第四夜 4
パソコンの前から勉強机の方に移動をすると、ウルはあたしの足元でピョコピョコっと、飛びはねた。……椅子に飛び乗ろうとしてる気がするんだけど…、はたから見てて難しそう…な気がする。ヒョイッとウルを持ち上げて、机の上に移動させてあげると、
「……。」
なんとも言えないような表情をして、ウルはあたしの事を見てきた。
取り敢えず知らん振りを決め込んで
「ウル。そこからこの地球儀の地図見える?」
「少し、高さが足りないようだ。」
話題をかえてはみたものの……ですよね。地球儀の地図は上から見下ろすつくりなのに、ウルの目線だと横からになるし。
「じゃあやっぱり抱っこして…」
「いや。そこの本の上に乗れば見えるはずだ。乗ってもいいか?」
えぇぇ、ブックスタンドに置かれた辞書や参考書の上に乗ってまで拒否?
……そんなにあたしの抱っこ嫌なのかなぁ、初めて会ったときも睨んでたし。
変な抱き方して痛かった…とか? うーん。……あれ? 辞書や、……参考書?
「ごめん、乗っていいけどちょっとまって」
置かれた辞書や参考書の数冊をあたしはパララッとめくる。
辞書や参考書を創れるのなら、ウルの勉強方法はわざわざ何かを持ち込む必要なんてないんじゃないか…と思っての行動だった。そして浮かんだその考えが見事に一瞬で砕かれた。
……白紙だった。本の中身全部。
本の形はしてるのに。書かれてるはずの事が書いてない。…これ、本っていうかノートじゃない…?
「どうした?」
「中身、が…」
開いていた本の中身をウルへと見せると
「白紙だな、」
ですよね…。
あんまり直視したくない事実を肯定された。
つまり、これって…。
「本の形ではなく、中身の…文字のイメージも持たないと、本は創れないのかもしれないな。」
ウルも、やっぱりそう思うんだ?
その敷居、高すぎだとおもうんだけど。本の創作は現状無理そうな気がしてきた…。
部屋の電気やパソコンは難しい知識もなく創れたのに。文字を創らないと本はダメってどういう事…
……。
もしかして、そういう物として創ったから? 本としてつくったけど、確かに物語は思い浮かべていなかった…。電気にしても本当は電気じゃなくて、スイッチを入れれば付くっていう電気の様な動作をする何かでパソコンのOSも、実はOSとしては創られてない…、とか?
「想の名前は想像の想って言ってたな? 今後の想像力に期待しておく。」
……なにかを自ら、掘った気がする。
「それより、もう乗っていいか?」
「あ。うん、いいよ。」
若干の後悔を感じつつヒョイっとウルを持ち上げて、ブックスタンドの上にのせてあげた。
「……。」
どうしてまたジトッっと睨むかな……。
その手足とジャンプ力だと、自力で登るのはあぶないって思ったんだってば。
「で、ウルそこから見える?」
「あぁ…。」
感じる視線をスルーして、ウルに本題を振ってみる。
「……。すまん。」
「ん?」
「これだけの範囲の調査は終わってない。
俺達は基本的には生まれ落ちた土地からあまり動くことがなくて、な。」
「あー…そうなんだ。そっか、じゃ…」
「この地図の、──。」
じゃあ、確認はむずかしいよね?
「拡大・縮小はできないか?」
……って、拡大・縮小?
それは、つまり、この…地球儀の?
「モノクルで調べると、世界夢図と書いてあってな。
俺のデータと照らし合わせるすべが欲しい。」
拡大してウルが調べた箇所と同じ場所がないか照らし合わせてみたいって事?
拡大縮小…ねぇ? 例えばこのガラスケースみたいな所がタッチパネルで? スマホのフリックとかスワイプみたいな感じ?
ためしにそっと触ってみる。
タップ──無反応。
フリック──無反応。
スワイプ──無反応。
うん、まぁ、当然? だってそんな風には創ってないし。
「できないっぽい。今日の宣言でかえてみる?」
「余裕があるなら頼む。」
「おっけ。じゃあこれはおいといて。あとは、引き出しの中身かな。この中に入ってるんだけ…」
引き出しから小瓶をとりだして、机の上に置こうとしたらカツンと小瓶と地球儀がぶつかって、指から零れた小瓶が落ちて。
「「あっ!」」
──やばい、瓶、割れるっ!?
あたしもウルも落下前に拾うの間に合わない……!!
と、思ったら落下地点の机がぐにゃりとへこんで、小瓶が跳ねて転がった。
瓶、見事に無傷なんだけど。
──────……。
今の、何…?




