「お腹すいてるなら、お菓子あるよ」
そう言って、リュックサックから持参したお菓子を取り出そうとしますが――
「いらない」
「そう……」
タネは相変わらず表情一つ変えず、フルフルと首を振ります。これにはミルミラーレも困ってしまいました。タネがお腹を壊すわけではないのですが、ゴミを食べてもらうことについて、ミルミラーレは少なからず罪悪感を抱いているのです。
ことの始まりは数日前。同じようにダンジョンの整備をしていたミルミラーレは、捨てられていた解毒薬の空き袋を拾ったのです。
いつもであれば、それをリュックに入れて持ち帰った後、破棄するのですが、その日、たまたま付いてきていたタネに、それをどうするのかと聞かれ、『ゴミだから捨てる』と答えたのでした。
するとタネは、『なら食べる』と言って、空き袋を食べてしまったのです。
それ以来、ダンジョンでゴミを見つけると、それをタネが食べるという奇妙な習慣が生まれたのでした。
このことについて、最初の内はあまり気にしていなかったミルミラーレでしたが、日を追うごとに、罪悪感が増していきます。お腹が減っているせいかとも考え、今日はおやつも持ってきたのですが、断われてしまいました。最初に空き袋を食べさせたりしなければ……、と少し後悔もしています。
結局この日も、見つけたゴミはすべてタネに食べられてしまいました。
「――と言う訳なんだよね」
「なるほどねー」
地下百層に戻ってきたミルミラーレは、最近のタネとのやり取りについて、チシィに相談することにしました。
その話を聞いたチシィは、ゆっくりと頷いています。
「なんでなのかなぁ? 食べてもおいしくないみたいだし、お腹も減ってないって言うの……」
首を傾げ、不思議そうな顔をするミルミラーレ。ミルミラーレはタネの行動が理解できないでいました。
「うーん……。もしかしたら、何か仕事をしたいのかも?」
「え!? 自分からお仕事したい人なんているの!?」
チシィの言葉にミルミラーレは驚愕の表情をします。
「あなたと一緒にしないの。タネは自分だけ何もしないのは嫌なんじゃない? だから何かできることをしたいのよ」
チシィは最後に、『多分だけどね』と言って、自身の考えをミルミラーレに話したのでした。
「そっか……、別に無理にお仕事しなくてもいいのに……」
「そこはタネの好きなようにさせてあげればいいんじゃないかしら。そうは言っても、やっぱり今のままじゃだめよね。何かタネにできることを探しましょ」
「うん。それがいいと思う」
チシィの提案にミルミラーレは大きく頷いたのでした。
一方その頃、タネは自室のベットの上で、足を投げ出して座っていました。
(ご飯……、もらえるかな……?)
ベットの上でボーっとしながら、タネは考えます。ミルミラーレがチシィに食事を作ってもらえるのは、それがチシィの役に立っているから。では、役に立てていない自分は、いずれご飯がもらえなくなるのではないかと。
危機感を覚え、ダンジョンへと出かけるミルミラーレについて行き、いらないと言われたものを食べてはみたものの、いくらそれを食べても、チシィは褒めてくれません。
役にたてている実感はなく、かと言って、他のやり方もわからない閉塞感。
タネの生活はチシィを中心に回っており、チシィの作った食事が食べられなくなると考えただけで、背中に寒いものを感じてしまいます。
(はぁ……)
思わずため息が漏れました。相変わらず無表情ではありますが。
――そんな時。
「ケホッ」
喉に違和感を感じた瞬間、可愛らしい咳と共に、タネの口から何かが飛び出したのです。
「ポーション?」
それは新品のポーションでした。タネはベットの上に落ちたそれを見て首を傾げます。
なぜポーションが口から出てきたのかはわかりません。ですが、ミルミラーレと一緒にダンジョンを回っていた際に、彼女がポーションを宝箱に入れているのを、何度も見たことがありました。
つまり、このポーションというものは、『役に立つもの』であるはずです。それをチシィに渡せば、これを持ってきたタネ自身も『役に立つもの』として認めてくれるかもしれません。
そう考えたタネは、目の前にあるポーションをつかみ、ベットから立ち上がりました。
自室の扉を開き、チシィがいるであろうキッチンを目指します。




