第十話 ダンジョンと○○コン(後編)
「お前ら……、何してんだ?」
転移前の部屋に戻ってきたアレックスとジェシカにかけられたのは、エドガーからのそんな言葉であった。
アレックスは盾を構え、ジェシカがその背中を支えるという奇妙な態勢で現れたことに、この部屋中にいた冒険者たちの視線が二人へと向けられる。
「あ、いや……」
「お、お気になさらずー……」
ばつが悪そうに、アレックスとジェシカは互いに距離を取った。
「アレックスさん、ジェシカさん。お怪我はありませんか?」
そんな二人のもとに走ってきたローナが、心配そうに声をかけつつ、アレックスとジェシカの体をペタペタと触り始める。
「大丈夫だ、二人とも怪我はない」
「うん。ありがと、ローナ」
「そうですか……、よかったです」
そう口にしつつも、ローナの表情は晴れない。疑問に思ったアレックスが視線だけでエドガーに問いかける。
それを察したエドガーは、アレックスのところにやってきて、今の状況について説明を始めた。
「とりあえず、四人ほど戻ってきていない……」
エドガーの言葉にアレックスが部屋の中を見渡すと、確かにここには八人しかおらず、四人見当たらない。エドガーの説明は続いた。
「お前たちのところにも居ただろ。リビングソウル」
「……ああ」
「どうやら、全員同じらしい。二人づつに分断されて、あいつにぶつけられた。俺はあそこにいる女の子と一緒だったんだが、彼女が牽制してくれたおかげで、何とか逃げられたんだよ」
アレックスがエドガーが指した方向を向くと、一人の女性冒険者が壁を背に膝を抱えて座っていた。アレックスの視線に気づいた彼女は軽く会釈をし、アレックスも会釈を返す。
「私は、アイザックさんがいてくれたので何とかなりました」
ローナはアイザック――このパーティを率いるリーダーと一緒だったようだ。前衛で奮闘する彼をローナが回復しながら突破したことを話してくれた。
その後も、四人は転移させられた後の話を続けるが、決して楽しい体験ではなかったため、終始、話の調子は低いままであった。
「時間だ、撤退しよう。パーティを再編成する。前衛は――」
リーダーが立ち上がりながらそう言い放つ。あの後、行方不明となっていた四人のうち二人が戻ってきたが、結局、この部屋にメンバー全員が揃うことはなかった。
二人が戻ってこないまま一時間が経ったところで、リーダーは皆に撤収を提案してた。二人が戻ってくる保証がなく、仕組みの分からないこの部屋では、何が起こるか分からないためだ。
しかし、行方不明となっている二人と共にパーティを組んでいるメンバーがそれに反対した。議論の結果、さらに一時間待つことになったが、やはり二人は戻って来なかった。
「結局、あそこはトラップ部屋ということになるのでしょうか?」
「そうだろうな、これだけの危険を犯して成果がこいつだけとは割に合わん」
部屋を後にしてしばらくたった頃、アレックスが先頭を歩くリーダーに問いかけたところ、そんな言葉が返ってきた。
横を向くと、リーダーは手に入れた指輪をコイントスのように、はじいてはキャッチしてを繰り返している。しかし、その軽快な手とは裏腹に、顔はとても険しいものであった。
「この後も大変そうですね」
「他人事だと思いやがって。はぁ……、気が重い。今回は失敗だったよ……」
リーダーが深いため息をついた。彼には地上に戻った後も、この部屋の詳細や、メンバーが行方不明であること等を、冒険者組合に報告する必要があるのだ。
二人を失ったことで今回のメンバーを招集したリーダーには、直接の非がなくても組合から非難されるのは必至だろう。
「俺としては、こういう機会があればまた誘ってほしいです」
「まあ、そのうちな。だが、その時はお前がリーダーやれよ」
軽口をたたいているように聞こえるが、二人を含め、地上を目指す彼らの纏う空気は重く、湿気さえ含んでいるかのようだ。
数時間後、既に日の落ちたダンジョンの入り口に、探索を終えた彼らの姿があった。彼らの目に映ったのは、暗闇に閉ざされた世界。その光景はまるで、彼らの心中を現すかのように暗く静かに広がっているのであった。
* * *
「あれ~?」
時間はアレックスたちがダンジョンを脱出する少し前に戻ります。地下百層にある部屋のリビングに、ソファーに座るミルミラーレの姿がありました。彼女は大型モニターを見つめながら首を捻ります。
「合コンってこんなに暗い雰囲気のものだったかしら? 一体何があったの?」
一部始終を見ていたミルミラーレとは異なり、先ほどやってきたチシィは何があったのか分からず、横にいるミルミラーレに問いかけます。
ミルミラーレからは、この前作った合コン会場に冒険者がやってきたと聞いていたチシィでしたが、モニターに映る冒険者たちの雰囲気は、これから葬儀にでも出席するかのような暗いものでした。
「あのね、最初は良かったんだよ。なんとね! 十二人も冒険者の人が来てくれたの――!」
ダンジョンコンを開催する上で苦労した人を呼ぶ方法。結局いいアイデアは見つからず、十人以上揃ったときに開く扉と、その先に大きな部屋を用意しました。扉に入ってもらえさえすれば、頭数は確保できるという訳です。そして、そこまではうまくいきました。
「――で、みんな会場に来てくれたんだけど、全然盛り上がらなくって……」
「何もない部屋で盛り上がれって方が無理よ」
チシィの言葉に肩を落としたミルミラーレが『うぅ……』と唸ります。
「仕方ないからあれを動かしたの……」
「『あれ』って男女二人ずつを別の場所に飛ばす転移装置だっけ?」
「そだよ。ちょうど男の人と女の人が六人ずつだったから、みんな移動してもらったの」
男女二人で探索する仕組み。少し強引ですが、転移装置を使ってそれを実現させたのでした。
「あれって一本道にモンスターを配置するって話だったわよね?」
「うん! 男の人が女の人を守りながら冒険するって王道で正義で勝利だよね!」
「そ、そうね……。で、どんなモンスターを置いといたの?」
いきなり目を輝かせ始めたミルミラーレに面食らいながらも、チシィは王道と正義と勝利のために犠牲となるはずのモンスターについて尋ねます。
「ん? リビングソウルだよ」
「あぁ……」
ミルミラーレの言葉に、チシィは額に手を当てて苦悶な面持ちとなりました。
「え? なんかダメだった? 地下十七層ならちょうどいいモンスターだと思ったんだけど……」
ミルミラーレが不安そうな表情でチシィに問いかけます。
「確かに、あの階層ならリビングソウルは適正なモンスターよ。だけど、即席で作った二人組で倒せるほど簡単なモンスターじゃないわ」
「うっ……」
チシィから返された言葉にミルミラーレは二の句が継げずにいました。
「それに、あんな狭い場所なら四人パーティでも苦戦するわ」
「……ごもっともです」
うなだれるミルミラーレでしたが、何か思いついたのかハッと顔を上げます。
「じゃあ、モンスターを変えれば問題ないってことだよね!?」
「そうね。でも、ああなった以上、もう冒険者は来ないと思うわ」
二人も犠牲者が出たエリアに、好き好んで近づく冒険者がいるとは思えません。それにあの扉は十人以上でないと開かないのです。誤って入ってしまうこともないでしょう。
「ええー!? せっかく出合いの場を作ったのにー!」
「この世との別れの場になっちゃったからね。残念だけどミリー、もう人来ないだろうし、あの仕掛け片付けといてちょうだいね」
コロコロと表情の変わる妹を見て愛らしく思うチシィでしたが、心を鬼にしてミルミラーレにそう告げます。
「やだー! 頑張って作ったんだもん。残しといていいでしょ、チー姉……」
「う……」
上目づかいで自分を見つめるミルミラーレの瞳に、チシィの鬼がたじろぎます。
「ねっ? いいでしょ……?」
さらに、薄っすらと涙をためた妹の姿を見て、鬼は一瞬で敗北を悟り――
「……まあ、いいわ……。あって害になるものでもないし……」
――すごすごと退散しました。やはり、チシィはミルミラーレに対して甘いのでした。
「ホント!? ありがとチー姉!」
どこか気恥ずかしそうにするチシィに、ミルミラーレが抱きつきます。ミルミラーレもやさしくしてくれる姉が大好きなのです。
「まったく、しょうがないわね」
未だに抱きつくミルミラーレの頭を撫でながら、穏やかな顔をするチシィ。そして、目を細めてそれを受け入れるミルミラーレ。幸せそうな姉妹の姿がそこにはありました。
それから数日後、モンスターと、ついでに宝箱の中身も少し良くなったダンジョンコンの会場が、ダンジョン・ティバリスの地下十七層にありました。
しかしながら、誰一人としてそこに近づく者はいません。完全に無用のものとなり、ダンジョン内のリソースを消費するだけの仕掛けとなっています。しかし、チシィとミルミラーレがそれを気にすることはありません。これが二人の望んだ結果なのですから。
一連の合コン騒動はこれにて終幕。
以上が今回のシスコン姉妹に関するお話なのでした。




