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第十話 ダンジョンと○○コン(中編)

「ここだ……」

 ダンジョン・ティバリス地下十七層。石で作られたフロアの一角に、複数の冒険者の姿があった。

 三パーティ、十二人で構成された冒険者達。普段のダンジョン探索であれば、このような大勢の冒険者が行動を共にすることはほとんどない。そんな滅多に見ることのない集団の先頭を歩いていた長身の男は、共に行動するアレックス達に向け、先ほどの言葉を口にしたのだった。

 その男は今回の探索で即席のリーダーを務めるベテラン冒険者で、一つ目のパーティのリーダーでもあった。彼がアレックス達を含む二パーティに声をかけ、今回の探索が行われることになったのだ。

「これが問題の扉ですか……」

 アレックスは石でできた扉を見つめつつ、緊張の面持ちでリーダーに問いかける。扉自体はこのダンジョンにおいても珍しいものではないが、これだけの人数で探索を進めた経験がないアレックスにとっては、無意識に力が入る場面であった。

 アレックスの周りでも、今回参加したメンバー達が緊張を紛らわすように、扉の正体について議論を交わしている。

「ああ、どうやら十人以上揃わないと扉が開ない仕組みらしい。前回来た時に俺の仲間が扉の開け方を突き止めたんだが、それ以上は何があるか分からないと言っていた」

 リーダーがその丸太のような太い腕を組みながら答えた。今回の目的はこの扉の先を探索することだ。そのためにリーダー率いるパーティは、扉を開く鍵となる十人以上の冒険者を揃えたのだった。

「さあ、そろそろいいか?」

 リーダーが他の十一人に向かってそう言うと、パーティメンバーはすぐさま会話を中断し、各々(おのおの)首肯(しゅこう)することで了承の意を返した。

 それを確認したリーダーも大きく頷き、『では、行くぞ!』という言葉と共に扉に手をかける。

「なんかドキドキするね」

「ジェシカさん、しー」

 沈黙に耐えられなくなったジェシカが、小声でローナに声をかける。しかし、周り空気を読んだローナにたしなめられてしまった。

「こういう時って、なんか無意味に大声出したくならない?」

「ダメですからね!」

 二人がそんなやり取りをしている間に、内開きの扉がギィーという音と共に大きく開かれた。

「なんにもないな……。ここからではトラップの類も感知できないし……」

 エドガーの言う通り、扉を開けた先は、これまでと同様に石でできた空間が広がっているものの、そこには何も見当たらなかった。

 正方形の部屋のようになっているその空間は、十二人が余裕で入れそうな広さではあるが、戦闘をするにはいささか狭いといった感じだ。部屋に通じる扉も、今開けたものしか確認できない。

「宝箱でも出ればいいんだがな。……さて、引き返したい者はいるか? 無理強いはしないぞ」

 部屋の中を一瞥(いちべつ)したリーダーが皆に声をかけるものの、それに頷く者はいなかった。

「よし! じゃあ行こう!」

 リーダーの号令の下、一行はその部屋に足を踏み入れたのであった。



 部屋に入った冒険者たちは各々が持つ武器を構え、何が起こっても対処できるように警戒態勢を取るが、意外なことにモンスターの一匹も出てはこなかった。

「何か仕掛けがあるかもしれない、慎重に部屋の中を調べるとしよう」

 しばらくしても何も起こらないことから、部屋のどこかに何らかの仕掛けがあると踏んだリーダーが、周りの冒険者に声をかける。


 その時だった――


 床に青く光る円状の模様が出現したのだ。部屋の床とほぼ同じ大きさに広がったそれは、冒険者全員を漏れなく円の内側に収めていく。

「退避!」

 唖然(あぜん)としている冒険者の中で、いち早く冷静さを取り戻したリーダーが、部屋中に響き渡るほどの、大きく太い声を上げた。

 その声を聴いた冒険者たちは、開いたと扉に向かって走り出そうとするが、一瞬で床の光が増した。それはまるで、光の内側に冒険者たちを閉じ込めようとしているかのようであった。

「わっ!」

「キャッ!」

 冒険者の悲鳴をかき消すように、大きくなった光が部屋全体を包みこむ。

 しばらくして光が収まると、そこに先ほどまでいた十二人の姿はなかった。しばらくすると青く光る円も消え、再びダンジョンに静寂が訪れた。



「――ッ!」

 アレックスはとっさに持っていた剣と盾を構える。強い光が収まると、そこは先ほどまで居た部屋とは別の場所であった。どうやら転移させられたようだと、アレックスは思考を巡らせる。

 今いる場所は石造りの小部屋のようだが、先ほどまでいた部屋とは異なり、扉はなく、代わりに一本の石造りの通路が奥に向かって伸びていた。

「……アレックス?」

 モンスターが襲ってくる様子もないことから、アレックスは構えを解こうとしたその時。不意に後ろからかけられた自分を呼ぶ声に、驚いて声のする方へ剣を振り下ろそうとするが――

「わっ!」

「……ジェシカか」

 振り向いた先にいるのがジェシカだと分かり、アレックスは慌てて剣を止めた。剣を向けられて驚いていたジェシカが胸に手を当てて、ホッと胸をなで下ろす。

「もー、ビックリしたじゃん!」

「すまん……。いきなり声がしたから驚いてしまった……。すまん」

「え? あ、そっか……、それは私も悪かったわ……。ごめん」

「ああ……、いや、気にするな……」

 ジェシカの抗議に対して、申し訳なさそうに二度謝ったアレックスであったが、それに対してジェシカから謝罪が返って来るとは思わず、とっさに素っ気ない返事をしてしまう。

 後ろめたさから二人の間に微妙な空気が流れるが、先にこの空気を払ったのはジェシカの方であった。

「それにしても、ココどこだろうね? 私たち二人しかいないみたいだし」

「そうだな。恐らく、先ほどの部屋から別々に転移させられたのだろう。合流したければ、あそこを進めってことだな」

 アレックスがこの部屋から伸びる一本の通路を差しながら、自分の考えを述べる。

「二人きりか……、じゃああの通路はデートコースだね!」

「おい、冗談言ってないで進むぞ」

 腕に抱きついてきたジェシカを振りほどいて、アレックスは通路に向けて歩き始めた。その行動にジェシカは口を尖らせたものの、黙ってアレックスの背中を追いかけた。



「止まれ、ジェシカ!」

 薄暗い通路を三分ほど歩いた頃だった。アレックスが後ろを歩いていたジェシカを手で制する。

「どしたの?」

「……何かいる」

「へ?」

 呆けているジェシカを自身の後ろに配したアレックスは、装備を取り出し身構える。

 そして、それは時間を空けることなく二人の前に姿を現した。

「リビングソウルか……」

 通路の先から、二メートル近いボロボロのローブが、フワフワと漂いながらアレックスたちに近づいてくる。

 空中に浮かぶ紫色のそれからは、フードをスッポリと被っているため顔が確認できない。目と思われる場所がわずかに赤く輝いているだけだ。

 唯一ローブから出ている細い腕には一本の杖が握られており、先端に付いた赤い(たま)が鈍く明滅(めいめつ)を繰り返している。

 リビングソウル――死して魔法を操る厄介なモンスターだ。

「どうするの? やっつける? それとも引き返す?」

「今の戦力でやつを倒せるかは微妙だな……。とは言え、戻ってもいずれ追い詰められる……。ならば――!」

 そう言ってアレックスはリビングソウルに飛びかかった。両手に握った剣と盾を使い、リビングソウルを右側の壁に押し付け、動きを封じる。

「――通り抜けるまでっ! ジェシカ、先に行け!」

 その言葉を聞いたジェシカは『分かった!』と言い残し、リビングソウルと組み合うアレックスの後ろを抜け、通路の先に向けて走り出した。

 直後、リビングソウル自体が黒く光り、すぐにその光がはじける。

 衝撃波がアレックスを襲った。その勢いは凄まじく、アレックスの体は空中へと放り出されてしまう。しかし、空中で態勢を立て直すことに成功したアレックスは、うまく通路の奥に着地すると、その勢いをも利用し、ジェシカを追って通路の先へと走り出した。



 時折飛んでくるリビングソウルの魔法を盾で防ぎながら、二人は走り続ける。

「なんか、こないだもこんなことあったよね? 私たち走ってばっか」

「いいから走れ、追いつかれるぞ!」

 空中を移動するリビングソウルの動きは早く、徐々に二人との距離を詰めていく。

 彼我(ひが)の距離が当初の半分ほどに縮められた頃、通路の先に、またしても石でできた部屋が見えてきた。

 その部屋は、先ほどまで二人がいた部屋とほぼ同じ大きさで、出入口も今走っている通路しか見当たらない。完全に行き止まりであった。

 二つの部屋とそれを繋ぐ一本の通路。それが意味するところは、アレックスたちが転移させられたこの空間が、最初から閉ざされたものだったと言うことだ。おまけにモンスター付きである。

 そのことに気づいたアレックスの顔が一気に青ざめる。

 しかし、その部屋には先ほどの部屋と違う点が一つあった。


 部屋の真ん中に、堂々と宝箱が置かれていたのだ。


「ねえ! どうするのこれ!?」

 先にその部屋へ飛び込んだジェシカが、宝箱とアレックスを交互に見やりながら声を上げた。

「開けるしかなさそうだな……」

「でも、トラップとか……」

 すぐに追いついてきたアレックスのつぶやきに、ジェシカが不安そうな表情をする。

「すまんな、ジェシカ」

「へ?」

 なぜ謝られたのかを疑問に思ったジェシカは、キョトンとした顔になるが、その答えはすぐに判明した。

「――やっ!」

 力強い発声と共に、アレックスが勢い良く宝箱の蓋を開けたのだ。普段であればトラップなどを気にして、慎重に行動するのだが、今は時間がない。リビングソウルは着実に二人へと近づいてきている。

「んぅ……」

 トラップを警戒して思わず目をつぶってしまったジェシカが、恐る恐る目を開けながら宝箱をのぞき込む。しかし、宝箱からは煙一つ立たなかった。

 先ほどのアレックスからジェシカに対する謝罪は、宝箱にトラップが仕掛けられていた時のためのものであったが、そうやらその必要なかったようだ。

「指輪……、だね」

「そうみたいだな――、 くっ!」

 宝箱の中身は、青い宝石の付いた二つの指輪だった。二人してそれを眺めていると、不意に後ろから魔法の気配を感じ、アレックスが素早くその方向に盾を向ける。

 その瞬間、リビングソウルから放たれた炎の魔法がアレックスの盾を直撃した。爆発するような音と共に、自身に襲い掛かる衝撃をこらえながら、アレックスは苦い顔をする。

 魔法を受け止めた衝撃で発生した煙が晴れると、そこには次の攻撃を準備するリビングソウルの姿があった。

 魔法の射程圏内に追いついてきたリビングソウルから、次々と魔法が放たれる。その全てをアレックスが盾でさばいていくが、発生した衝撃でいつ吹き飛ばされてもおかしくない。

「ジェシカ! そいつを取れ!」

「うん!」

 アレックスの指示に力強く頷いたジェシカが、宝箱の指輪をつかみ取った。

 その瞬間、二人の足元に、この空間へ飛ばされた時と同じ、青く光る円状の模様が出現した。

 現れた光の輪は徐々に大きさを広げていくが、その間もリビングソウルから放たれる魔法の雨が止むことはない。

 指輪を握ったままのジェシカは、今も敵からの魔法に耐えているアレックスが吹き飛ばされないように背中を支える。その直後、青い円から発せられる光が強くなり、二人の体を包み込んだ。

 光が消えると、そこにアレックスとジェシカの姿はなかった。二人がいなくなったことを理解したリビングソウルは、攻撃をやめ、ゆっくりと引き返していく。

 静けさを取り戻した部屋の中には、空の宝箱のみが残された。


はい、まとめきれませんでした。

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