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第十話 ダンジョンと○○コン(前編)

「チー姉、いいこと思いついた!」

 勢いよく寝室へと走ってきたミルミラーレの口から、そんな言葉が飛び出しました。

「うーん、ミリーの『いいこと』が、ホントにいいことだった覚えがあんまりないんだけど……」

 そんな妹の発言に、チシィは洗濯物を畳みながらため息交じりで答えます。

「今度は大丈夫! 絶対!」

「前もそんなこと言ってたわよね……。で、何を思いついたの?」

 チシィは眉間を押さえつつも、ミルミラーレに話の続きを尋ねました。今までの経緯から突拍子のないことだとは想像できますが、何を考えてきたのかは気になります。


「合コンをするんだよ!」


 チシィの洗濯物を畳む手がピタリと止まりました。

「……あなた意味わかって言ってるの?」

「もちろんだよ!」

 胸を張って堂々と言い放ったミルミラーレの姿に、チシィはあきれ顔です。そんなチシィへ追い打ちをかけるように、ミルミラーレからサラッと危ない発言が飛び出ます。

「合コンっていうのは、男の人と女の人がいっぱい集まって楽しくおしゃべりとかするんだよ。で、いい感じになったら、男の人が女の人をお持ち帰りして、一緒に寝るんだよね?」

「ブッ!」

 前半はともかく、後半の内容を聞いたチシィが吹き出しました。まさか、妹の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったのです。幸い、当の本人はあまり意味を理解していないようですが……

「ミリー……、あなたどこでそんなこと覚えてきたの?」

「ん?、これだよ」

 そう言ってミルミラーレが胸の前に取り出したのは、いつも使っているタブレット端末でした。それをチシィが素早く取り上げます。

「あー、返してチー姉ー」

「変なことに使うなら没収です!」

「うぅ……、ちゃんと使うから返して―」

 チシィがタブレットをミルミラーレの手の届かないところまで掲げると、ミルミラーレはそれ目掛けて一生懸命にジャンプします。しかしながら身長差があるために当然届きません。

「しょうがないわね……」

 それでも、『返してー』と涙目で連呼するミルミラーレに、チシィは深いため息をつくと、ハイっとタブレットを渡すのでした。

(涙をためながら上目づかいなんて反則よ……)

 そう思いつつ、結局タブレットを返すチシィは、ミルミラーレに対して甘いと言わざるを得ません。

「ありがと、チー姉。大好き!」

「はいはい……、変なことに使わないでよ。いいわね」

 満面の笑みでお礼の言葉を口にするミルミラーレに、チシィは一応釘を刺しますが、ちゃんと刺さっているかどうかは疑問が残るところです。

「で、合コンの話なんだけど……」

「まさか、ほんとにやる気なの?」

 先ほど、その話題のせいでチシィの機嫌を損ねてしまった手前、ミルミラーレは慎重に話を切り出しますが、チシィからの即NGはありませんでした。それならばと、上司の反応をうかがう部下のように、プレゼンの続きを始めます。

「今ね、街コンとかカフェコンみたいに、大きな規模の合コンが流行ってるんだって! だからね、ダンジョンで合コンするダンジョンコンもイケると思うんだよ! どうかな?」

「どうかなと言われても、それだけじゃ全然わからないわ。具体的には何をするのよ?」

 熱のこもったミルミラーレの提案でしたが、チシィは手のひらを上に向けて困った表情をしています。

 思ったほど手ごたえがなかったミルミラーレでしたが、プレゼンはまだ序盤、すかさず次の説明に入ります。

「ダンジョンと言えば探索でしょ。だから、男の人と女の人が二人きりで探索できるように特別な仕掛けを用意するの。で、探索を終えたら二人に記念のアイテムをプレゼント。そしていい感じに仲が深まった二人は夜の街に――」

 最後まで言おうとしたところで、チシィのにらみつけるような視線に気づいたミルミラーレは、とっさに口をつぐみます。

「――仲が深まって一緒にパーティを組んだりするのっ!」

 冷や汗をかきながら若干言い直したミルミラーレは、恐る恐るチシィの顔色をうかがいます。チシィもそこはスルーすることに決めたようで、特に何も言いませんでした。

 怒られないと分かったミルミラーレは最後の締めに入ります。

「これがミリーの考えたダンジョンコン。略してダンコンだよ!」

「……いや、その略称はどうなの?」

「え?」

 思わずツッコんだチシィにミルミラーレは『なんで』っといったように首を傾けます。

「いや、いいの……。で、そのダンジョンコンってほんとに人が集まるの? 危険なダンジョンにそんな目的でやってくるのかしら?」

 略称について説明すると自分が火傷すると考えたチシィは、何もなかったかのようにそれ以上の追及をやめて、別の話にすり替えました。そんな苦し紛れの話題転換でしたが、確かに人が集まるかどうかは重要なポイントです。

「チー姉、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていないと思うんだよ」

「ミリー……、その発言が間違っていないかしら……」

 ミルミラーレは再び疑問の表情となりますが、チシィがそれ以上何も言わないため、話を続けることにしました。

「えっとね。冒険者の人はアイテムに弱いと思うの、だから最後に宝箱とか置いといたら、それ目当てにいっぱい人が来てくれると思うよ。それにね、二人っきりでダンジョンを探索すれば吊り橋効果で二人の仲は急接近! 出会いを求める冒険者の人にはこれ以上はない企画だよ! それはもう大人気のイベントになること間違いなしだね!」

「へぇ……」

 段々と語勢が強くなり、最後には両手を腰に当てドヤ顔で語るミルミラーレ。そんな妹の姿にあっけにとられつつ、チシィは『そんなにうまくいくかしら?』と疑問を抱きます。

 そもそも、宝箱などは質の差はあれど、ダンジョン内を探索すればそれなりに見つけることができます。わざわざダンジョンコンなどに参加しなくてもアイテムは入手可能な訳です。

 では、出会いを求めての方はどうでしょう? 再びチシィは思考しますがこれは全く予想がつきません。もしかしたら需要があるのかも、そう考えるとミルミラーレの案もいけるのではと思えてきました。

「やってみる価値はあるかもね。それで冒険者が増えるのはいいことだし……」

「でしょ!? さすがチー姉、分かってるね!」

「……」

 チシィが肯定の言葉を口にすると、すかさずミルミラーレが反応します。どこか上から目線なその台詞に、チシィが言葉をなくしていると――

「じゃあ、チー姉もダンコンに参加する? 彼氏もいなくて寂しそうだし」

「……なんですって?」

 ミルミラーレの発言に、今度はすかさずチシィが反応します。般若の形相でミルミラーレをにらみつけるチシィの背後には、黒いオーラのようなものが漂っていました。

 この段階になって自身の危機を悟ったミルミラーレは、額と背中からドッと汗が吹き出します。

(あ、これ地雷だったっぽい……)

 ミルミラーレが失言に気づいたものの、時すでに遅し。

 その後、三十分にわたりチシィの説教タイムが始まってしまいました。



「すみません……。調子に乗りました……」

 ウサギ耳をペタンと倒したミルミラーレが謝罪の言葉を口にします。それを聞いたチシィは腕組みを解くと、ため息を一つつきました。

「まあいいわ。いい、これからは人が気にしていることをからかってはダメよ」

「はい……」

 シュンとした声でミルミラーレが頷きました。

(やっぱり、気にしてたんだ……。これからはチー姉に彼氏の話題を振るのはやめよ。正座するのキツイし……)

 未だに痺れる足を気にしつつ、ミルミラーレは心の中のメモ帳に、姉への注意事項を書き込みます。

「で、さっきの話の続きなんだけど」

「……う、うん」

 チシィから切り出された『さっきの話』が何なのか、ミルミラーレは一瞬迷いました。まず、彼氏についての話題ではないことは明白です。では、お説教の際に言いつけられた三日間のトイレ掃除の件でしょうか。しかしこれもミルミラーレが即座に『やります!』と回答しているため、続けて話すようなことは思い当りません。であるならば――

「ダンコンの話?」

「それ以外何があるの?」

 どうやら正解のようです。再び姉の機嫌を損ねてしまうことはなんとか回避できました。ミルミラーレはひとまずホッと胸をなでおろします。

 しかし、チシィの言おうとしている話の続きに見当がつきません。いえ、いくつかは思いつくのですが、先ほどまでとは打って変わって弱気になっているミルミラーレには、否定的な考えしか思い浮かばないのです。

「やっぱりダメ、とか……?」

「違うわよ。ミリーの言うそのダンコンってのを、どうやって開催するつもりなのか聞いてなかったから」

 どうやらミルミラーレの考えたイベントが却下される訳ではないようです。ただ、ミルミラーレは首をひねります。なぜならば、その話は先ほど話したとおりなのですから。

「だから、ダンジョンに男の人と女の人を集めて二人きりで探索を――」

「その人を集めるってどうやるの?」

 ミルミラーレの言葉をさえぎって、チシィが疑問を口にします。

「えっとね。あれ……? どうやろう……」

 ミルミラーレの口から回答が出てくることはありませんでした。合コンというからには複数の男女を集める必要があります。しかし、そう都合よく、何人もの男女がそろってダンジョンにやってくることはありません。

 人の集め方――、ミルミラーレはそのことを完全に失念していました。

「チラシを配るとか?」

「ダメね」

 ダンジョンマイスターが冒険者に直接アプローチするのはご法度です。あくまでダンジョンは自然にできたもの。そのことに対して冒険者が疑問を抱くような行為は、協会から厳しく罰せられます。具体的には運営資金が減額されます。

「こっそりうわさを流すのは? これならセーフでしょ?」

「そもそも、どうやってうわさなんて流すのよ? 流せたとして、ダンジョンで合コンが開かれるなんて突拍子もないうわさ、信じる人がいるかしら?」

「うぅ……」

 チシィの言葉にミルミラーレは不満そうな表情をします。しかし、その反論はもっともであり、言い返すことができません。

「トラップに見せかけてダンジョン内で冒険者の人を捕まえるとか?」

「拉致した冒険者を集めて『じゃあ、まずは自己紹介から』ってやるの? ないわ」

 かなり苦しい提案でしたが、当然のごとくチシィに却下されてしまいました。ミルミラーレもダメだろうとは思っていましたが、他にいい考えが思いつきません。

「……チー姉はなんかいいアイデアないの?」

「ないわね」

 悲痛に満ちた表情で問いかけるミルミラーレを、チシィは一蹴しますが――

「――でも、一緒に考えることはできるわ。おやつでも食べながら考えましょ? ね」

「チー姉ぇ……」

 悲しそうな顔をした妹を、無下(むげ)にすることなどできませんでした。チシィはミルミラーレに優しく手を差し伸べます。その手をミルミラーレがギュッと握りました。笑顔になったミルミラーレにつられてチシィも笑顔を浮かべます。

 手をつないでリビングにやってきた二人は、テーブルの上に様々なお菓子を並べ始めました。

 それを食べながら二人で冒険者を集める案を話し合いますが、やはりいいアイデアは出てきません。そのうちに話は徐々に脱線し始め、最終的には好きなスライムは何色かといった、どうでもいいおしゃべりに変わっていったのでした。

 さて、さて、寝室に取り残された洗濯物たちはいつ畳まれることになるのでしょう。



 それから数日、チシィとミルミラーレは二人で色々と考えましたが、結局いいアイデアは思いつきませんでした。

 それでもミルミラーレの考えるダンジョンコンに向け準備は進めます。その結果、とりあえず男女二人でダンジョンを探索する企画――、というよりは()()()が出来上がりました。

「冒険者の人、来てくれるかなぁ……?」

「大丈夫よ。ミリーが頑張って作ったんだもの、きっと来てくれるわ」

 冒険者を呼ぶアイデアが思いつかず、いつもより弱気になっているミルミラーレをチシィが励まします。

「……うん。気長に待つことにするよ」

「そうね。とりあえずお茶にしましょ。冷蔵庫にシュークリームが二つあるから取ってきて」

「え!? 二つも食べていいの!?」

「一つは私のです!」

 二人はミルミラーレの作ったその仕組みに、冒険者が気づくのを待つことにしました。それにはかなり時間がかかるであろうと思われましたが、以外にもその時はすぐにやってくることになるのです。


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